第51話 『力の片鱗』
聖都の中心部、一角のカフェにて。
レーアはこれまでの冒険譚に花を咲かせていた。
「そこで、私が一気に魔力を放ったの!」
「すごいわねぇ。話を聞くに、レーアちゃんも四属性への適性はないのかしら?」
「やっぱり、適性がないって珍しいの?」
「あんまり聞かないけど、全然いると思うわよ?」
香りの強い紅茶を飲み干し、ルイネが一息つく。
「……む」
その時、シロンがちらりと外に目を向けた。
「どうしたの?」
「見ろ。騎士たちが大聖堂へ走っている」
言われて、レーアも外を見る。
「……ほんとだ。何かあったのかな」
「教皇の招集がかかったんでしょうね。まあ、よくあることよ」
机に置かれた謎の果物を指でつつきながら、ルイネが興味なさげに呟いた。
「私たちも聖女様に呼ばれることがあるけど、正直面倒なのよね~」
「集まって何するの?」
「お祈りよ。二週間に一回ね」
「ルイネさん、お祈りがめんどくさいの……?」
想像していた信徒の姿とはかけ離れているルイネの言葉に、レーアが戸惑いの表情を見せる。
ルイネは軽く溜息をつきながら、鬱陶しそうに語り出した。
「私も星天教の教えは素敵だと思うわよ? 星から始まって星に還るなんて幻想的だし。でも、お祈りなんてしたい時にすれば良いと思わない?」
「まぁ、お前の言いたいことも分かるが」
「みんなで一斉にお祈りなんてされても、星だって困惑するわよ、きっと」
「そ、そうかなぁ……」
すると、シロンが思い出したかのようにルイネに尋ねる。
「ところで、聖女というのは長い金髪の女か? 先程、街を歩いているのを見かけたが」
「そうね。聖都で長い金髪なんて聖女様しかいないし、その子で合ってると思うわよ」
「随分と親しげに語るんだな」
聖女と信徒という明らかな立場の違いに見合わぬルイネの物言いに、シロンは軽く疑問を抱く。
「小さい頃からの付き合いだもん。聖女になった今でも、普通に話すわよ」
「えっ、聖女様と友達なの!? すごい!」
「ふふ、確かに外の人が聞くと驚いちゃうのかしら。聖女と言っても、実際は信徒の中から適性のある子が選ばれてるだけなの。言ってしまえば、信徒のリーダーみたいな感じね」
「へえ~! 私も聖女様とお話したいなあ……」
「いつも街中を歩き回ってるから、簡単に見つかると思うわよ?」
「急に話しかけても怒られたりしない……?」
「あははっ! 聖女なんて人と話すのが仕事なんだから、気にしなくていいのよ」
会話の最中、突然カフェの入口のドアが乱暴に開かれた。
飛び込んできた五人の聖騎士たちが店内の客を取り囲むように陣取る。
「全員動くな! 妙な動きを見せた者は即座に拘束する!」
聖騎士の内の一人がそう叫ぶと、店内がざわめき始める。
レーアたちも例外ではなく、困惑しながらも指示に従って動きを止めた。
「ねえ、ちょっと」
ルイネは近くに歩いてきた聖騎士に声を掛ける。
「何だ? 大人しく……って、ルイネか」
「これは何の騒ぎ?」
どこか殺気立っている聖騎士に声を掛けるというルイネの行動に内心焦ったレーアたちも、どうやら知り合いである様子を見てホッと胸を撫で下ろす。
「……聖女様が、亡くなったらしい」
聖騎士も、ルイネと聖女の関係性は知っていたのだろう。それを伝える残酷さに、苦虫を噛み潰したよ
うな顔で伝えた。
「えっ?」
レーアたちも目を丸くするが、ルイネの受けた衝撃は計り知れない。
「あっ、おい! どこ行くんだ!」
それをレーアたちは察していたからこそ、反応が遅れたのだ。
聖騎士の静止も聞かずに席を立ちカフェを出ようと走り出してしまった。
「止まれ!」
「邪魔よ」
止めようと立ち塞がった聖騎士をすり抜けるように避けると、別の聖騎士が剣を振り上げる。
「待て! 彼女は……!」
ルイネと話していた聖騎士が声を上げるが、状況的にあまりに怪しい行動を取るルイネに剣は容赦なく振り下ろされた。
「なっ……!?」
ルイネは聖騎士の光を纏った剣撃を軽く手をかざすだけで弾き、そのまま店外へと飛び出した。
「先程の身のこなしといい、彼女は……」
「君達は彼女の友人かな」
ルイネの動きを注視していたシロンに声をかけたのは、先程ルイネと話していた聖騎士だった。
三人の聖騎士がルイネを追って外へ出て行ったため、動きに余裕ができたようだ。
「さっき友人になりました!」
「ははっ、そうかい。僕はケースだ、よろしく」
差し出された手は分厚いグローブに覆われていて少し威圧感があったが、レーアはそれを両手で握ってぶんぶんと揺らす。
「それで、何の用だ?」
シロンが鋭い目を向けると、ケースが語り始める。
「彼女の……ルイネのことだけどね。察しの通りだよ。彼女はただの一信徒じゃない」
「……まあ、そうだろうな」
「どういうこと?」
やはりと言ったように目を瞑るシロンだったが、レーアは何の話か分からず目を丸くしていた。




