第28話 『夢』
「疲れたぁ~」
採掘作業の後、レーアたちはドワーフと一緒に休憩を取っていた。
彼らが用意した弁当を分けてもらい、適当な岩に腰掛けながらそれを食べている。
「あっ、そういえば」
ぐーっと伸びをしながら、レーアが声を上げる。
「今日はどこで寝ようね? その辺で寝てたら迷惑になっちゃうだろうし……」
「それなら、居住区で宿屋を見つけた。そこに泊まれば良いだろう」
手を止め、食べていた弁当を飲み込んでからシロンが答えた。
「……あれ? そもそも、今の時間って分からないよね? 空も見えないし、時計もないみたいだし……」
それを聞いて、シロンにも同様の疑問が浮かぶ。
「……あぁ、言われてみれば。考えてもいなかったな」
ふと浮かんだ二人の疑問に、近くにいたドワーフが答えてくれる。
「オレたちは時計なんか無くても時間が分かるからな。なんでって言われると難しいが、なんとなく分かるんだよ」
「え、すごっ!? じゃあ、今っていつぐらいか分かる?」
「今は夜になった頃だな。オレたちはまだ作業を続けるが、お前さんたちはそろそろ休んだ方がいいと思うだよ」
「そうだな。貴重な経験をさせてもらった。感謝する」
立ち上がり、鉱夫たちに別れを告げて二人はその場を後にする。
「楽しかったよ~! またね~っ!」
ぶんぶんと手を振るレーアに、ドワーフたちは笑顔で返してくれた。
居住区に戻った二人は宿屋を探し、やがてそれらしい建物を見つけて中へと入る。
「いらっしゃい。一泊、銅貨二枚だよ」
チェックインを終え、鍵を受け取った二人は部屋へと向かう。
「ふわぁ~。なんか急に眠くなってきた……」
部屋に入るやいなや、レーアは大きなあくびをする。
机に星の飾りを置いて、そのままベッドに倒れ込んだ。
部屋の中には椅子と机、棚にベッドと最低限の家具が設置されているだけだ。
しかし、睡眠の妨げになりそうな外の機械音や採掘音が聞こえない。
どうやらこの宿は防音の造りになっているようだ。
シロンも袋の中を整理し終えると、外套を脱ぎ、剣を置いて就寝の準備を済ませた。
「あれだけ動けば、疲れるのも当然だろう。お互いにゆっくり休むとしよう」
そう言って、レーアの隣で横になる。
ほどなくして、穏やかな寝息が耳に届いてきた。
シロンも静かに目を瞑り、その意識も闇へと溶けていった。
『レーアちゃん』
声が聞こえた。
目を開けようとしても、その動作ができない。
目だけではない。手も、足も、動かすことができない。
まるで自分がそこに存在していないようだ。
不思議な感覚だった。
そこに自分はいないはずなのに、声だけがはっきりと聞こえる。
声に対して返事をしようにも、自分は声を出すことができない。
ただ次の言葉を待つしか───
『聞いて』
なんてことを考えている間に、再び声が聞こえた。
『あなたに危険が迫ってる』
遅れて気付いたが、声の主は幼い少女のものだった。
レーアよりも、さらに幼いように感じる。
『……ごめんね。わたしもよく分からない。でも、感じるの』
まるで根拠のない警告だった。けれど、どこか説得力があった。
『忘れないでね。あなたにはこの子たちがついてる』
その時、真っ暗だった視界に光が浮かぶ。
見覚えのある光。これは、レーアが長く共に過ごしてきた星の光だ。
『それに、素敵なお友達もいるようだしね』
声に続き、もう一つの光が浮かぶ。シロンだ。
自分と同じくらいの歳であるのに、常に冷静沈着で頼りがいのある、一番の友達。
『気をつけて。近い内に、きっと────』
「……あれ」
目を覚ましたレーアは、眠たげに目を擦りながら周囲を見回す。
「んん……?」
「どうした?」
レーアの声に、当然のように先に起きていたシロンが反応する。
「何か失くしたのか?」
ぼーっとした様子で何かを探すような素振りを見せるレーアに、シロンが再び問う。
「なんか……変な夢見ちゃって……」
「夢?」
シロンに聞かれて、レーアは夢の記憶を辿りながら答える。
「えっと……何もない真っ暗なところで……女の子の声が聞こえて……」
夢の内容というのは時間が経つにつれ薄れてしまうものだが、今回のそれは少し違っているように感じられた。
記憶に霧がかかっているように、思い出そうとしても断片的にしか想起できないのだ。
「『気をつけて』とか『危険が迫ってる』とか……」
「確かに不穏ではあるが、ただの夢だろう?」
「夢……だったのかなぁ」
すっきりしないといった面持ちのレーアだったが、それ以上は何も思い出せなかったので、ベッドから降りて着替え始める。
机に置いた星の飾りを手に取ったところで、ハッとしたように声を上げる。
「あっ! そうだ、この子たちがついてるって……」
その時、外から爆発音が聞こえた。




