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第13話「異界通貨と、税金バトル!?」

■朝・ひまわり市役所/異世界経済部


 朝の光が差し込む異世界経済部の一室で、まず目に飛び込んでくるのは机いっぱいに積まれた――いや“盛られた”と言った方が正しいだろう――山のような異界通貨だった。


 金貨の輝きはまぶしいほど眩しく、銀貨はやたらと精巧な装飾が施され、宝石はひとつひとつが高級ブランドのように光を放っている。

 そして、一番存在感を放っているのは――ぷるん、とふるえるスライムのゼリー状通貨。


「えー……これ全部、観光客が“お釣りいらない”って置いていった分です。」


 加奈が書類を片手にため息をつく。

 彼女の表情は、喜びなのか困惑なのか判別不能だった。


「……お釣りいらないどころか、“課税対象”がどこからどこまでかわかんねぇな。」


 勇輝は腕を組み、宝石の山を前にして完全に戦意喪失していた。


 そこに、さらりと髪のそよぐ気配がする。

 美月だ。SNSでの問い合わせ対応から戻ってきたところらしい。


「ところで課長、この“ゼリー”……触っちゃダメですかね?

 ちょっと写真映えしそうで……!」


「だめだ! 絶対にだめだ! それは多分、溶ける!!」


「えっ、えっ……こんなに写真映えする通貨、初めてなのに……」


 困惑する美月の横で、エルフ商人のマルコが軽快に説明を始めた。


「金貨は帝国金、銀貨は連合通貨。あと、このゼリーは“スライム種族用の液体信用貨”だな。」


「液体信用貨って何!? 溶けたらどうするの!?」


 市長の悲鳴に近い声が部屋に響いた。


 マルコは肩をすくめ、小声で付け足した。


「……税金、どうなるんだい?」


「――知らねぇよ!」


 勇輝の魂の叫びが、朝の市役所にむなしくこだました。



■昼・会議室


 会議室の空気は、朝よりさらに重い。

 壁一面に貼られたホワイトボードには「異界通貨換算表」と大きく書かれ、謎の数式と魔法陣の落書きが混在している。


 新たな来客――

 財務省異世界連絡室の高取が、眼鏡越しに涼しい目を向けながら説明を続けていた。


「異界の通貨価値を円に換算する場合、金属含有量だけで判断するのは危険です。

 魔力価値を含めた“魔導為替レート”を導入する必要があります。」


「ま、まどう……為替……?」


 市長はすっかり語彙力を失っていた。


「つまり、魔法的な価値を通貨に含めて換算するってことですね。

 でも、その計算どうやって――」


 加奈が説明を引き継ごうとした、その瞬間――


 バリバリバリッ!!!


 窓の外で大きな雷鳴が鳴り響いた。

 同時に、空に光の通路が開いたかのように見える。


「……あ、これ嫌な予感しかしない」


 美月の呟きが、現実になった。



■外・空中市場


 案の定。

 異界の商人ギルドが怒り心頭で押し寄せてきた。


「聞いたぞ! 人間の町が勝手に“魔導課税”を始めたらしいな!?」


「勝手じゃない! 合法的な経済整備だ!」


 勇輝が必死に説明するも、オークの怒りは簡単には鎮火しない。


「ならば我らの“魔石取引”も税対象になるのか!?」


「なる、けど……控除制度あります!」


 加奈が手を挙げて叫ぶが――


「控除って何だ!? オークは引かれたら怒るぞ!」


「もう言葉の問題じゃないよそれ!!」


 背後では、市長が小声で嘆いていた。


「控除制度の説明がオーク語に訳せない……!!」


 そこへ美月が、真剣な眼差しでタブレットを握りしめて割って入る。


「大丈夫です市長!

 “理解できるまで帰れません講座・オーク語版”を作ります!

 PRで“怖くない税金”って見せ方にすれば――」


「美月、お前……もう広報ギルド長でいいよ」


「それは断固拒否です!!」



■夕方・役所前


 いつの間にか、役所前には人間と異種族が入り乱れ、

 「税金やだー!」「マジックは無課税にしろ!」とプラカードが乱立していた。


 混乱する群衆を前に、勇輝が拡声器を握りしめる。


「……みんな、聞いてくれ!

 俺たちは異界に来た。でも、町を維持するにはルールがいるんだ!

 税金は敵じゃない! “町を支える魔法”なんだ!」


 その言葉に、美月がすぐさま動いた。


「はいっ、加奈さん! 点灯ボタンお願いします!」


 加奈がスイッチを押すと、

 役所通りに設置された“魔力街灯”がぱっと輝き、

 空へ光の筋を描いた。


 その光景に、群衆は息を呑む。


「これが、“みんなの税金”で灯る光です!」


 美月の声は、震えるくらいまっすぐだった。

 PR担当として、誰よりも住民に近い視点の言葉。


「……きれいだな。」


「悪くねぇ。なら、払う価値はある。」


 オークやドワーフたちの表情が、少しずつ和らいでいく。


 勇輝が、にやりと笑った。


「よし……これで“異界課税制度”、第一段階クリアだ!」



■夜・庁舎屋上


 その夜、ひまわり市の上空は、魔力街灯の灯りでふんわりと明るかった。

 高取が書類を抱えたまま、帰り際に勇輝へ歩み寄る。


「君の町は前例がない。

 しかし、君たちのやり方――“人と異種族の協税ともぜい”は、面白い。」


 勇輝は屋上の風を受けながら、肩をすくめる。


「税金で異世界を明るくする――悪くないでしょ?」


「次は、“通貨偽造”対策だ。……覚悟しておけ。」


 高取は月明かりの下へ姿を消していった。


 残された屋上で、美月がそっとつぶやく。


「……異世界でも、広報って忙しいんですね」


「いや、美月だけ異様に忙しくしてる気がするんだけど?」


「えっ? だって主任、ほら……“町を守る魔法”って言ったじゃないですか。

 だったら、わたしも魔法の一部ですよ!」


 勇輝は返す言葉を失い、ただ笑った。


 遠くの空で、ひまわり色の灯がもうひとつ輝いた。

 町が少しずつ、新しい世界に馴染んでいく合図のように。



『異界に浮かぶ町、ひまわり市』

― 第13話「異界通貨と、税金バトル!?」END ―



次回予告(第14話)


「空の許可証とドラゴン観光課」


 竜族が“空を飛ぶには航空申請が必要”!?

 役所窓口に長蛇の列、

 ドラゴンのサイズで受付カウンターが破壊寸前!?


「空中飛行は、申請書“ひま-27号”を――って、火を吐かないでください!!」


 ひまわり市、まさかの空の交通行政編へ!

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