第26話 『探検の時間』
「ま、待たせたね……」
しばらくして男は立ち上がり、手紙を手の中で静かに燃やした。
「それで、現状は把握できたのか?」
「あ、あぁ。オーブのことだよね。大丈夫……」
男は近くにあったコップを引き寄せ、水を飲み始める。
「破壊する算段があるんだな」
「い、いや……もう壊したよ……」
「えっ! そうなの?!」
予想外の言葉に、二人は驚きの表情を見せる。
「あんな危険物、いつまでも置いておくわけにもいかないし……」
「あれは祝福のオーブと呼ばれていたはずだが、ドワーフたちの反発はなかったのか?」
「ぼ、僕が危険性を説明したら、すぐに納得してくれてね……彼らにとって大賢者様とやらは、それほど偉大な存在らしい……」
男はそう言って、自嘲するように乾いた笑みを浮かべる。
「そ、そうだ。僕はザレス……ザレス・メレドだよ……。よろしく……」
「あっ! 私は……」
「ひ、必要ない……。レーアちゃんに、シロンちゃんだよね……? 二人のことは手紙で読んだよ……」
自己紹介を返そうとしたレーアたちを遮るように、ザレスが言った。
「ですっ! よろしくお願いします!」
「よろしく」
二人が挨拶を終えると、ザレスは持っていたコップを机に置く。
「そ、それで二人は……ラステアに向かう途中なんだよね……? すぐにここを、発つつもりかい……?」
「数日ほど滞在しようと考えている。色々と興味深いものも多いし、私もしばらく見て回りたい」
「私はツルハシが使いたい!」
レーアの勢いに気圧されながら、ザレスが胸元から一枚の紙を取り出し、それをレーアに手渡す。
「これはカルテトの……地図だ。それほど広い場所ではないけど……入り組んでるから、迷わないようにね……」
「おーっ! ありがとうございます!」
「い、いいんだ……君たちの面倒を見るように、手紙で言われたから……。ま、まあ……観光に向いた都市でも……ないと思うけどね……」
レーアは地図を受け取り、早速広げて見てみる。
モルドの言っていた通り、カルテトは『採掘区』『居住区』『動力区』の三つの区画に分かれているようだ。東側に居住区、西側に採掘区、そして中心に動力区といった区分けがされている。
「ふむ。食料や水はどこで手に入るんだ?」
「居住区にある、市場だね……加工された鉱石を使った、装備品の販売とかも……まとめてやってるから……覗いてみるといいよ……」
「分かった。では、私は居住区を見て回ろう。レーアは地図を持って好きにカルテトを探検してみるといい」
「探検っ! 分かった! 行ってくるー!」
目を輝かせて飛び出して行ったレーアを見て、ザレスは感心したように呟く。
「……なんというか、手慣れているね。た、探検というワードで……彼女の冒険心を煽って……」
「私にはない、レーアの魅力だ」
どこか羨むように漏らした言葉に、ザレスは何も返さなかった。
ザレスの家を飛び出したレーアは、すれ違うドワーフたちと談笑しながら、居住区を抜けて採掘区までやってきていた。
「あっ! あれかな?」
辺りを見回しながら歩いていたレーアの視界に入ったのは、ツルハシで採掘を行う数人のドワーフたちだ。
「すいませーん!」
声をかけてみると、置かれた木箱に腰掛けて休憩していたドワーフが顔を上げる。
「人間の子供か、こりゃ珍しい。一体どうしたんだい」
「えっと……ここで掘る体験ができるの?」
それを聞いて、ドワーフが勢いよく立ち上がった。
「採掘に興味あるのか! 楽しいぞ、是非体験してってくれ!」
嬉しそうに笑いながら、ドワーフは続ける。
「最近は鉱夫も減っちまってな。こうして興味持ってくれるのはありがてえだよ」
「がんばりますっ!」
そのままツルハシを手渡され、ドワーフが手本を見せてくれる。
「ここに力を込めるんだ。それで、こうやって……」
ドワーフはそう言ってツルハシを振り上げ、
「ふんっ!」
眼前の岩に向かって勢い良く振り下ろした。
大きな破砕音と共に、岩の半分以上が削り取られる。
「おぉ~!」
パチパチと拍手するレーアに、ドワーフは自慢げに鼻を鳴らしてみせる。
「さあ、やってみるといい」
「よーし!」
レーアはツルハシを持って揚々と前に出る。
見よう見まねで振り上げ、岩に向かって振り下ろしてみる。
ガンッ!と鈍い音だけが響き、岩には傷一つ負わせることができなかった。
「う、腕が……」
「はっはっは! オレたちでも、かなり力を込めないと掘り進められない。そんなもんだよ」
「む……」
それを聞いて、レーアはもう一度と再び振り上げる。
「そりゃっ!」
可愛らしい掛け声と共にツルハシが振り下ろされる。
その一撃で、目の前の岩が弾けるように砕け散った。
「!? こ、こりゃすげえ! どうやったんだ!?」
「えへへ! 私は魔法使いだからねっ!」
そう言って担いだツルハシの先端は、淡い星の光を帯びていた。
「……いやあ、驚かされたな。何しろ、オレたちドワーフは魔法が使えない種族なんだ」
「それでザレスさんが大賢者って呼ばれてるんだよね?」
「ただの魔法使いなら、オレだってたくさん見てきたさ。しかし、あの人より優れた魔法使いをオレは知らねえ」
その言葉に、周囲のドワーフたちも無言で頷いた。
「へえ~! やっぱりすごい人なんだ、ザレスさん!」
「と、少しお喋りが過ぎたな! そろそろ作業に戻らねえと」
「私も手伝う!」
そうして、レーアはドワーフたちと一緒に採掘へと向かった。




