12.激突
片岡団長率いるギルドハンターと、西城隊長率いる偵察部隊の一部は最後方まで退避し戦況を伺う。
開かれたままのゲート、向き合うように異様な状態で身動きする事無く整列したままのサギナス、そして懸命にモンスターと戦う特殊部隊。強敵を始末した状況下の中、政府軍はジワジワとモンスターを壊滅へと追いやっていたが非常にも戦闘十五分の時を迎えた。
「カサカサカサカサ」
ゲートの背後から突如現れた九毒蜘蛛の産卵した無数の卵が孵化した新たな敵が、最前線の特殊部隊剣英隊員を喰い漁り巨大化してゆく。
「地獄絵図だ……」
西城の部下は思わず呟いた。
「ビィ———ン――」
猛烈な電子音が響くと同時に放たれたレーザービーム。驚異的な力を見せたのは一体のサギナスだった。
湧きあがる歓声、無線から響く鮫島の声は狂ったように吠えていた。未成熟な毒蜘蛛を焼き切り霧毒を放つ残された卵も壊滅させてゆく。
巨大化した毒蜘蛛は群れを成しサギナス目掛け毒を吐く。全身に猛毒を受けたサギナスに損傷は一切ない。
「ガギガギガギガギ!!!」
怒りに狂う毒蜘蛛は奇声を発し糸を飛散させるが、サギナスは超高速移動で潜り抜け一撃で巨大モンスターを破壊する。
「ブシュッ! ブシュッ!」
ほんの数秒で毒蜘蛛の膨らみを保つ腹部を突き抜け臓器ごと破壊しモンスターの戦力は弱体する。
「はははははっ。見ろっ! 救世主だ!! これが最強兵器サギナスの力だ! 臆病なハンターどもめ、今後ギルドは必要ない。時代は変化する、解散だ」
無線に耳を傾けている事を悟りながら、鮫島は悪意ある意思を持って心無い言葉を叫ぶ。その声を耳に、ハンター達は下唇を噛みしめた。
「わぁあああああ!!! やったぞ!」
「サギナス! サギナス! サギナス!」
モンスター全滅に至り響く戦闘員達のサギナスを称える歓声。
一時の祝福を引き裂いたのは、ゲートの奥から放たれた異様な音だった。
「ゴォゴォゴォゴゴゴゴォ」
深く重い低音が響くと同時に闇の奥から伝わる振動は地盤を揺らし始めた。
「グラグラグラグラ、ゴォゴォゴォゴゴゴゴォ」
吹き荒れる突風はやがて衣服をも焦がす猛烈な熱風へと変化する。
「に、逃げろ!!!!」
最前線で闘う国家特殊部隊は懸命に逃げ惑うが成す術がなかった。彼らが振り返った暗闇の筈のゲートは真っ赤に染まり異世界から大量の液体が放出される。
「ドロドロドロドロ」
「至急連絡! ゲートから放出されし液体は溶岩、マグマと思われます!」
「な、なんだと……」
「七百度……、九百……、そ、そんな……、千五百を超え……、計測不能――」
上空偵察ヘリにて観測した情報だったが、溢れ出す熱気により操作不能となったのだろう回転しながら墜落した。
事前配備されていた最前線の監視カメラからの映像は全て絶たれ、ドローンの遠隔操作映像が映される。
東京都内に流れ出すマグマの川、全ての造形物を溶かし続けドロドロと絶え間なく魔界ゲートから放出される。
「あぁああああ、お、お、俺のサギナスが……」
映像に映されたサギナスの整列したままの次世代兵器は、一瞬にして金属を溶かしその姿を消した。唯一残された一体のサギナスは宙を浮遊し生存者の捜索に当たるが、人影は皆無だった。
国家特殊部隊――、壊滅。
次世代戦闘ロボット部隊、二百九十九体壊滅。
「ククククククククッ」
ゲートから突如現れた宙を舞う一体の黒い影。一見人間のシルエットにも見えるがその右腕は四本あり、奇妙なことに左腕は二本しかない奇形だった。丸く赤い瞳を不気味に光らせ笑っている。
「ど……、毒魔、ヴェノス……」
「ククククククククッ。実にいい眺めだ」
「サ、サギナス全力で奴を消し去れ! エネルギー源の全てをサギナスに供給しろ、レーザービームで奴を殺せ!!」
全ては毒魔ベェノスの計画通り事は進む、九毒蜘蛛の命など捨て駒に過ぎない。まるで角砂糖に群がる蟻の群れのように浮足立つ愚かな人間たちは一掃され大打撃を受けた。
「ビィ———ン――」
ベェノスに向け放たれたレーザービーム射撃。彼は宙に浮いたままシールド魔術を使い防御する。
「ククククククククッ。効かぬわっ」
「ビィ———ン――」
毒魔ベェノスはサギナスを超える速度で移動しその全てを回避する。まるで子供と鬼ごっこをする様に、サギナスを弄ぶ。
「ククククククククッ。もう……、飽きた」
そう呟くとベェノスはサギナスを背後から羽交い絞めし、四肢を引きちぎる。
「ポトンッ ポトンッ ジュワッ」
流れゆくマグマの中へと秒で落とされたサギナスは跡形もなく溶け消えさった。
「ヒューマンどもめ、大人しく通せばよいものを」
魔王四天王の一魔、毒魔ヴェノス。その姿を目にした最後方へ避難していた兵士、ハンター達は恐怖で震え言葉を失い戦意喪失した。
「ご覧の通りだ――、ダンジョンラスボスなど比ではない。ここからは、命の保障は出来ない。
強要もしないし、遠慮も必要ない。勿論、自らを非難する事もない。君達全ての判断を尊重する。
共に戦う意思のある者だけ付いて来てくれれば十分だ。今まで本当にありがとう」
片岡団長は全てのハンター達へ静かにそう告げると、剣を手に立ち上がる。その言葉は最後の別れのように……。
人間の想像を遥かに超えた驚異的な魔王四天王毒魔ベェノス。
『最新兵器も秒で粉々だ……、流石に判断できないだろう』
マナを最大限に上げるべく片岡は集中する。その能力は自身の想定を超える程に膨張し始めた。
「マナ・アンプリフィケーション」
背後から放たれた支援強化魔法、その主は魔術師シルクだった。
「私も行きます」
「おいっ、俺にもブーストしてくれよ。最高のなっ!」
攻撃メインのアタッカー片岡団長の盾となるべく、タンク役を佐々木はかってでたがその足は微かに震えていた。
「君達の気持ちは俺に託してもらおう」
ギルドメンバーの一団に姿を現したのは、偵察部隊長西城だった。桁外れの毒魔の攻撃はAランクタンクでは防げても一撃だと判断した彼は元S級ランカーの誇りを胸に参戦を表明する。
「接近戦で奴のスピードにAランクでは対応できない。私と片岡団長で闘う。君たちは後方支援で回復、強化支援、攻撃魔法で協力して欲しい。佐々木君、君の盾となるタンクの力で魔術師達を守って欲しい」
「それなら私たちにも協力させてください」
多くのハンター達は後方支援として片岡、西城のサポート役として参戦する事となった。
剣を手に西城は自らの部下に、最後の指示を出す。
「プチンッ」
首元にかかる軍事識別認識票を引きちぎり手渡した。
「私に万一の事があれば、これを息子の颯に渡してくれ」
あまりにも無力な存在である悔しさを滲ませた部下達は静かに敬礼した。
「行くか」
二人は握りしめた拳を三回ぶつけ合い、互いの生還を誓い向かう。
毒魔、ベェノスの元へと――。




