11.誤算
鮫島の指示により総攻撃が開始される。
「サギナス、一斉攻撃開始」
「特殊部隊総員に告ぐ、エリア内毒素希薄化まで先制射撃攻撃を中心に遂行せよ」
多連装ロケットシステム(通称MLRS)により広域の銃砲弾攻撃が開始され爆音が響き渡り黒煙が舞う。
その頃、最後尾に待機していた偵察部隊の西城隊長は片岡団長と密談していた。
「片岡、どう思う?」
「何か違和感を感じる」
「お前もか。どうして奴はまだ現れない」
これまで多くのダンジョンモンスターとの対戦を繰り広げて来たS級ランカーの二人にとって、目の前で繰り広げられている状況はあまりにも単純すぎた。まだその姿すら見せる事の無い毒魔ベェノス。
「能天気な国家の連中は事態を甘く見ている。ギルド長にも確認したが、今回は戦闘ロボット開発予算を奪い取るため鮫島の圧力が掛けられている。ハンターの力など時代遅れと吐き捨て、その結果最後方の偵察部隊と追いやられている」
非常事態に政治的思想を持ち込む鮫島に対し西城は深いタメ息を吐いた。
「すまない。こちら側の問題だ」
片岡団長は元ハンター相棒の西城の肩を叩き呟いた。
「我々は自分達の出来ることをやろう。仲間の安全が最優先だ」
片岡は独自の判断で鮫島の指示を拒否しギルド派遣部隊を一時待機させる。
銃砲弾攻撃が一段落し開かれたゲートを認識できない程の黒煙が広がる。
「ははははっ。よく見るがいい。サギナスの剣が蜘蛛共を皆殺し、ゲート閉鎖を妨害する糸もレーザーで消滅……」
次第に黒煙が消えゆき事態が鮮明に映し出される。
その姿を一目見た片岡は呟く。
「魔界シールドか……」
魔物達に一切の損傷はなく不気味なゲートは開いたままだった。
「あぁぁぁぁぁ……、サギナス……、な、何をしている。一斉攻撃だ!」
声を荒げた鮫島の見上げるモニターには、整列したまま動かないサギナス部隊が映し出されていた。
ゲートと対峙した三百体の最新兵器は鮫島の指示に一切従う気配はない。
異常を察し画面全体に映し出される一体のサギナス。光沢ある筈の次世代金属は皆、艶の無い白濁した幕を張る。ロボットの各関節部は全て機能不能となるように蜘蛛の糸で制圧され部隊全体の床面にもギラギラと時折反射する糸が見える。
「ゲート開閉機能阻止と並行しながら、奴らはサギナスにも先制攻撃していたんだ。小さな蜘蛛を利用しサギナス配置下に蜘蛛の巣を張り巡らせていた。もはや罠に掛かった獲物、二度と逃げられない」
偵察部隊の西城は手にした銃のスコープを覗き込みそう語った。
轟音が響いた爆撃の後に残る静けさ。希薄された毒素の異様な臭いに交じり、焼け焦げた火薬の臭いは最後方まで流れつく。圧勝と思われた最新兵器はもはやガラクタに過ぎない。怒りに震える鮫島は国家特殊部隊剣英隊の総攻撃を命じ、後方部隊へサギナスの蜘蛛糸削除を命ず。
命令に従い再び繰り出される攻撃、剣は蜘蛛の身を切り裂き徐々に勝機が訪れ始める。その状況を目に、ギルドハンター達も最前線へと向かう。
「防御シールド、強化魔法」
魔術師達は前衛ハンターへの強化と護衛を唱え、戦士はマナを最大限に引き出し九毒蜘蛛目掛け突進する。
「キィ――ン」
剣と強固な蜘蛛脚が火花を散らす。
「片岡団長、一気に奴の視覚を奪います。援護してください」
Aランクパーティの魔術師シルクは両眼を閉じ詠唱する。
「偉大なる大気、聖なる天の清き恵よ我が敵に裁きの牙を!」
「氷の牙」
シルクの放つ攻撃魔法氷の牙は大気の水分を一気に氷結させ、空中から九毒蜘蛛の複数の眼光目掛け突き刺さる。
「ギエェェェェ!!!!」
甲高い奇声を放つ毒蜘蛛の防御魔法が崩れた隙を片岡団長と西城隊長は見逃さなかった。息の合った二人の剣が流れるように九毒蜘蛛の右半身四本の足を切り裂く。
「流虎爪」
「ギエェェェェ!!!!」
上位モンスターはその場に倒れ込み懸命に残された脚でもがき苦しむ。ハンター達の歓声が響く中、片岡団長は足を止めた。
「片岡、少し流れる風が異様にあたたかい」
「あぁ、直ぐに退避すべきだ」
ファイヤ—系の魔術とは異なる異様な感覚を察した二人は直ぐに仲間に撤退を命じる。
「ジージー、本部へ。ギルドハンター片岡です。熱源らしき危険を察知、今すぐ撤退を願います」
モニターに映されたギルドハンター要員、偵察部隊を中心とした国家部隊は後方へと撤退する姿が映る。
「身勝手な行動はするな!
全員戦闘態勢の継続を命ず!! 指示に従わないものは降格だ! 早くサギナスを何とかしろ!!」
鮫島の指示に戸惑いながらも多くの隊員達は再び最前線へと戻った。
ギルドハンター達は片岡の指示に従い全員退避し、偵察部隊の半数は西城の言葉を信じ退避指示を優先した。
「皆、すまない。責任は全て俺が取る」
退避途中においてもなお西城は部下を守る姿勢をみせた。部隊半数は別班となり、元英雄のS級ランカーの落ちぶれた男の声に賛同する者はいなかった。下積み時代の長い彼らの目の前に突如現れ、隊長面した振る舞いを受け入れられなかったのだろう。
「隊長、我々は自らの意思と責任であなたについてゆきます」
魔物と特殊部隊との熱い交戦が続く中、高台から戦況を見つめる沙良と颯、そしてガゼルの姿があった。
「父さん……、何故逃げるの……」
ギルドハンター達と共に後方へと逃げる様に戦況から離れゆく父の姿を目に、颯は不思議な眼差しを向ける。
「フフフフッ、どうやらお前と違って父親は有能なようだな」
状況を理解できない沙良は颯と見つめ合い、その本質を見定めようとする。
「……、罠だ」
ガゼルは静かにそう呟いた。




