第43話 『戦いの終わり』
光が晴れ、倒れ込むジェルドの姿が現れる。
「やっつけた……のかな」
「どちらにせよ、もう余力はないだろう」
警戒しながらも、シロンがジェルドに近づいていく。
「……ガキが」
「生きていたか。大したものだな」
目だけ動かしてシロンを睨むと、息も絶え絶えな様子で声を出す。
「フッ……そうだな……俺は、詰めが甘いらしい……」
誰に聞かせるでもなく、ただ空を見つめながら言葉を溢す。
シロンは静かに剣を振り上げ、確実に命脈を断つために魔力を込め始める。
「最後に一つ聞かせてもらおう。ザレスが出てきたら、どう対処するつもりだったんだ?」
「……こいつだよ」
ジェルドが口を開けると、奥歯の辺りにボタンが埋め込まれているのが見える。
「押せば魔法を封じる光が出る。……そっちのガキに使うべきだったかもな」
と、いつの間にか近づいてきていたレーアの方を見ながら言う。
「ざ、残念だけど……それは、僕たちには効かないと……思うよ」
会話に割って入られ、三人はバッと声の方を見る。
「テメェ……ザレス」
「びっくりした……全然気づかなかった」
「はは……そういう魔法だから」
一斉に注目を浴びて、登場の仕方を間違えたとザレスが苦笑する。
「それで、どうして効かないと思うんだ?」
剣を下ろし、シロンが問う。
「た、多分……それは、四属性の魔法を……封じるだけなんじゃないかな……」
「あっ、なるほど!」
納得のいった様子でレーアが声を上げる。
「魔力が使えなくなるわけじゃないなら、魔法自体は使えるもんねっ!」
「そうだね……ジェルド君は、もう戦う気はないんだろう? なら試してみるといい……」
「……」
言われるままにボタンを押すと、ジェルドの籠手から光が照射される。
その状態で、レーアとザレスは魔力を練って防壁や小さな球を出現させてみせる。
「ハッ……結局、無駄だったんだな」
「仮に魔力を封じられても、戦いようはあるから……もう少し、魔法について……知るべきだったね」
ザレスはそう言って、杖の先をジェルドに向ける。
「さて……君だけは、生かしておくわけには……いかないね……」
「ザレスさん……」
「レーア」
迷いを見せるレーアを、シロンが静かに宥める。
「やれよ」
死という結末に至る経緯に興味がなくなり、ジェルドが催促する。
「……君は、二人の成長を促すための……実に良い素材だった」
ザレスはレーアたちに聞こえない声で囁き、杖に魔力を込める。
ジェルドは一瞬だけ目を見開くと、全てを悟ったかのように目を瞑る。
「……チッ、そういうことかよ」
「ありがとう。ジェルド君」
「バケモンが」
ジェルドが引き攣った笑みを浮かべて吐き捨てると、ザレスは魔力を射出する。
細い光が額を貫き、ジェルドは糸が切れたようにその場に倒れる。
「終わったんだな」
「うぅ……」
先程まで命のやり取りをしていたというのに、レーアは暗い表情を浮かべている。
「よくないよね、こんな……」
死を受け入れた様子だったジェルドに感化されてしまったのか、泣きそうになりながら自省しようとする。
「レーアの優しさは美点だ。しかし、それで迷いが生まれるのは良くない」
慰めるように、それでもしっかりと懸念は指摘する淡白さにシロンらしさを感じて、レーアは少しだけほっとする。
「それじゃ……騒動の後始末は、僕に任せるといい……」
「そうか。では、私たちは少し休ませてもらおう」
「それがいい……元気になったら、僕の家においで。届けてもらった魔道具の……鑑定が済んだから」
「分かった」
シロンの返事を聞くと、ザレスはローブに身を包み、空間に溶けるように姿を消した。
「行こう。レーア」
剣を鞘に納め、シロンが手を差し伸べる。
「もうちょっと……ここにいる」
レーアはその手を取らずに、倒れるジェルドを見つめている。
「……勝ったのか」
「あっ、マルドさん……」
「お前は……!」
反射的に剣を抜いたシロンを、レーアが慌てて静止する。
「待って待って! マルドさんはその、大丈夫だからっ!」
「今さら命を惜しむ気はない。だが、都市の復興には人手が要る。それまで待って欲しい」
荒れた都市を見渡しながら、マルドが頼み込む。
「……敵意がないのなら戦うつもりはない。私に、お前たちを断罪する権利はないのだからな」
片目を瞑り、再び剣を鞘に納める。
「強かったか。ジェルドは」
「そりゃ強かったよ……勝てたのは運が良かっただけ」
「フッ……そうか」
疲れ切った様子のレーアを見て、マルドも軽く笑う。
「あっ……そういえば、ジェルドさんはどうしよう? 放っておくわけにもいかないし……」
「……連れていくわけにもいかないだろう」
「私が連れて行こう」
ジェルドの体を担ぐと、マルドは改めて二人を見る。
「本当にすまなかったな。感謝する」
「もう行っちゃうの?」
「私たちもまだ数日はカルテトに滞在する。また話す機会もあるだろう」
名残惜しそうにするレーアに、シロンは溜息を吐きながら言う。
「それもそっか……またね、マルドさん!」
「ああ。また」
地下へ降りていくマルドを見送ると、二人もようやく気持ちを落ち着かせる。
「流石に疲れたな。私たちも確認がてら、シェルターに戻ろう」
「戻ろう!」
そうして、二人も静かに動力区を後にした。




