第27話 『採掘のやり方』
その頃、シロンは一人で居住区を歩いていた。
ザレスの言っていた通り、ただの生活空間というわけではないらしい。
鉱石の加工や鍛造があちこちで行われ、金属を打つ音が絶え間なく響いている。
「なるほどな。工業都市と言うだけはある」
機械で熱せられた金属が取り出され、金床の上で叩かれる。無駄のない動きで一連の作業を行うドワーフたちを見ていると、彼らの技術の高さが自然と伝わってくる。
市場を回って必需品を買い終えた後、気になっていた装備品を探してみることにした。
「すまない、少し良いだろうか」
「おっ? どうしたね」
道行くドワーフの一人を呼び止め、聞いてみる。
「装備品を扱う店はどこにあるんだ?」
「それなら、ガルドの店が良いと思うぜ。あそこの青い旗んとこだ」
指し示された先に目を向けると、青い旗を掲げた工房があった。
「そうか。ありがとう」
礼を述べ、工房へと向かってみる。
工房の前には露店があり、そこで装備品が販売されていた。
「どれが欲しいんだ」
品を眺めていると、無愛想に店主が聞いてきた。
宝石が埋め込まれたネックレスや輝きを放つ剣などが並べられているが、シロンの興味を引いたのは何の変哲もない赤い外套だった。
「これは?」
「そいつは簡単な魔法なら弾く。それ以外でも魔法なら被害を抑えられる」
ぶっきらぼうに告げる店主に、周りのドワーフもどこか距離を置いているようだ。
だが、誰とでも打ち解けられる性分ではないシロンにとっては、その方がむしろ気楽だった。
「買おう。いくらだ?」
「銀貨四枚だ」
袋から銀貨を取り出し、シロンは赤い外套を購入した。
身に纏い、その場で軽く身体を動かしてみる。
「ふむ。悪くないな」
動きに影響がないことを確かめると、良い買い物をしたと満足気な様子を見せる。
「採掘区も見に行ってみるか」
一通りの用事を済ませたシロンは、そのまま採掘区へ向かってみることにした。
区画を跨ぐと、景色こそ変わり映えしないものの、行き交うドワーフたちには明らかな変化があった。
厚手の装備に身を包み、多くの者がツルハシを担いでいる。居住区と比べ、少し空気が重いように感じられた。
「レーアも来ているのだろうか」
採掘に興味を持っていたレーアのことを思い出し、歩きながら探してみることにした。
そうしてしばらく歩いていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「わーっ! 虫! 虫がーっ!」
「おい、落ち着け! 振り回すな!」
「うおぉいっ! こっち来るんじゃねえ!」
見れば、レーアがツルハシを振り回しながら周辺の岩を粉々に砕いて回っている。
相変わらず元気なものだと苦笑しながら駆けて行き、ツルハシをレーアの手から弾き飛ばす。
「わっ!?」
ぺたんと尻もちをつくレーアに、シロンが手を差し伸べる。
「楽しむのも良いが、もう少し冷静に行動してくれ」
「ご、ごめん……あれ? シロン、それどうしたの?」
レーアの視線は、シロンが纏っている赤い外套に向けられていた。
「これか? 先程、市場で買ってきた。簡単な魔法なら弾くそうだ」
「へぇ~! 見た目も似合ってるし、いいじゃんっ!」
そう言って、何かを期待するような目でシロンを見つめるレーア。
「……これしか買っていないぞ」
「しゅん……」
どうやら、自分も新しい装備が欲しかったようだ。
二人の会話を聞いて、近くのドワーフが話しかけてくる。
「レーアちゃんは確か魔法使いだったな。魔法使い用の装備は、カルテトではあまり売ってねえ」
「ドワーフには必要ないからか」
「だな。オレも作ったことはねえだよ」
それを聞いてさらに肩を落とすレーアを、ドワーフが慰めていた。
「ところで、レーアは何をしていたんだ?」
「……あっ、そうそう。ここがモルドさんの言ってた『採掘体験場』ってところ! シロンもやってみたら?」
「おう、せっかく来たならお前さんもやっていくといいだよ」
レーアに続いてドワーフの後押しもあり、シロンもツルハシを手に取ってみる。
「ほれ、この岩だ。まずはそいつで思いっきり叩いてみるといい」
「分かった。では……」
言われた通りにツルハシを構えて、勢いよく振り下ろした。
音を立てて砕けた岩を見て、ドワーフも感心した様子だった。
「ほう! お前さんは、なかなか筋がいいな!」
「ふむ。思ったより使いやすい道具だな」
そう言ってツルハシを担ぐシロンの姿は、既に堂に入っているように見える。
「私も負けてられないっ!」
ぐっとツルハシを握りしめ、レーアが奮起する。
そうして二人はしばらくの間、ドワーフたちと共に採掘に勤しんだ。
「おっ、そいつはメテライト鉱石だな! かなり希少だぞ」
「はぁっ!」
高速で坑道を掘り進めるシロンは、ドワーフの言葉に気付かず眼前の岩を鉱石もろとも斬り裂いた。
「ん、何か言ったか?」
「……いや、何でもねえだよ」
その時、シロンたちの方へ破壊音が近づいてくるのが聞こえた。
「こ、今度は何だあ……!?」
ドワーフが叫ぶと同時に通路の壁が破壊され、
「虫っ! 虫ぃぃっ! いやぁああっ!」
涙目のレーアが悲鳴を上げながら飛び込んできた。




