第39話 『絶望に届く銀閃』
都市は変わらず喧騒に包まれており、そこかしこから戦闘音が響いている。
ここから特定の個人を見つけ出そうとするなら、先程のように、偶然鉢合わせるのを待つ方がよほど期待できるだろう。
「残るは動力区……だが」
現状では、ジェルド達がザレスに対抗できると思っている根拠が分からない。
故に、恐らく敵の本拠地である動力区へ乗り込むのは避けたい。
「拷問も無駄だろうな」
ジェルドがフェルダーズのメンバーを恐怖で従わせている節がある以上、拷問は無駄になる可能性が高い。
情報を吐かせることはできるだろうが、かなりの時間がかかってしまうことだろう。
「そうなると、レーアと合流したいところだが……」
瞬間、誰かの視線を感じて振り向く。
しかし、周囲には誰もいない。
「……何だ?」
以前にも一度、誰かに見られているような感覚を覚えたことがあった。
「単なる疲労だろうか。あるいは……」
などと考えていた時、動力区の方で光が打ち上がった。
それは上空で弾け、強い輝きを放つ。
「っ!」
シロンは即座に駆け出した。建物の屋根から屋根へと飛び移り、最速で動力区へと向かう。
「まさか、一人で動力区に行っていたとは……っ!」
手には既に剣が握られており、意識を集中させて全身に魔力を纏う。
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「……何の真似だ。マルド」
荒れ狂うエネルギーの嵐を抑え込み、ジェルドが言葉を投げた。
「聞かせて欲しい」
マルドはよろめきながらも正面に立ち、ジェルドの眼を真っ直ぐに見つめながら口を開く。
「あなたの信念……原動力を」
マルドの問いに、ジェルドの表情が真剣なものになる。
「……分かってんだろ? 親父の遺志を継いで、人間たちに警鐘を鳴らすことだ」
それを聞いて、マルドも微かな希望を見出したかのように息を吐き────
「───なんて、飾る必要はもうねェんだよな」
醜悪な笑みを浮かべるジェルドを見て、マルドは全てを理解した。
初めからこの男に信念などなかった。力を求めていたのはただの本能。人間の虐殺は己が快楽の為の方針だったのだと。
「そういやァ、お前は親父に随分入れ込んでたな? 理想ってのは儚いもんだよな」
呆然と立ち尽くすマルドの横を通り過ぎ、再びレーアに視線を向ける。
「とんだ邪魔が入っちまった」
仕切り直しだとジェルドが腕を振り、鎧から光が放たれる。
疲弊した様子のレーアだったが、ジェルドは慎重に間合いをはかっていた。
直後、飛来してきた星を片手で弾き飛ばす。
「ハッ、元気じゃねェか」
レーアはゆっくりと立ち上がり、ジェルドを睨む。
「……許さない」
本を開き、暴力的なまでに魔力を込め始める。
膨大な魔力が媒体に流れ込み、周囲に魔力の風が吹く。
それはジェルドの周囲を吹き荒れるエネルギーの嵐にぶつかり、拡散していく。
「ククッ……肩慣らしには過ぎた相手だったか」
負けじと力を解放し、鎧と同化するようにジェルドの肌が赤黒く染まっていく。
「吹き飛べやァッ!!」
乱暴に腕を振り切ると豪風が発生し、レーアに襲い掛かる。
全身を包むように魔力防壁を形成して風をいなすと、鋭利な魔力の針を大量に生成し、ジェルドに飛ばし始める。
「こういうこともできるんだなァ……!」
対するジェルドは片手を前に向け、エネルギーを凝縮してバリアを張った。
針を防ぎながら、自身の力を確かめるように、もう片方の手を握ったり広げたりしている。
「……なら、これも防いでみなよ」
針の射出をやめ、自身の胸の前に魔力の塊を生成する。
顔くらいの大きさの魔力球だが、大量の魔力が込められているため威力は凄まじいだろう。
「面白ェ……! それなら、俺からもプレゼントだ!」
レーアを真似するようにジェルドも右手にエネルギーを集約させ、球体にして排出する。
「やぁっ!!」
「おらァッ!!」
両者とも同時にそれを投げ合い、純粋な魔力と純粋なエネルギー同士がぶつかり合う。
衝突地点からは電流が迸り、レーアの紫色の魔力と、ジェルドの紅色のエネルギーが辺りを眩く照らす。
「うぁぁあ……っ!」
全身を力ませて、レーアが魔力球を押し込もうとする。
このまま競い合っていれば、二つの力が反発し合って大爆発が起きるだろう。
二人もそれを見越しており、互いに自身を守るための余裕は残していた。
「……っ」
その時、レーアの視界に影が映る。
初撃の豪風によって気絶し、傍らに倒れるマルドだ。
位置も悪く、このまま爆発が起きてしまえば巻き込まれることは必須だろう。
一瞬の気の迷い。それはこの瞬間においては致命的な隙となった。
「余所見なんて余裕じゃねェか!!」
勢いが弱まったのを感じて、ジェルドが一気に押し込んでくる。
急いで反応するも、勢いづいたエネルギーを抑えることができない。
「『エア・スラスト』ッ!!」
その時、横から飛び込んできた影が二つの球をまとめて吹き飛ばした。
空気を抜かれた風船のような不規則な軌道で飛んでいき、空中で大爆発を起こす。
「……チッ、誰だ」
「あっ……!」
ジェルドにとっては突然の乱入者であり邪魔者。
そして、レーアにとっては心の底から待ち望んでいた人物。
「待たせてすまない。……無事で良かった」
透き通るような白い髪を揺らし、赤い外套に身を包んだシロンがそこに立っていた。




