第40話 『力の先へ』
「お前は……あの時のガキか」
記憶を辿り、ジェルドが声を上げる。
騒動が始まった頃、都市の様子を眺めようとやってきたジェルドたちとシロンは鉢合わせ、その際にボルドと戦闘になった。
シロンがレーアを守るように前に立つ。
「……良いぜ。二人まとめて殺してやる!」
再び力を解放し、周囲の地面が赤黒く染まる。
「シロン、気をつけて! バリアとかさっきの玉とか、魔法みたいなことしてくるから!」
「要は、エネルギーの流れに注視すれば良いんだな」
赤黒い輝きを放つ禍々しいエネルギー、その中心である鎧を睨む。
「レーア。援護を頼む」
「ん、任せてっ!」
短く言葉を投げると、シロンは地を蹴って駆けていく。
「『エレクトロイア』ッ!!」
詠唱と共にジェルドの指先から五本の紅い稲妻が射出される。
シロンは咄嗟に身を捻るが、一本が腰の辺りを掠める。
「ハッハッハ! こいつはいい!」
「……なるほど。厄介だ」
掠った部分の服が焦げており、直撃した際のダメージは想像に難くない。
シロンは移動の軸を変え、正面突破ではなく回りながら距離を縮めることにした。
「分かりやすい奴だ! それなら……」
「させないっ!」
シロンの姿を追い、背中を向けたタイミングを狙ってレーアが魔力の針を飛ばす。
「……あぁ、お前が居たんだったな」
面倒臭そうに片手でバリアを出現させ、針が防がれる。
「私も居る」
「見えてるぜ」
視線が逸れた隙を突いて瞬時に距離を詰めたシロン。
しかし、放った斬撃もジェルドの籠手で防がれる。レーアの針を防いだ時と違い、攻撃を受ける部分にのみエネルギーを集中させていた。
「一点集中のバリアか」
一歩後退し、速度重視の連撃に切り替えて踏み込む。
鎧に覆われていない皮膚部分を狙うも、刃が深く入らない。
赤黒く染まった皮膚は、鎧と同等の防御力があるように感じられた。
「速ェだけだな」
シロンの斬撃を浴びながら、ジェルドが両の拳を打ち合わせる。
エネルギーの流れから攻撃を察知して、シロンが跳び上がる。
発生した紅い光の環がシロンの足下を抜けていき、背後の建物にめり込み破壊していく。
「ハッ、勘の良い野郎だ」
ちらとレーアの方を見ると、浮遊して回避したようだ。攻撃を喰らった様子はない。
「どうやら、まだその力に慣れていないようだな」
シロンの言葉に、ジェルドは口を歪めて嗤う。
「慣れた時がお前の死ぬ時だ」
「その前に斬り捨ててやる」
「ほざけッ!」
声を荒げると同時、ジェルドが手を突き出して衝撃波を発生させる。
それをシロンは横跳びで回避し、剣を手の中で回転させ風を纏う。
「『エア・スラスト』ッ!」
纏った風を叩きつけるようにして突きを放ち、ジェルドを大きく後退させる。
「風圧……じゃねェよな。風魔法か」
突き自体は防がれるも、同時に放たれた風がジェルドの皮膚を浅く裂いていた。
「返してやるぜ、『エレクトロイア』ッ!」
指先から放たれた紅い稲妻がシロンに襲い掛かる。
そのまま鞭を振るうように腕を動かし、稲妻の軌道を縦横無尽に変化させる。
「くっ……隙がないな」
シロンは、変則的な軌道で暴れ狂う稲妻を回避するので精一杯といった様子で、攻撃に移れないでいる。
「粘るじゃねェか! だが、すぐに細切れにして……」
言いかけて、ジェルドはハッとする。
先程まで視界の端に捉えていたレーアの姿が見当たらない。
「……逃げやがったか」
早々に思考を切り上げてシロンの方に向き直る。
「シロンっ! 避けて!」
その時、上空から声が響いた。
シロンは声の方を見るより先に飛び退き、その場から離脱する。
空を見ると、レーアが巨大な光の球を作り出していた。
「クソッ……回避は間に合わねェな」
星に莫大な魔力を込めて敵へ墜とす、レーアの『アストラル・インパクト』の威力を肌で感じ取ったのだろう、ジェルドは警戒を高める。
両手をレーアに向け、巨大なバリアを二重にして出現させる。
「来いよ、撃ち終わりの隙に殺してやる」
「やぁぁあああっ!!」
掛け声と共に光球が放たれ、加速しながらジェルドへと墜ちていく。
バリアに衝突すると、鈍い音を響かせながら光球がバリアを削り始める。
「ぐ……なんだこの力は……」
想定外の威力に、ジェルドが顔を歪める。
「以前より威力が上がっているな。出力の違いか、技術の上達か……」
退避した先、建物の上から様子を見ながらシロンが呟いた。
「……やはり、魔法のことは私にはさっぱりだ」
限界を迎えた光球が大爆発を起こし、辺りが光に包まれる。
「ふぅ……移動させておいて正解だったね」
レーアは事前に建物の陰に避難させておいたマルドの無事を確認すると、爆発の中心、ジェルドの方を見る。
「……クソ共が」
煙の中から、恨み言を吐きながらジェルドが姿を現した。
「無傷……じゃないけど、やっぱり全然効いてない……」
肩を落とすレーアに照準を定め、ジェルドがエネルギーを放とうとする。
「忘れてもらっては困るな」
「鬱陶しい野郎だ」
しかし、それはシロンが放った背後からの斬撃によって止められる。
「……こんなとこで使うつもりはなかったんだがな」
言いながら、ジェルドが鎧に埋められた宝石を叩き割る。
「これは……」
放たれる尋常でないエネルギーの圧に、シロンも目を見開く。
「制限解放……本当の力を見せてやる」




