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第10話 俺だけ知らないダンジョン配信の極意を


 連日、カスミに剣術を教え、農作業をし、そしてダンジョンに潜っていると、あっという間にアオとのコラボ予定日になった。


 今日の俺は村経由ではなく、渋谷ダンジョンの正面ゲートからダンジョンに入ろうとしている。

 世間のダンジョン探索者はみんなこのルートなのだが、俺にとっては実に三週間ぶりのことだった。


 さて。

 待ち合わせの時間になった俺は、ダンジョン一階の入り口付近をうろついていた。


 渋谷ダンジョンでは、ゲート外の施設のスペースよりも、ダンジョン内の空間の方が遥かに広い。

 最初から合流した上でダンジョンに入ってもいいのだが、人でごった返してしまうので、それを避けるために、パーティーを組んで探索する場合でも、ダンジョン内で合流することが多い。


 今日の俺とアオもその例に倣って、ダンジョンの現地集合の予定だった。


 しばらくすると、俺を呼ぶ声がした。


「リトドラさん、こっちです」

 

 階段を降りてきた改造制服姿——服装について、こう表現するのが一番手っ取り早い——のアオが、俺の方に向かって手を挙げていた。

 俺も彼女の方に近寄っていき、頭を下げた。


「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。……って、なんか堅苦しいですね?」


 コラボを頼んでいる側として、誠意を見せたつもりだったが、余計な配慮だったようで、俺の言葉にアオはくすりと笑う。


「じゃあ……いつも通りで行くよ」

「それでお願いします。配信はまだつけてないですよね」


 俺の周囲にはドローンが飛んでいない。それで俺がまだ配信を始めていないことを察知したのだろう。かくいう、アオの周りにもドローンは飛んでいない。

 つまり、どちらも配信前ということだ。


「配信を始める前に、打ち合わせをしましょうか」

「ああ、うん」


 俺は頷いたが、どういうことだかよく分からない。

 ダンジョン配信というものは、ドローンを飛ばして、スマートフォンで配信を開始するだけのものではないのか。


「まず、今日は一層の探索からしましょう。一層は人が多くてモンスターが残っていないので、小部屋を回ります。戦闘は二回ぐらい。特別に取れ高を作りに行かなくていいと思います。自然な形で戦闘を撮りましょう。私とリトドラさんが前衛でそれぞれ敵と戦う感じで行きます」

「ああ……うん」


 なんだって? 戦闘は二回? そこまで予定を立てるのか?

 自然な戦闘って、自然じゃない戦闘もあるのか? ってか取れ高を作るってなんだ?

 得られた情報量の多さに、俺は正直ちょっと混乱していた。が、アオはそれに気づかないようで、言葉を続けていく。


「それが済んだら、二層に降りて、今度はリトドラさん主体で強いところを見せます。私は二層は慣れてないですし、戦闘のメインはリトドラさんの方が映えると思います」

「映える……?」


 そこで、俺が目を白黒させていることに、ようやくアオは気付いたようだった。


「あっ……ごめんなさい。私が一方的に計画立てちゃって。これはあくまでこうしたらいいかなって、私の提案です。リトドラさんの配信プランがあるなら、それに合わせて計画を練り直しますから言ってください」

「えっと……いや、その……配信プランとか、俺、考えたことなかった」


 俺は正直に答える。

 頭の中では、配信プランってなんだ? という状態になっている。

 えっ、というか、ダンジョン探索の配信ってそんな計画的にやるもんなの?


「あの……いつもどんなふうに配信されてるんですか?」

「いつもは……配信をつけて、適当にモブ狩ってるんだけど」


 言ってしまえば、行き当たりばったりだ。

 計画なんて立てたことがない。配信ってつけて戦闘してるだけじゃダメなのか。

 なんだかすごく自分がダメな人間になったような気がする。


「ああー……ま、まあ! 配信スタイルは人それぞれ! ですもんね!」


 フォローの言葉が耳に痛い。

 なんなの? もう負けた気がする。

 俺はため息をついた。


「いやごめん、どうやら俺が悪い。配信については何も分からないから、今回のコラボで教えてもらえると助かるよ」


 頭を下げる。

 自分より一回り下の女の子のアオにだ。


 プライドがないと言われても気にならない。明らかにこの子の方が実力が上である。おかしいな。探索者としてのスキルは俺の方が上のはずなんだが。


「そうですか? いいですよ、そういうことなら、今日は私が指導しちゃいますねっ! いやーよかった、今日はリトドラさんにおんぶに抱っこしてもらうことになるかと思って、ちょっと緊張してたんです」


