第36話 『決意の光』
星々の持つ治癒の力には、一つだけ欠点があった。
『あ、あれ……?』
『どうした?』
地下シェルターの一室で、シロンが治癒の力に気づいて色々と検証を行っていた時のことだ。
『なんでだろ……治せない』
『……ふむ』
レーアも指先に傷をつけて治してみようとしたが、治らなかった。
原理は分からないが、治癒の力を自分に使うことができなかったのだ。
距離を保った状態での打ち合いが続き、互いに決定打には至らずにいた。
「……っ」
幾度目かの防御を行い、衝撃を受けた星が弾ける。
星の強度はレーアの込めた魔力量に依存する。
彼女は一般的な魔法使いに比べて桁違いの魔力を保有しているが、扱いにおいては熟達しているとは言えない。
無駄に魔力を消費してしまうことが多く、膨大な魔力を効率的に扱えないでいた。
「ふんッ!」
マルドの力強い声と共に、頭上に鉄球が振り下ろされる。
防壁を出現させようと両手を向けるが、十分な量の星の光が集まらない。
反射的に飛び退いたものの、足がもつれて地面を転がる。
「ようやく、底が見えてきたな」
グルグルと鉄球を振り回し、マルドが口角を上げた。
「だい、じょうぶ……っ」
レーアを心配するように周囲に寄る星の光に、苦しげな笑みを見せる。
「でも、このままじゃ……」
押し切られ、負けてしまう。それはレーアも理解していた。
理解していたからこそ、焦りを募らせる。
全方位からの弾幕であれば確実にヒットする。
しかし、それでは威力が分散してしまうため、大したダメージにはならず、魔力の消費がリターンに見合わない。
大量の魔力を込めた一撃であれば確実に致命打を与えられる。
しかし、レーアの魔力量では下手をすれば命を奪ってしまうかもしれない。この戦いで目指すところはあくまで説得、話し合いであり、マルドを殺すことではない。
防戦一方となっている現状を打開する手立てが浮かばず、レーアは歯噛みする。
ふと、マルドの持つ鎖に意識が行く。
攻撃も防御も、鉄球を使った行動には常に鎖の操作を要求されていた。
当然と言えば当然のことで、だからこそ特別それに意識を向けることはなかった。
レーアに訪れた初めての窮地。命を危険に晒される感覚が、一つの打開策を導き出した。
笑みを浮かべ、残った星の光をかき集める。
「いくよ、今度はこっちから!」
声を上げ、ふわりとその場に浮かぶ。
滑るように低空を移動しながら、速度を上げていく。
それを見て、マルドが目を細める。
「同じことを……芸のない奴だ」
レーアは右手に魔力を溜めながら、マルドに向かって一直線に距離を詰める。
十分に接近したタイミングで、マルドが声を張り上げる。
「言っただろう! 近距離は短刀の間合い……っ!?」
しかし、マルドの振り抜いた短刀が空を切った。
すぐに構え直し、攻撃に備えてレーアの方を向く。
「ふふ、違うよ……」
短刀に力を込め、鎖から意識が逸れるこの瞬間。
「狙いは……こっち!」
放たれた『アストラル・スラッシュ』が、マルドの持つ鎖を断ち切った。
地面に転がる鉄球を見て、マルドが感嘆の声を漏らす。
「……なるほど。確かに、これでは使い物にならんな」
持っていた鎖を投げ捨て、レーアの方に向き直る。
「だが、それがどうした」
言いながら、短刀を構える。
レーアの頭に浮かぶのは次なる作戦───
「……ど、どうしよう」
ではなく、焦りだった。
高揚に身を任せて作戦が成功したところまでは良いが、この先のことをレーアは全く考えていなかった。
星の光はほとんど光を失っている。休憩を挟まなければ、再び輝きを放つことは難しいだろう。
「……私だって、みんなに頼りっきりじゃないんだから」
純粋な魔力で周囲に数本の剣を生成し、その切っ先をマルドに向ける。
「行くぞ」
短く吐かれた言葉と共に、レーアの方へと踏み込んでくる。
行く手を阻むように剣を飛ばすが、一本は短刀で弾かれ、一本は避けられてしまう。
「やぁっ!」
「くっ!」
刃の届く距離まで接近され、咄嗟に突き出した手から魔力を放出させてマルドを吹き飛ばした。
レーアの額に汗が浮かぶ。これが普段シロンが見ている景色なのかと思うと、改めて彼女のすごさに気付かされる。
「……なんて、考えてる暇はないもんね」
両手に魔力を集中させ、巨大な魔力の玉を生成する。
「てやっ!」
それをマルドに───ではなく、彼の付近に投げ飛ばす。
着弾したそれは爆発を起こし、マルドが遅れてガードをあげる。
「ぐうっ!」
爆風に飛ばされた先にあった壁に背中から激突し、声を漏らす。
自分を狙ったものではないため、軌道が読みづらい。
仮に読めたとしても、爆発の範囲が大きいため回避は現実的でない。
膨大な魔力を保有するレーアによる、理不尽なまでの力押しであった。




