第45話 『天は二物を与える』
「それで……二人は、山脈を抜けたら……そのままラステアへ向かうつもりかい?」
行き場を失ったように手をもぞもぞと動かしながら、ザレスが問う。
「そのつもりだったんだけど、聖都に寄っていくことになりました!」
「せ、聖都か……良いね。楽しい観光に……なると思うよ」
目的のある旅は道中を楽しむものだと、ザレスが軽く笑って見せる。
「一つ聞きたいんだが、良いか?」
そこで、シロンが二人の会話に割って入る。
「もちろん……どうしたのかな」
「例のオーブについてだ。あれは元々、ラステアから三大都市へ送られた物だったな?」
「フィースくんの手紙によると……そうらしいね」
「王都のオーブは私たちが破壊し、カルテトのオーブはお前が処理したわけだが、聖都にはまだ残っているのだろう?」
「そ、そうなるんじゃないかな……」
ザレスのぎこちない返答に、シロンは眉を寄せる。
「聖都に関して、そういった話を聞いたことはないのか? 王都では国宝と呼ばれていたほどだったが」
「ぼ、僕は……外の話はあんまり……把握してないから……」
「……そうか。私が聖都へ寄るべきだと判断したのは、オーブのことが気掛かりだったのもあるんだ。何か話が聞ければと思っていたのだが」
「力になれなくて、すまないね……」
静かになった家で、レーアが明るく声を上げた。
「まあまあ! 冒険っていうのは知らないから楽しめるんだよ? それに、ルイネさんに会えたら色々と聞けるだろうし!」
レーアの言葉に賛同するようにシロンも軽く頷く。
「そうだな。考えるのは、聖都に着いてからにしよう」
「と、ところで……シロンちゃん」
踵を返し、家を出ようとしたところでザレスに呼び止められる。
「なんだ?」
「その剣は……魔道具なのかい? 魔力の反応を、感じるんだけど……」
そう言って、シロンの腰の剣を指差す。
「この剣は貰い物でな。詳しくは分からない」
「……少し、見せてもらっても良いかな……?」
「構わない」
シロンが剣を抜いて近くの机に置く。
「ふむ……これは」
剣に手をかざしながら、ザレスが軽く驚いたような声を上げる。
「もしかして、伝説の剣だったとか……!」
「い、いや……そんなことは、ないけど……風魔法の魔力反応が、残っている……」
「風魔法?」
仮に魔道具だったのであれば、何か新しい力を得られるかもしれないとシロンが耳を傾ける。
「でも……変だね」
「変とは?」
「この剣からは、魔道具特有の……魔力の根源的な力が……感じられない」
「……えっと、つまりどういうこと?」
難しい単語が飛び出し始めて、レーアの頭に疑問符が増えていく。
「シロンちゃん……君、風魔法が使えるのかい?」
推測を終えたザレスの問いかけに、シロンは首を傾げる。
「確かに魔力は持っているが、私は剣士だぞ」
「私も、シロンが魔法を使ってるところなんて見たことないけど……」
「魔力反応というのは……道具の持ち主が魔法を使った時にも、残ることがあるんだよ……」
ザレスは剣をシロンに返すと、
「そうだね……シロンちゃんの剣技を、見せてもらえるかな……?」
いまいちピンと来ない様子の二人に外へ出るよう促した。
三人はザレスの家から少し離れた広場に向かった。
シロンが剣を抜き、ザレスの方をちらと見る。
「行くぞ」
「いいよ、やってみて……」
シロンは手の中で剣を回転させて風を纏わせ、それで空を突く。
風を切る音と共に凄まじい風圧が剣先から放たれ、上空へと消えていった。
「……うん。それ、風魔法だね……」
流石のシロンも驚いたのか、珍しく表情が顔に出る。
「そうなのか? 魔力を使ったという感覚はないが……」
「うーん……減ったと感じられないくらい、運用技術が高い……とか」
「うええっ!? シロン、剣だけじゃなくて魔法まで上手なの!?」
「あ、あり得ないことじゃ……ないよ。でも、そうだね……少なくとも、僕は聞いたことがないかな……」
「まあ、気にする必要はないだろう。聞いている限りでは利点しか無いようだしな」
早々に思考を切り上げて剣を納めるシロンだったが、ザレスは魔法への探求心から、レーアは自己のアイデンティティ喪失の恐れから、それぞれ興味を捨て切れない様子だった。




