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星と剣の英雄譚  作者: kito
工業都市編
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第25話 『工業都市の大賢者』


 トンネルを抜けた先に広がっていたのは、山の内部をそのままくり抜いたような巨大な空間だった。

 むき出しの岩壁には無数の鉄管が這い、ところどころから白い蒸気を噴き上げている。


 都市の中心には巨大な柱のような機械がそびえ立っており、その他にも無数の機械が低く唸るような音を上げて稼働していた。足元に伝わる振動は、都市全体が鳴動しているようにも感じさせる。


「すご……」


 三大都市の一つ、工業都市カルテト。


 魔法の一切を扱うことができない代わりに屈強な肉体を持つドワーフ族、その祖先たちが約四百年前に開拓した、山脈内部に築かれた巨大な都市だ。


 各所に設けられた鉄のトンネルを通ることで都市を出入りでき、全てのトンネルにはカルテトに住まう『大賢者』によって結界が張られているため、モンスターの類は侵入することができない。


「ところで、その道具は何だ? ドワーフの武器か?」


 シロンが興味を示したのはドワーフが担いでいる謎の道具だ。持ち手である棒の先端に、鋭く湾曲した鉄の刃が取り付けられている。


「ああ、これかい? こいつは『ツルハシ』てんだよ。石を掘るための道具だな」


「へえ~! 楽しそう!」


「興味があるなら採掘区に行くといい。最近は鉱夫なるやつ少ないから、誰でも体験できるようになってるだよ」


「どうする? まあ、聞くまでもないと思うが」


「もちろん行くよっ!」


 予想通りの返答に、シロンは肩をすくめる。


「だが、まずは用事を済ませなければな」


「だね! えっと……」


「おっと、そうだな。自己紹介を忘れてた。オレはモルドだよ」


「モルドさん! 私はレーアで、こっちはシロン!」


「早速だが一つ聞きたい。カルテトに大賢者と呼ばれる者がいるはずだが、どこにいるか分かるか?」


「おお、大賢者様に会いたいのか! なら、居住区の奥行くといい。あの方の家だけ高いとこあるから、見れば分かると思うだよ」


 モルドの指した先には、多くの家が並んでいるのが見えた。


「家もちっちゃい!」


「はっはっは! オレは採掘区に用があるから、ここでお別れだな。他何か聞きたいことないか?」


 少し考えて、シロンが聞く。


「後はどういった区画があるんだ?」


「動力区だな。動力区は、あそこに見えるでっけえ機械がある辺りをそう呼んでる。カルテトには全部でこの三つの区があるだよ」


 モルドが指すのは、カルテトを訪れて真っ先に目に入った巨大な柱のような機械。位置的にも機能的にも、あれがカルテトの中心部なのだろうとシロンも想像する。


「なるほど。もう聞きたいことはない。色々と感謝する」


「ありがとう、モルドさん!」


 礼を述べて、二人は居住区の方へと向かった。


 交易は盛んであるようだが、観光客というのは珍しいのだろう。居住区を歩く二人をドワーフたちは珍しそうに見ていた。

 居住区の最奥には坂があり、その上にはドワーフのためのものではない、普通の家が建っていた。


「あれが大賢者の家だろうな。行こう」


 二人は坂を上り、ドアの前まで辿り着く。


「大賢者さーん! いますかー!」


 レーアがノックをしながらそう呼ぶと、中から物音が聞こえた。

 すぐに扉が開かれ、中から男が出てきたが、その姿を見て二人は顔を見合わせる。


 ボサボサに伸びた茶髪に、覇気のない目。

 古びたコートを羽織り、落ち着きなく視線を彷徨わせている。


「な、なにか用……?」


 二人が想像していた人物像とはかけ離れた男がそこに立っていた。


「あなたが……大賢者さん?」


 レーアが尋ねると、男は溜息をついた。


「ど、ドワーフたちが勝手に持ち上げてるだけだよ……彼らは魔法が使えないから、僕が魔法使いというだけで……はぁ。僕にそんな気はないんだけど……」


「つまり、ただ魔法が使えるからという理由で大賢者などと呼ばれていたのか?」


 拍子抜けするような話だったが、レーアは忘れる前にとポーチから手紙を取り出す。


「そうそう、私たちこれを届けにきたの! お手紙っ!」


「て、手紙? 僕に……? 誰から……」


「王都の研究者、フィースという男だ」


「あ、あぁ。フィースくんか……何だろう。近況報告かな……」


 封を開けようとして、男がハッとしたように二人に言う。


「そ、そうだ。とりあえず上がって……適当に座ってくれれば……」


 招かれて家に入り、中を見渡す。本が詰まった棚、薬瓶の並んだ机にベッドと、本当に普通の魔法使いの家といった雰囲気だった。


 レーアたちが言われるままに近くの椅子に座ると、男も封を開けながら椅子に腰掛け、手紙を読み始めた。


「ふむ……ふむ……」


「シロン~見て見て~」


「ん?」


 見ると、レーアが顔の前で薬瓶を揺らしている。

 覗き込んでみると、水越しに映るレーアの顔がぐにゃりと歪み、間の抜けた顔になっていた。


「……何をやっているんだ」


 そうして遊びながら、二人は男が手紙を読み終えるのを待っていた。

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