第48話 『白い都市』
橋を渡ると、改めて白一色の都市が眼前に広がる。
三大都市の一つ『聖都ミレアス』。
純白の鎧を纏った騎士と、同じく白いローブに身を包む信徒たちがこの都市最大の特徴と言えるだろう。
王都とは違って高い建物はほとんどなく、そのため都市全体が簡単に見渡せる。
中心には大きな広場と噴水があり、その奥に巨大な建物が見える。
街を歩いていると、聖騎士や信徒が市民たちと楽しそうに会話しているのが目に入る。
明るく開放的な空間であるため、人々の心にも余裕が感じられた。
「!! シロン、見てあれ!」
レーアが指差す先には一人の女性。
長い金髪を垂らし、数人の信徒を引き連れて歩いている。着ている服も一般的な信徒のものとは違い、少し豪華に見えた。
「王族や貴族の類だろうか。もっとも、この国に貴族制度があるとは思えんが」
群がる民衆に笑顔を振り撒き、握手に応じたりしている。
女性はぶんぶんと手を振るレーアに気付いて、小さく手を振り返してくる。
「あっ、返してくれた!」
「良かったな」
満足気なレーアに、シロンが問いかける。
「それで、まずはどうする? 適当に散策でもするのか?」
「あそこ行ってみようよ!」
レーアが興奮気味に指差した先には、聖都の象徴とも言える大きな建物があった。
人の往来も多く、何かしらの機能を持った施設であることは見て取れる。
駆けるレーアの後についていきながら、シロンは周囲に視線を向ける。
「やはり、ほとんどの者が星天教に入信しているようだな」
信徒たちの着る白いローブには金色の紋章が刻まれている。
ローブを身に着けておらず一見信徒ではないように見えても、紋章を象った髪飾りや首飾りなどをつけている者がいた。
道中の立て看板を読んで、二人が目指す大きな建物が『大聖堂』と呼ばれていることが分かった。
大聖堂へと続く長い階段をレーアたちは駆け上がる。
上まで辿り着くと、シロンは感心したように言う。
「あまり息切れしていないな。レーアも随分と体力がついてきたんじゃないか?」
「なんか、身体が強くなってる気がするんだよね。カルテトでいっぱい戦ったからかなぁ」
旅を通じた能力の向上を、当の本人はそこまで実感できていない様子だった。
大聖堂の内部へ入ると、大勢の信徒たちがいた。
「わっ、すごい数! 外にもあんなにいたのに……!」
「ルイネは見当たらないな」
二人のもう一つの目的、王都の教会で出会った信徒ルイネ。
信徒が多く集まる大聖堂でも彼女を見つけることはできなかった。
「シロン、あれ──」
「しっ。何か始まるみたいだ」
辺りの装飾や珍しい置物に次々と目移りするレーアを、シロンが静止する。
シロンの言った通り、大聖堂内の信徒たちは静まり返っていた。
信徒たちの視線を追うと、奥に設けられた壇上へ上がる人物がいた。
白髭を蓄えた、温和な雰囲気の老人だ。
「集まっていただき感謝します。聖都は変わらず平和で、大きな賑わいを見せている……実に喜ばしいことです」
ゆっくりと話し始めたその声からは、聴衆を引き込むような、不思議な力を感じた。
シロンが横を見れば既にレーアがうとうとし始めており、聖都に来たばかりでこれではいけないと急いで連れ出す。
大聖堂を後にした二人は、広場を散策しながら噴水の周りを一周し、角にあったカフェへと足を運んだ。
壁は一面ガラス張りになっていて、外の陽光を心地よく感じることができる。
席につくと、見たことのない食べ物が並ぶメニュー表にレーアが目を輝かせる。
そんなレーアの肩をトンと叩く者がいた。
「注文は決まった?」
見れば、それは白いローブを着た信徒の一人。金色の短い髪をした女性。
「ルイネさんっ!?」
「探す手間が省けたな」
驚くレーアを見て満足気に頷くと、ルイネは隣に座る。
「二人とも顔つきが大人になったわね。ここまで大変だったでしょ」
「すっごく大変だったよ!」
レーアの反応を見てくすくすと笑いながら、ルイネは肘をついて目を細める。
「聞かせてよ、二人のこれまでの旅」
二人は王都での暗躍など一部のことは省きつつ、これまでの旅について振り返りながらルイネに伝えた。
「あっはは! ザレスの奴、まだ山籠もりしてるんだ!」
「えっ、知り合いなの?」
「知ってる知ってる!……二人とも『レストローデ魔術学院』って分かる?」
「知らないな。どこにあるんだ?」
「えっと、地図は持ってるよね?」
言われるままに地図を取り出すと、ルイネが地図の上側を指す。
「この一帯は『フェレー雪原』って呼ばれるでっかい雪原でね。真ん中あたりにある『ミレストル魔導都市』ってところの、まあ……魔法が得意な子たちが集まるところが『レストローデ魔術学院』ってわけ!」
「雪原都市が……ミレストローデで……?」
一気に情報を流し込まれて混乱するレーアを見て、ルイネが笑い声をあげる。
「そこに、お前とザレスも通っていたということか」
「そうね! あそこ、結構難しい試験をクリアしないと入れないのよ。基礎魔法だけで学院に入る人なんて、後にも先にも彼くらいだと思うわ」
「ルイネさんは何の魔法を使うの?」
「適性は氷だけど……基礎魔法の、特に回復とか補助が得意ね!」
「すごーい!」
こうして、三人はカフェでのひと時を楽しんでいた。




