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第3話「王女殿下、ふるさと納税に興味を持つ」

〜“制度”が国境を超えるとき、行政は静かに悲鳴を上げる〜


■朝のひまわり市役所。


 異世界転移してから一週間。

 人も設備も制度も混乱の渦中にあるはずなのに、

 職員たちの動きには、すでに妙な慣れと諦観が漂っていた。


 電子案内板には堂々と――

 『異界対応窓口:現在の待ち時間→2時間45分』


 書かれている。

 

「おはようございます! 今日も“異界対応窓口”に行列できてます!」


 加奈が慣れた声で報告しながら、手元のファイルを整える。

 なんとなく、声に誇りすら混じっている。


「行列!? なんの列だよ!」


「“ドラゴン用温泉クーポン発行窓口”です!」


 勇輝は、コーヒーを一口飲んだまま動きを止めた。


「……なんかもう……慣れてきたな……」


 そんな現実逃避気味の呟きが終わる前に、庁舎の外がざわつき始めた。

 窓の外を見ると、白馬を従えた騎士団が市庁舎前に整列している。

 旗には金の百合の紋章。 


「勇輝さん、王国の使節団が――」


「うわ、マジで来た!」


 美月が書類を抱えたまま固まる。

 加奈は慌ててスーツの裾を整え、市長は深呼吸をして表情を整える。

 この1週間で、市長が身につけたスキルは「どんな異世界来賓にも動じない顔」だった。


 馬車の扉が開き、金髪にティアラを戴く少女が降り立つ。

 その所作は絵画のようで、ひまわり市庁舎の古い庁舎入口が急に格式高い建造物に見えてくる。


「この地が“ひまわりの都”か。噂に違わぬ、陽の香りね。」


 職員たちは慌ててスーツを整える。


「リゼリア殿下、本日はようこそ――」


「余は視察に来たのだ。異界の経済と税制を学びたい。」


「……税制?」


 ――アスレリア王国第一王女、リゼリア・アスレリア。

 その名を聞いただけで、広報課のSNS担当が震え上がった。


 

■応接室


 紅茶と、市民ボランティアの手作りクッキーが用意された部屋。

 リゼリア、市長、勇輝、美月、そして外交顧問のレフィアが席につく。


「我が国でも税は取っておる。だが“ふるさと納税”という制度があると聞いた。」


「おお、知っておられるとは!」


 市長の目が輝いた。

 異界でも行政談義で興味を持たれるとは思わず、少し誇らしい表情すら見せている。


「うちの誇りですよ。“納税すると特産品が返ってくる”制度です。」


「ほう……つまり、王国の民が“納めた税”で“贈り物”を得る……?」


「そうです。たとえば、“寄付”してくれた方には温泉宿泊券や、

 地元のはちみつ、味噌まんじゅうの詰め合わせを――」


 説明と同時に、リゼリアの青い瞳がきらめいた。


「それは素晴らしい。余も寄付をしたい。」


「えっ」


「アスレリア王国の国庫より、“金貨一千枚”を納める。」


「――ええええええっ!?」


 会議室が一瞬、静止画のように止まった。

 美月はペンを落とし、勇輝は書類を握りつぶし、市長は笑顔のまま固まっている。


「町長! それって……!」


「軽トラ千台分!? 市の年間予算超えてる!!」


 美月の声が裏返る。

 加奈は計算アプリを開きながら、小さく震えていた。


「すごいな……ふるさと納税どころか、地方交付金だこれ……」


 勇輝が頭を抱える。

 市長は数秒の沈黙の後、深く息を吸って――


「――ふるさと納税、上限額なしで受付中です。」


 言った。

 言ってしまった。


 

■その数時間後・市役所ロビー


 重厚なマントを翻しながら、王国会計局の急使が息を切らせて到着する。


「大変だ! その“寄付”は正式には“同盟援助金”として記録された!」


「同盟……? え、つまり――」


「アスレリア王国は“ひまわり市と軍事同盟を結んだ”ことになっている!」


「やめてぇぇぇ!! うちは観光立町なんですぅぅぅ!!」


 勇輝の叫びが庁舎に響いた。

 その横で、市長は静かにメモを取っている。


 『軍事同盟→観光協定へ再分類。異界行政は語彙の定義から。』


 広報課のホワイトボードには真っ赤な修正案。


【緊急対応】

 王国との“軍事同盟”を観光協定に訂正

 金貨一千枚を「寄付金」扱いで会計整理

 お礼品:温泉年間パス+町民手作りストール+味噌まんじゅう十個


「これで……いけるかな?」


「まぁ、殿下も悪気はなかったんだし……」


 美月の声は慰めというより、祈りに近かった。 


 だがその瞬間――

 庁舎の窓越しに、冷たい魔力の風が吹き込む。


 青白い光。

 影のように立つ男。


「……今度は何?」


 加奈の声が、震えながら漏れた。


「ひまわり市よ。王女の資金流出、詐取の疑いあり。調査に参った。」


「え、えぇぇ!? 詐取って、違う違う違う!!」


「ふるさと納税の誤解だよ!!」


「説明書、異世界語に訳しておけばよかったぁぁ!」


 庁舎に響く悲鳴。

 だが、この混乱こそが――

 


「こうして、“ふるさと納税事件”は外交問題へと発展した。

だが――それは、ひまわり市をさらに“異界の表舞台”へ押し上げる

きっかけにもなっていく。」


 

次回予告


第4話「魔王領との観光協定を結べ!」

外交問題を解決するため、市長がまさかの魔王領へ出張!?

「出張費、異世界レートで落ちませんかねぇ!」

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