第44話 『災禍の残滓』
シェルターに戻ると、大勢のドワーフが出迎えてくれた。
「おお、嬢ちゃんら! よく無事に戻ってきただよ!」
「奴から解放してくれてありがとな!」
「おい、お前はどっちだ?」
「オレは断然レーアちゃん派だな!」
押し寄せるドワーフたちから口々に発せられる感謝の言葉。
レーアは笑顔で応対していたが、シロンは困ったように頬を掻く。
「……戦闘続きで疲れているんだ。休ませてくれないか」
「おっと、そうだな! そりゃ悪かった! ほら、あっちだよ」
少しずつ喧騒も収まり、一人のドワーフが奥の方を指す。
「レーア、行くぞ」
「いやぁ〜えへへ……あっ、うん!」
ドワーフに囲まれて照れ臭そうにするレーアを連れ、通路の方へと向かう。
二人は適当な空き部屋を見つけて中に入り、鍵をかけた。
「……やれやれ。ようやく落ち着けるな」
「疲れたねぇ……」
それぞれ荷物を置いてベッドに潜ると、レーアが早速寝息を立て始める。
「成長したな」
そう言って微笑むと、シロンも思考をやめて目を瞑る。
翌日、レーアが目を覚ますと部屋にシロンの姿がなかった。
「んん……シロン?」
嫌な予感がして部屋の中を見回す。
すると、近くの棚の上に書き置きが残されていた。
『街の様子を見てくる すぐに戻る』
不安が杞憂であったことに安堵するが、一人で行ってしまったことに対しては不満そうな様子だ。
「起きるまで待っててくれたっていいのにねー?」
レーアが愚痴をこぼすように呟く。その相手は、彼女の周囲に集まる星の光。
先の戦闘でかなり酷使してしまったが、すっかり元の輝きを取り戻したようだ。
「みんな頑張ったね。シロンにもいっぱい助けられちゃったし」
「気にすることはない」
「わっ!?」
いつの間にか部屋にシロンが戻ってきており、レーアは驚いて飛び跳ねる。
「お、おどかさないでよ……」
「ふむ。そんなつもりはなかったんだが」
むしろ、驚かれたことに驚いたといった様子のシロンを見て、レーアは大きく溜息をつく。
「外、見てきたんだよね? どんな感じだったの?」
「建造物への被害は少なかったな。私たちが戦っていた辺りが、少し荒れていたくらいだ」
「まぁ、私たちも周りとか気にせず戦ってたもんね……」
派手に魔法を放っていた記憶が蘇り、レーアも苦笑する。
「それと、失われたコアのエネルギーは数日で復旧可能らしい。予備があったみたいでな」
「おー! よかった!」
一通りの説明を終え、シロンがベッドに腰掛ける。
ふかふかの毛布を手で撫でながら、思い出したように声を上げる。
「そういえば、レーアの見た夢は結局何だったんだろうな」
「夢……あっ、確かに! 危険が迫ってる、みたいな話だったけど……」
「ふむ……ジェルドのことを指していたのだろうか」
夢から覚めた直後の爆発、その後に起こった一連の騒動を考えると、想起されるのは当然ジェルドの存在だ。
しかし、シロンの言葉にレーアは首を横に振る。
「……なんとなく、違う気がする。なんでって言われると、難しいけど……」
カルテトが見舞われた災禍も決して小さなものではなかったが、あの口ぶりはこの程度のことを指していたわけではないとレーアは感じていた。
今後の旅路において、得も言われぬ不安要素が一つできてしまったと暗い顔をする。
「私たちも着実に腕を上げている。警戒を怠るべきではないが、過度に心配するものでもないだろう」
「……うん、そうだね。この子たちもいるんだし!」
暗くなった顔を照らすようにパチパチと光る星々に、レーアも安心感を覚える。
「山脈を抜けた先は『オリディア教国』か。そこから北に向かえば、ようやく『ラステア跡地』に辿り着けるわけだな」
いつの間にか立ち上がっていたシロンが、机に広げた地図を見て呟く。
「オリディア教国って、たしかルイネさんがいるところだよね?」
「中心の『聖都ミレアス』にいるという話だったな」
エルガルド城の教会で出会ったルイネという女性。
彼女はオリディア教国の聖都ミレアスから来たと言っていた。
「例のオーブのことも気掛かりだ。聖都へ寄ってみても良いだろう」
「よーし! 次の目的地は聖都ミレアスに決定っ!」
拳を突き上げて宣言するレーアに、先ほどまでの暗い雰囲気は感じられなかった。
変わらぬ底抜けの純粋さに、シロンも頬を綻ばせる。
二人はシェルターを出て、ザレスの家へ来ていた。
「ザレスさーん! いますかー!」
レーアがこんこんとノックすると、すぐに扉が開けられた。
「や、やあ……待っていたよ。入りなさい……」
初めて出会った時と同様に気弱な様子のザレスだったが、レーアたちの彼を見る目は最初の時と変わっている。
「これだね……」
棚から取り出したものを、ザレスが机の上にぱらぱらと落とす。
それはボルドの使っていた武器。シロンが鑑定を頼んでいた謎の魔道具だ。
「この武器には……物を縮小する『ミニマライズ』と、巨大化させる『マキシマライズ』の……二つの魔法が組み込まれていた……」
並べられた二本の小さな大剣。その一つを手に取り、ザレスが拳にぐっと力を込めてみせる。
すると剣が巨大化し、重量を支え切れずにザレスの手から滑り落ちる。
「っと……まあ、こんな感じで……小さくなってる時に力を込めると『マキシマライズ』……逆に大きくなってる時に力を込めると『ミニマライズ』の魔法が……発動するようになってるんだね……」
床に転がる大剣の柄の部分を握り、再び縮小させる。
「へぇ~! 面白いね!」
「実に厄介だった」
対照的な反応を見せる二人に苦笑しつつ、ザレスは剣を棚に仕舞った。




