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北緯35度41分、東経135度41分、東京某所 政府輸送用ゲート。
「ジージッ、こちら国家特殊部隊狙撃班配備完了、一斉射撃準備完」
「ジージッ、ジッジッ、了解。これで特殊部隊は総員配備したな。こちら指令本部ゲート解放まであと一分四十秒」
魔界協定において、食料、医療、産業機器、エネルギー資源等の物資供給が交わされ不定期に特殊ゲートを使用し異世界へと運搬されている。開かれるゲートの規模は約二十五メートル、解放時間十五分。
軍部輸送担当者達の安全を考慮し、最前線となる輸送業務は急遽AIロボットをフル動員される事となった。勿論通常の労働支援型作業ロボットではなく、完全武装の戦闘用ロボットが三百体待機していた。
「総理、ご安心ください。今回、毒魔ヴェノスは単独行動です。幾ら四天王の一魔と言えど大量の魔族を引き連れてくることはないでしょう。我が国最高品質の次世代特殊金属に良質の魔鉱石で防護武装した戦闘特化ロボット通称『サギナス』のお披露目には最高の相手だ。眼光から放たれるレーザービームで一瞬にして魔族を消し去ってみせます」
防衛戦闘総監の鮫島は得意げに語る。彼の狙いは新たな戦闘用ロボット政策のための開発費用増加だった。
最前線は戦闘用ロボット、その背後に国家特殊部隊剣英隊、火炎部隊、銃器部隊、狙撃部隊、ギルド派遣、国家偵察部隊と連なる。
「深層ダンジョンからのループはまだなの?」
「はい総理。ラスボス地点から十五分程後退する必要との事でしたので、二分前後遅れての参戦が可能かと思われます」
国内唯一のS級ランカー片岡団長、経験豊富な彼の一刻も早い帰還を総理は待ち望んでいた。
「確か偵察部隊に片岡団長と同じ元ギルドのS級ランカーが在籍していたわね」
「残念ですが今の彼は任務により負傷しており、B級以下かと……」
「構わない、経験豊富な彼らの助言を聞きたい。繋いで」
総理の指示のもと颯の父、西城隊長へと無線が繋がれた。
「総理、魔界協定が交わされた後、魔王の権力により他異世界からの侵略攻撃は一切なくなりました。魔王の力をもってしてもなお未開拓なダンジョンは存在し、闇に潜むモンスター討伐と魔族のエネルギー源となる戦利品分配が共栄共存の一つとなっています。
魔王はこれまであらゆる世界を侵略、そして破壊を繰返し全てを無にして来た。無とは何も生まない。その状況を理解した故に交わされた魔界協定。魔王が死んだとしても、魔族たちに既に供給されるエネルギー源を全て放棄するとは思えません」
「西城隊長。つまり、あなたの見解では魔族が攻撃を仕掛けてくるとすれば、毒魔一魔の反乱」
総理は西城隊長の意見を受け止める。
「そうです。恐らく奴は我々の先制攻撃を待っている。この地球を共存共栄ではなく完全支配下にすべく口実を作ろうとしている。失礼ながら、私見ですがこう考えています」
『魔界協定第六条、魔族殺略は死罪――』
「ジージジッ―、ゲート解放まで残り二十秒。十秒よりカウントダウンに入る」
「総理より総員に告ぐ。如何なる理由があろうとも先制攻撃は禁止する!」
「ジージッ、了解」
「こちらゲート管理部門、通常輸送ゲート解放時間は十五分間。魔物侵入確認次第、魔界協定第二十一条、無許可のゲート侵入違反により強制閉鎖を行う」
「ゲート解放カウントダウン開始――、十、九……」
指令室巨大モニターには小さな黒い闇が映し出され、ジワジワと巨大化してゆく。
「ウ—―、ウ—―――ゥ」
現地に鳴り響く警告音に緊張が走る。
「五……、四……」
「深海ダンジョン、移動ループ電力値に変動あり。ギルドS、A級ランカー間もなく到着します」
「間に合ったか」
「二……、ゲート出力最大値到達。カウントダウン完了、ゲート解放」
時空を振動させながら発生した巨大な闇、魔界へと繋がれた異空間ループゲートが完全開放された。総員に緊張が伝わるなかモニター中央に一体の魔物が現れる。
「カサカサカサカサ……」
体長十五メートル、八本の足を小刻みに動かしながら周囲を見渡す様に全身に点在する複数の赤い目を光らせる。
九毒蜘蛛、九種の毒を持つ上級モンスターが不気味に出現した。