 おんぶに抱っこしてもらうのはこっちの方ですかねえ……。


「じゃあですね、全体の計画はさっき言った通りでいいと思いますけど、一層から二層に移る時、途中で配信を一回落として休憩入れましょう。そこで微調整していきますね」

「あ、はい。色々教えてください」


 俺はアオに言われるがままに頷いた。

 なんだか思っていたのは違うコラボになりそうだった。


 ◇


 で、こうなった。


「あのさ……ドローンのライト、なんで顔に固定してるの?」

「美肌ライトです。女性のダンジョン配信者は顔が命なんで、綺麗に映るようにしてます」


 ドローンにはダンジョン探索に役立てるためのライト機能がある。

 普通は足元を照らすために使うのだが、アオのそれは自分の顔を綺麗に見せるために使用しているのだという。


 眩しくて戦闘しづらいとかならんのかな?

 俺は疑問に思いながらもアオに着いていく。


 最初の小部屋ではこうなった。


「きゃー! やだ近寄ってくるー! スライムくっさ!」

「あの、もう一体始末しといたけど……そいつどーする?」


 俺が一瞬でコアを切り裂いて始末したモンスターから逃げ回るアオ。

 ダンジョン内最弱のモンスターと言われる、スティンクスライムだ。


 確かにまあ悪臭はあるのだが、アオの実力でも……というか、ダンジョン探索者なら誰でも一対一で手こずるような相手ではないはずだ。

 

 スライムで大騒ぎするのは、箸が転がってもおかしい年頃の子だけにして欲しい。ああいや、その通りの年代なのか。


 次の小部屋。にはモンスターがいなかったので、次の次の小部屋のこと。


「ジャイアントアントです! こいつは火に抵抗を持っていて、弱点は睡眠や混乱! 特に呪文やブレスとかは使ってこないし、特殊攻撃もないんですが、たまに仲間を呼びます!」

「うん……そだね」


 巨大なアリを前に相手の弱点や強いところ、それに生態などを一通り解説してから、格好を付けて剣を抜いて敵に切り掛かっていくアオ。

 彼女の説明中に俺の方にいた二匹は投げナイフで仕留めている。


 無論、その後も特に苦戦するようなことはなく、アオがゆっくりと巨大アリを仕留め終わるのをぼーっと眺めていた。


 そうして、先に決めていた所定の戦闘回数を終え、俺たちは一層から二層へ移動した。

 ここで、予定通りに配信を中断して、休憩タイムに入っている。


「あのですね、リトドラさん。ちょっといいですか」


 どこから指摘すればいいのか……という顔で、アオが俺の方を見た。


「その……だいぶ、良くないですね。リトドラさんのは、配信じゃないです」

「そっかーいやまあ薄々分かってはいたけれど」


 俺は同意する。

 確かにまあ、理解はしていた。俺がやっているのはただの戦闘である。配信のことは考えていない。それは認めよう。


「でも、一階では取れ高は作らなくていいんじゃなかったっけ?」


 その点については、アオ自身がそのように言っていたはずだ。


「程度というものがあります! なんですかあれ、リスナーのことを意識してないにも程があります!」


 怒られた。

 可愛い顔の少女に怒られても、怖いという感覚にはならないが。


「いやぁ……配信者って、難しいんだな」


 それが俺の素直な感想だ。

 これから2階の探索に移る予定だったが、とてもアオのようには振る舞えそうもない。

 その辺を素直に告げてみる。


「いえ、いいんです。配信のやり方は一つではないので。私がワー、キャーってするのは女の子の配信のセオリーだからですし。でも……うん。そうですね」


 アオが俺から視線を外して、一つ、二つと頷いた。

 そして、俺に強い視線を向けて言う。


「私にはリトドラさんに助けられた恩があります」

「いや別にそれは大したことじゃ……」

「ですから、もし、リトドラさんがいいって言うなら、私がリトドラさんをプロデュースします!」


 プロデュース、とな?

 まあつまりそれは、配信のやり方などを教えてくれると言うことなのだろうけれど。……実際は何をするんだろう。

 うーん。


「ちょっと考えさせてもらっていい?」


 ひとまず、そんなふうに返したのだった。




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