第35話 『意志の刃』
レーアは全身に魔力を込めると、星の光と共に上空へ舞い上がる。
空から都市を見下ろせば、簡単に見つかると考えたのだ。
しかし、ここでレーアは問題に気付く。
「んー、分かんないな……」
ただでさえ身体の小さなドワーフを、それも大勢いる中の一人を上空から見つけるのは至難の業であった。
頑張って目を凝らしても、走り回るドワーフたちが見えるだけだ。
このまま無駄に魔力を消費し続けるのも良くないと思い、地上へ降りようとする。
その時、動力区の辺りに赤い光が見えた。光はすぐに消えてしまったが、強い輝きを放っていたそれをレーアは見逃さなかった。
「怪しい……!」
罠の可能性もある。だが手掛かりは他にない。
少しの逡巡の後、光が見えた場所に向かってみることにした。
空中移動にも慣れ、スピードを上げながら動力区の方へと飛んで行く。
敵か味方か分からないドワーフたちの横を通り過ぎながら、動力区に降り立った。
降りてすぐに、床の造りが他の二つの区とは異なっていることに気付いた。
他はどこも網目状の金属床だったが、ここは厚い石床が敷かれている。
周辺の床にはガラスの破片が散らばっており、地下へ続く階段が等間隔に配置されていた。
それ以外には特に何もないため、動力区は地下に主機能を置いている場所だということが分かる。
「……い、行くしかないよね」
謎の光は確かに動力区で見えたものだった。
地上には階段以外には何もないため、地下を探索してみる他ない。
「うぅ……」
階段の先は暗闇が広がるばかりで、とても楽しく探索できるとは思えない。
レーアは灯りとして大量の星を呼び出すと、意を決して階段の一段目に足を延ばす。
瞬間、星々がレーアを守るように正面に集中し、衝撃と共に辺りに轟音が響いた。
奇襲の直後、一人のドワーフが正面に着地する。
彼が構える武器、その異様な形状に目を見張る。鎖の先に、棘だらけの鉄球がぶら下がっていた。
「魔法使いか。今の一撃を防ぐとは大したものだな」
威嚇するように鉄球を振り回し、レーアを睨み付ける。
「あなたがジェルド……さん?」
「私はジェルド様の部下、マルドだ」
それを聞いて、レーアが表情を強張らせる。
確かに、他のドワーフたちとは雰囲気が違っていた。
「貴様は人間だな。ならば、生かしては帰さん」
威圧的に言い放ち、手元で鎖を巧みに操りながらレーアの方へ鉄球を飛来させる。
レーアは素早く本を開くと、魔力を込めながら前方に防壁を形成する。
通常の魔力防壁に比べ、レーアの防壁は魔力に加えて星の力で強度が引き上げられていた。
防壁に弾かれた鉄球がふわりと浮き、がら空きとなった本体に星の弾幕を撃ち込む。
「『スター・ショット』っ!」
マルドが瞬時に鎖を振り下ろす。
鉄球が射線上に割り込み、レーアの攻撃は防がれてしまった。
「ん……それならっ!」
再び本に魔力を込め、今度はマルドを囲むように星を展開する。
星々が煌めき、全方位からの一斉射撃が放たれた。
マルドは鉄球を高速で振り回し、迫る星を全て弾き返そうとする。
「ぐぁっ!」
しかし、光の中から苦悶の声が漏れる。
全てを防ぐことはできず、数発被弾したようだ。
膝をつくマルドに、レーアが声をかける。
「ねえ、マルドさん。……戦う以外の方法ってないのかな」
レーアがずっと考えていたことだ。
悲しげな声に、マルドが脇腹を押さえながら返す。
「……私たちとて何度も考えた。だが、失ってからでは遅いのだ」
言いながら、鎖を強く握り締める。
レーアも距離を取り、周囲に星を集める。
「じゃあ、私が止めるよ」
レーアは内心で喜んでいた。
皆が皆、憎しみに盲目的に支配されているわけではなかった。
「……ちゃんと話せば、分かってくれるはず」
呆れられるかもしれない。笑い飛ばされるかもしれない。
それでも、少なくとも目の前にいるマルドは会話に応じてくれた。彼の葛藤を感じ取った。
そうして、自分なりの答えを出したレーアの顔は晴れていた。
「はぁっ!!」
マルドは飛び上がり、鉄球でレーアを叩き潰そうとする。
だが、勢いをつけた一撃はまたも防壁によって弾かれる。
「ぐ……厄介なものだ、魔法とは……ッ」
そのまま着地すると、今度は軌道を掴まれないように鎖を左右に揺らし、鉄球を蛇行させる。
レーアはふわりと浮き上がると、暴れ回る鉄球を避けるように大きく旋回しながらマルドに近づいていく。
彼女は既にこの武器の特性を見抜いていた。
遠距離・広範囲の攻撃が可能だが、至近距離での攻撃には対応できない。
地面を滑るように弧を描き、その勢いのまま一直線にマルドに接近する。
素早い動きで攪乱しながら一気に切り込むその戦い方は、まるで誰かの動きを模倣しているようだった。
「はぁぁあ……!」
右手に光を集約させ、魔力を溜める。
マルドの眼前に迫り、手を伸ばそうとした瞬間。
「痛っ!」
腹部に鋭い痛みが走り、咄嗟に距離を取る。
見れば、マルドの手に短刀が握られていた。
「鎖武器の分かりやすい弱点だ。当然、対策している」
短刀を一振りし、先端についた血を払い落とす。
「……ありがとね、守ってくれて」
腹部を裂かんとした凶刃は、淡い光によってその脅威を軽減されていた。
ほとんどの星を右手に集約させていたため、完全に防ぎきることはできなかったが、まともに食らっていればどうなっていたか分からない。
呼吸を荒くしながら、再び二人が向き合う。
マルドが鎖を鳴らしながらレーアを睨み付ける。
「仕切り直しだ」
鋭い眼光に怯みそうになるが、腹部に血を滲ませながらレーアは声を上げる。
「絶対……諦めさせるから!」
星を散りばめたような瞳の奥に、決意の炎が静かに宿った。




