第34話 『恐怖の矛先』
二人は民家の床から顔を出し、周囲の様子を伺う。
外はシェルター内の静けさが嘘のような騒がしさであり、混戦になっていることが容易に想像できた。
民家の中に人の気配は感じられなかったため、二人は部屋の隅に身体を寄せる。
どこに監視の目があるか分からない。二人は小声で話し始める。
「まずは、外の様子を把握する必要がある。頼めるか?」
「任せてっ」
レーアが本を広げると星の光が溢れ出し、彼女の周囲を浮遊し始める。
「ちょっとだけ、外を覗いてきてほしいの。お願いできる?」
言葉に反応し、集う光が小さく明滅する。
星々は民家を飛び出して行き、レーアたちは再び暗闇に身を溶けさせる。
数十秒後、偵察に出た星々が二人の元へと戻ってきた。
「……ん、わかった。ありがと」
星の声を聞いて、レーアも情報を得たようだ。
タイミングを見てシロンが聞く。
「状況は?」
「今のところ、こっちが押してるみたい。見える範囲だと怪我してる人もいないって」
顔を明るくするレーアとは反対に、シロンは険しい表情を浮かべる。
「……そうなると、ジェルドは表に出てきていないということだろう。何をしているか分からないのは、場合によっては下手に暴れられるより厄介だ」
「あっ、たしかに……」
一見すると好機ではあったが、シロンの懸念にレーアも納得の色を見せる。
「作戦変更だ。ジェルドの居場所の特定を最優先とする」
立ち上がって剣を抜き、鋭い視線を外へと向けて言った。
レーアも、ぴょんと立ち上がって言う。
「それなら、手分けして探した方がいいよね?」
「そうだな。外に出たら別行動としよう」
レーアの提案に賛成し、二人は民家の外へと出る。
しかし、すぐに三人のドワーフと鉢合わせてしまう。
首に黒いスカーフを巻いていることから、フェルダーズのメンバーであることが分かる。
その手にはツルハシではなく、大槌や大斧といった戦闘用の武器が握られていた。
「人間……!」
ドワーフは二人を見て、目の色を変える。
向けられる憎悪の視線など意にも介さず、シロンが剣先を向けた。
「ジェルドの居場所を吐け。従えば、危害は加えない」
紅の双眸を向けて言い放ち、全身に魔力を纏う。
ドワーフたちは気付いていない様子だが、魔法使いであるレーアにはそれが感じ取れた。
ピリピリとした空気が流れ、レーアが思わず息を呑むと同時。
「舐めるなァァ!!」
「……無駄だ」
一人が怒り狂って突撃してくるのを見て、シロンが冷たい声で言い放つ。
銀閃が奔り、ドワーフの持っていた大槌が真っ二つに裂かれ、その場に落ちた。
武器を失っても、なお殴りかかろうとするドワーフの拳が届く前に、シロンが顎を蹴り上げる。
蹴りの衝撃で吹き飛ばされ、奥にあった民家の壁に突き刺さった。
狼狽えている二人のドワーフに、シロンは再度問う。
「ジェルドの居場所を吐け。次は斬る」
「い、言えねえ……」
シロンはその反応を見て、眉をひそめる。
目の前で剣を突き付けているにも関わらず、恐怖の対象が自分ではない、別の何かに向けられているように感じられたのだ。
「……仕方ない」
拷問するにしても時間の無駄だと、シロンは情報を引き出すのを諦めて剣を鞘に納める。
戸惑うドワーフたちの背後に回り込み、手刀を浴びせて気絶させた。
「こ、殺しちゃうのかと思った……」
「レーアもフェルダーズの成り立ちは聞いたのだろう? 私たちには関係のない話とはいえ、無情に斬り捨てるのも酷だと思っただけだ」
「……その割には、すごい蹴っ飛ばしてたけどね」
「魔力を纏った身体に慣れていないせいだ。その場で気絶させるだけのつもりだったのだが」
話しながら、無力化した二人のドワーフを民家の中まで引き摺り、壁に寝かせる。
「拘束しておきたいところだが、状況が状況だ」
「起きませんように……」
手をぱんぱんと打ち鳴らして埃を払うシロンの後ろで、レーアは祈るようにドワーフたちに手を合わせていた。
改めて外へと出た二人は、打ち合わせ通り別行動を取ることにした。
「気を抜くなよ。何かあれば、すぐに逃げるんだ」
「もう、分かってるってば! シロンもちゃんと逃げるんだよ?」
再三の忠告に、レーアが声を上げる。
そのまま、二人は混乱の渦中へと身を投じていった。




