第35話「異界ゆるキャラ選挙!」
■朝・ひまわり市庁舎
ゆるキャラなのに、すでに物騒な空気が漂う。
温泉まんじゅうフェスから一週間。
町はすっかり落ち着きを取り戻し……たかに見えたが、庁舎の廊下には新たなポスターが貼られていた。
「見てください勇輝さん! “第1回・異界ゆるキャラ選挙”のポスターが完成しました!」
加奈が誇らしげに掲げる。
そこには満面の笑みのまんまるん、そしてもう一体――
「……ん? “魔王推薦キャラ・マオーン様”?」
勇輝は眉を寄せた。
ポスターの片隅、黒いオーラをまとったシルエット。
ゆるキャラの気配はゼロ、むしろ“ボス戦”の気配しかしない。
ミーネ(ため息まじり)
「魔王様、最近は“ゆるキャラ界制覇”を目指しておられるそうですの」
「どうして魔界は毎回、方向性が極端なんだよ……」
■午前・選挙管理委員会
今回の選挙、緊張と笑いとカオスが同居。
会場にはすでに人間、獣人、魔族、スライムが入り乱れていた。
選挙管理委員長に任命された勇輝が、壇上で宣言する。
「本選挙は、公正かつ透明に行う!
票の水増しは禁止! 魔力操作も反則とする!」
すると魔界商人ロッソがすかさず挙手。
「異議あり! 魔界では“魂の投票”が基本だぞ!?」
「ダメだ!」
加奈(小声で)
「魂の票なんて導入したら死人も投票しますよ……」
■昼・選挙PRタイム
舞台に現れたのは、癒しと闇の二大勢力。
温泉街特設ステージで、ゆるキャラたちのPRが始まった。
「エントリーNo.1! まんまるんです!」
司会の声とともに、まんまるんがぴょこぴょこ跳ねる。
湯けむりふわふわ、手には小さなタオル。
子供たち
「かわいいー!」「ふわふわー!」
その後、照明が急に闇色に染まった。
空気がビリッと震える。
ステージ上に黒マントの影がゆっくりと降り立った。
マオーン様(響く声で)
「我こそは、魔界ゆるキャラ連盟代表・マオーン様!
人間どもよ、膝をつき票を捧げよ!」
ゆるキャラとは何か、改めて考えさせられる迫力だった。
観客
「怖い…けど…なんかカッコいい……!」
勇輝
「カリスマ系きたな……」
■午後・ネット投票戦争
トレンドは割れ、魔界と人間界の代理戦争へ。
選挙はオンラインにも拡大し、SNSは大混乱となった。
柳田(観光課)
「勇輝さん! 魔界からの投票データ、一時間で20万件届きました!」
「どこのBOT部隊だ!」
加奈(別のタブを見て)
「まんまるんも負けてません!
“湯上がりハートバージョン”の動画が100万再生超えです!」
勇輝
「……どっちもプロモーション能力高すぎるだろ」
魔界はカリスマと大規模集票。
まんまるんは動画とかわいさで爆伸び。
票が1%刻みで動き続け、街中のモニターがずっとザワついていた。
■夕方・選挙結果発表会場
歓声、悲鳴、そしてまさかの接戦。
大観衆の前で、ついに結果が発表された。
司会
「では結果を……表示します!」
スクリーンに数字が浮かび上がる。
1位:まんまるん 49.8%
2位:マオーン様 49.7%
(差:わずか0.1%)
会場が悲鳴と歓声で揺れた。
マオーン様は静かにうつむき――
そして、まんまるんの前に進み出る。
マオーン様
「……負けた、か。
だが良い戦いであった。
貴様の“ぬくもり”、確かに受け取ったぞ」
まんまるんはちょこんとお辞儀し、マオーンの手を握った。
拍手が自然と広がる。
■夜・温泉街の屋台通り
敗者も勝者も、みんなひまわり市の仲間。
選挙騒動も終わり、夜の温泉街はどこか優しい灯りに包まれていた。
二人は湯気の中、屋台でまんじゅうをつつく。
「結果はどうあれ、みんな笑顔でしたね」
加奈が柔らかく言う。
「競いながら、繋がっていく……。
まさかゆるキャラが、異界交流の架け橋になるとはな」
勇輝は湯気越しに笑った。
ふと見ると――
遠くでマオーン様が金魚すくいに挑戦していた。
マオーン様
「我が覇道……金魚の道より始まる……!」
勇輝・加奈
「そこから!?」
■ラストシーン
空に花火、ゆるキャラ二大巨頭が並び立つ。
花火が夜空に大輪を咲かせる。
その光の中、巨大ホログラムのまんまるんとマオーン様が手を取り合って浮かび上がった。
勇輝・ナレーション
「力も、可愛さも、世界を動かす。
だが結局、人を惹きつけるのは“心”だ。
ひまわり市――今日も誰かの笑顔で、少しだけ輝く。」
第35話「異界ゆるキャラ選挙!」END
次回予告 第36話
「温泉ゆるキャラPRツアーへ!」
まんまるん&マオーン様が異界合同PRツアーに出発!
だがその道中で――
二人(?)が“幻影列車”に迷い込み、謎の温泉郷へ!?
友情か、トラップか!?
ゆるキャラ史上もっとも不思議で熱い旅が始まる――!




