第46話 『その後』
「……旅の途中で何か分かったらまた伝えに来る。それで良いか?」
「ぜ、是非……頼むよ」
このままでは質問攻め、もとい尋問に遭いそうだと、シロンが強引に切り上げる。
「それじゃあ、ザレスさんっ! またね!」
「あ、あぁ……二人とも、気をつけるんだよ……」
ザレスは最後まで、レーアたちとの別れ以上に、シロンという未知を逃すのを惜しんでいるようだった。
改めて挨拶を済ませてザレスと別れた後、二人は動力区へ向かっていた。
「あんなことがあったのに、もうみんな普通に生活してるね」
「フェルダーズの標的はあくまで人間だったからな。ほとんどのドワーフたちは、同族同士で戦うことを是としていなかったんだろう」
シェルターで聞いた話では、暴動の中で死傷者は出なかったそうだ。
レーアの言う通り、街を歩くドワーフたちは既に日常を取り戻しているように見える。
動力区の入口が見えてくると、カンカンと小気味よい音を立てながらレーアが駆けて行く。
中に入ると、大勢のドワーフたちが建造物の修復作業を行っていた。
そこはつい先日、レーアたちが派手に戦闘をしていたのと同じ場所とは思えないほど、元の姿をほとんど取り戻していた。
レーアがきょろきょろと辺りを見回すと、すぐに目的の人物は見つかった。
「あっ! マルドさーん!」
作業音が響くこの場所でも、レーアの声は非常によく通る。
呼ばれたドワーフは手に持っていた工具をその場に置き、レーアたちの方へとやってきた。
「私に何か用か?」
「そろそろここを離れるから、挨拶にきたの!」
「早いな。休養は取れたのか?」
「ばっちり! 元気だよ!」
少し驚いた様子のマルドに、レーアは笑顔で返す。
「大した回復力だ。それで、お前たちはどこへ行くつもりなんだ?」
「山脈の東側、オリディア教国の聖都ミレアスという都市だ」
と、遅れて合流したシロンが会話に入る。
「ほう。聖都か」
「知っているのか?」
シロンの問いかけに、マルドはフッと笑う。
「名前だけな。ここは外との交流が少ない、独自に発展した都市だ。私を含めて、外の知識を持っている者や外に関心のある者は少ないと思うぞ」
「通りで、王国の方だとドワーフを見かけなかったんだね」
「外で暮らしているドワーフもいるにはいるが、王国は……苦手意識のある者が多いのだろうな」
マルドが言葉を濁す。ドワーフや人間たちの一部が互いに敵意を持つようになったのは、エリシア王国の前王の思想によるものが大きい。
「ところで、ボルドはどうしたんだ?」
ふと、シロンが気になって問いかける。
「いまだ人間に強い憎しみを持つ者は、一時的に地下に幽閉している」
マルドは動力区にいくつか存在する地下への入口、その一つを指す。
「ゆ、幽閉……?」
聞き慣れない言葉にレーアが少し怯えた様子を見せる。
それに気づいたのか、マルドが説明を付け足す。
「何も拷問や処刑をしようというわけではない。自由にさせて、外から来た者に危害を加えられても困るからな」
その時、マルドを呼ぶ声が聞こえた。
遠くの方で数人のドワーフが手招きをしているのが見える。
「……さて、私は作業に戻らねば。大したもてなしも出来ずにすまないな」
「全然! こっちこそ、邪魔しちゃってごめんね?」
持ち場に戻りながら、気にするなと言うように軽く手を振る。
マルドへの挨拶を済ませた後、二人はカルテトの内と外とを繋ぐトンネルへ向かっていた。
「良い街だったな」
「ね~! 絶対また来よう!」
レーアの言葉に、シロンが難しい顔をする。
ザレスはシロンの能力に非常に強い興味を見せていた。
先程は適当に話を合わせて乗り切ったが、次はそう簡単に解放してもらえるとも思えない。
「まだ朝のようだし、このまま教国へ向かって良いだろう。夜までには山脈を抜けられるはずだ」
話題を逸らすように、ポケットから取り出した時計を見てシロンが言った。
工業都市カルテトは山脈内部に築かれた都市であり、都市内部では空が見えない。
ドワーフたちは、種族的な特性なのか『感覚で時間が分かる』と言っていたが、残念ながらレーアたちにそんな特殊能力はない。
「楽しみだなぁ~! そういえば、私たちこれで三大都市を全部回ることになるんだよね?」
「ああ。そうなるな」
エリシア王国の『王都エルガルド』、ロネスディール山脈の『工業都市カルテト』。そして、次の目的地であるオリディア教国の『聖都ミレアス』。
いずれも三大都市と呼ばれる場所であり、これまでもその規模や活気に驚かされてきた。
「うーん……先にそんな大都市ばっかり見ちゃったら、他の街に行ったときに『思ったより普通だなぁ』ってなったりしないかな……?」
「街だけでなく村や集落であっても、そういった場所として機能している以上は独自の文化や特色があるはずだ。規模だけで価値が決まるわけでもない」
シロンの意見を聞いてもまだ納得しきれない様子のレーアに対して、
「それに、レーアであれば初めて見る食べ物一つで満足しそうなものだが」
とイタズラっぽく付け加える。
「そ、そんなことっ!……あるかもだけど」
反射的に言い返そうとするが、食べ物というワードだけで期待してしまっている自分に気付いて、言葉尻が小さくなる。
それを見て、シロンは小さく笑うのだった。