「シュ—―――ッ」
「モンスター出現! ゲート封鎖!」
ゲート指令室の緊迫した言葉を耳にゲートに視線が向けられる。
「おいっ、どうなっている? ゲートが閉じない!!」
「シュ—―――ッ」
九毒蜘蛛の下腹部に無数の小型毒蜘蛛種の姿が発見さた。現地に響く異様な音は視覚では確認できない蜘蛛糸が放出される際に発せられたものだった。緻密な策略でダンジョン封鎖を阻止していたのだ。
「ジ—―ジ—―ッ、ゲート封鎖不能! 至急攻撃命令を願う」
「総理!」
「今、攻撃すれば毒魔ベェノスの思惑通りになる」
ただ見守るしかない状況は更に悪化してゆく。
「ボフッ、ボフッ、ボフッ、ボフッ」
「な、なんだあれは……」
ネチャネチャとした粘膜を引き延ばしながら九毒蜘蛛はゲートの入口を避け、その後方に楕円形の異物を吐き出す。
「ジ—――ッ、ギルドA級ランク応援部隊到着」
深層界からループ帰還の報告を受け直ぐに片岡団長に無線は繋がれた。
「挨拶は抜きにして、片岡団長アレは一体何なの?」
無数に積み上げられた異物は既に五十を超える。
「九毒蜘蛛の卵です。産卵後はまだ一種の弱性霧状毒しか発しないレベルの低いモンスター種です。ただ、厄介なのはその急激な成長速度、産卵後の孵化までの時間は僅か十五分。捉えた獲物を直ぐに吸収するので三十分も経過すれば五種の毒を扱う特殊体質まで成長可能です。勿論、人間も栄養源として吸収対称となる。孵化する前に手を打たないといけません」
繰り返される計算された事態の悪化になす術もない。上位ランク九種の猛毒を使用する凶悪なモンスター、奴に従いちょこまかと忍びのように蜘蛛の糸を広げゲート開閉機能を阻止、そして数分後には新たな上位モンスターの大群が孵化される。
『魔王四天王の一魔、毒魔ベェノスを甘く見ていた。私の失策だ……。奴はゲートが直ぐに閉じられる事を予想し事前に策を講じた。万一閉じることに成功しても産卵期の九毒蜘蛛を送り込むとは……』
「総理! 今すぐ戦闘ロボットの使用許可を!! 魔界協定など糞くらえだ!」
「至急至急! ガス濃度急上昇! ゲート周辺半径二十メートル区域内致死量の猛毒ガス検知。産卵した卵の殻が酸化し毒素に変化したもよう。特殊部隊防毒マスク着用、B前線区域迄の後退を命ず。後方部隊も続け」
産卵から孵化までの間、他モンスター種からの攻撃を防ぐための防衛反応が発動された。
「ジージッ、了解」
モニターには一斉に最前線から後退してゆく国家特殊部隊の姿が映る。
「はははははっ。総理、ご覧ください。これが現実です。国家予算の大半を利用する特殊部隊がこのザマだ。これで分ったでしょう。今後彼らへの予算削減、我々への増額を願います。我らが精鋭のロボット『サギナス』に毒など効かない。圧勝ですな」
防衛戦闘総監の鮫島は、スーツのボタンを外し脇に隠した一丁の拳銃をチラつかせた。
「総理、女性にしてはここまでよくやった。ですが、戦闘素人のあなたに統轄は無理だ。ここからは私の指示に従いください」
総理護衛のSP達は事前に根回しされていたのか、事態を黙認した。
「本部より緊急連絡。これより総理に変わり鮫島が指揮をとる。全て私の指示に従え」
「ジージッ、了解」
これ以上の不利な状況を阻止すべく鮫島は動き出す。彼の育て上げた最新ロボット兵器『サギナス』をついに可動させた。
「サギナス014号、九毒蜘蛛の目前まで出陣させろ」
総動員された三百体の内、一体のサギナスが先陣を切りモンスターの前へと瞬間移動したその直後。
「シュッ」
九毒蜘蛛の攻撃によりサギナスは一気に吹き飛ばされビル壁面へと激突する。
「ズドンッ」
けたたましい衝撃音が響く中、まるで何事も無かったかのように立ちあがるサギナス。最高武装された次世代ロボットの驚異的な実力が証明される。
「グゥイーン」
サギナスはロケット噴射を使用し部隊配列へと戻った。
「はははははっ。総理、我々は侵入した魔物より先制攻撃を受けた。これで大義名分は出来ましたな」
『魔界協定第六条、魔族殺略は死罪――』この条文を覆す、魔界協定第八条、侵略行為への対抗措置が成立された。
「鮫島より総員に告ぐ!
只今より、総攻撃を開始せよ!!」




