第41話 『求めた者の末路』
周囲の空気が変化したのを感じてシロンも息を呑む。
「死ね」
指先をシロンに向けて、ジェルドが短く告げる。
何度も見た『エレクトロイア』の構えに、シロンも集中力を高める。
「……か……は」
次の瞬間、紅の稲妻がシロンの腹部を貫いていた。
「シロンっ!?」
レーアが悲痛な叫びを上げるが、その声は困惑の方が大きいように感じられた。
膝をつき、口から血を吐きながら、シロンは思考を巡らせていた。
「(詠唱なしで……なんて速度と威力だ)」
幸いなことに、放たれた稲妻のうち被弾した一本以外は全てシロンの身体を逸れていた。
見れば、ジェルドも苦しそうに頭を押さえて膝をついている。
「ぐっ……まだ扱い切れねェか……」
照準のブレに強い反動。強大な力である故に、使いこなすにはまだ時間がかかりそうだ。
戦況が止まっている隙に、レーアがシロンに駆け寄る。
「待ってて、すぐ治すから!」
背中をさすりながら、腹部に手をかざす。
淡い光に包まれ、レーアの魔力と星の力によって傷が塞がっていく。
「……助かった。奴にもダメージがあるところを見るに、次からは威力を下げてくるだろうな」
「大丈夫なの?」
心配そうに顔を覗き込んでくるレーアに、シロンは軽く笑いながら問いかける。
「それより、どうする? 今であれば逃走も可能だと思うが」
「それは……」
身の安全やシロンとの約束、これまでのことを思い出しながら、それでも真っ直ぐにシロンを見つめて言う。
「……ダメだよ。あいつは、やっつけないと」
「なぜ?」
「フェルダーズのみんなは騙されてるの。あいつは自分が強くなるためだけに、みんなの思いを利用して……」
それを聞いて、シロンも剣を握りしめ立ち上がる。
「まあ、そんなところだろうと思っていた」
目を瞑り、全身から魔力を立ち昇らせる。
「……シロン、魔力量増えてない?」
「確かに、身体の調子が良い気がする。星の力は失った魔力まで回復させられるのかもな」
二人が準備を終えると、ジェルドも立ち上がろうとしていた。
「……現状、私たちには決め手となるものがない。防御に徹していても、倒せないのでは意味がない」
「どうしよう……?」
不安げなレーアの声に、シロンは静かに答える。
「先ほど、高威力の攻撃で反動を受けていたのを見ただろう。故に、自傷ダメージによる自爆を誘う」
シロンとしては唯一とも言える打開策を提示したつもりだったが、レーアの頭には疑問符が浮かぶ。
「でも、あんな技また使ってくれるのかな? シロンも、次からは威力を下げてくるーって言ってなかった?」
「だから『誘う』んだ。奴は戦い慣れしている。眼前に危険が迫るようなことがあれば、反射的に反撃してくるはずだ」
「確かに……シロンもそうだもんね」
レーアに言われるが、心当たりがなく、今度はシロンの頭に疑問符が浮かぶ。
「寝てるときにちょんちょんって触ろうとしても、ぺしって弾かれちゃうの。最初は起きてるのかと思ったけど、あれで寝てるんだもん。すごいよねっ!」
「……そうか」
レーアの空気に呑まれて頬を緩ませそうになるが、すぐに表情を引き締めてジェルドの方を見やる。
「……ハァ、ハァ……クソ……ッ」
どうやら相当ダメージがあったようで、今だに頭を押さえている。
レーアが後方で魔力を溜め始め、シロンがジェルドに斬りかかる。
しかし、制限解放によってさらに硬化した肌は、もはや刃を通さない。
「……ハッ、これが攻撃か?」
嘲るジェルドに、シロンも唇を噛む。
「(ジェルドは私の攻撃をもはや脅威とは思っていない。……そのイメージを払拭しなければ)」
ドワーフが魔力を感知できないことを利用して、シロンは全身を包む魔力を全て両腕と剣に集中させる。
「ならば、これも受けてみるといい」
そう言って横薙ぎを放つと、ジェルドはそれを受け止める。
「……舐めやがって」
簡単に止められてしまったものの、シロンはこれでいいと一旦後退する。
「私も本気を出すとしよう」
剣を正面に構え、紅の双眸でジェルドを見据える。
勿論、本気を出すなどというのはハッタリだ。
しかし、魔力の操作による斬撃威力の向上が、ジェルドにそれを信用させた。
「『エレクトロヴァルナ』ッ!」
ジェルドが足にエネルギーを集中させて地面を叩く。
広範囲に電流の波が広がり、シロンは跳んで回避する。
「空中じゃ避けられねェだろ……『エレクトロイア』ッ!」
続けて指先から稲妻が迸る。ジェルドの言う通り、空中ではシロンの機動力は活かせない。
「私が考えなしに跳ぶと思ったか?」
シロンはそれを読んでいたと言わんばかりにフッと笑う。
「『エア・スラスト』!」
剣を回転させて風を纏い、正面を突く。
放たれた衝撃の反動で、シロンは稲妻を避けて後方へ飛ぶ。
そのまま着地し、声を上げる。
「レーア!」
「くらえぇぇえーっ!!」
魔力を溜め続けていたレーアが、シロンの呼び掛けを受けてそれを放出する。
眩い輝きと共に巨大な光線が放たれ、シロンは横跳びでその射線から外れる。
「な……ッ」
眼前に現れた巨大な光線に、ジェルドはエネルギーを増大させて迎え撃とうとする。
その時、鎧が音を立てて崩れ去った。
「……ぐ……ァァァァアア!!!」
結果、レーアの放った光線を生身で受けることとなる。
ジェルドの叫びは、耳をつんざくような轟音の中に掻き消えていった。




