第24話 『未知との遭遇』
世界を分断するロネスディール山脈。
その北部には、険しい地形と豊富な鉱類を活かして独自の発展を遂げた『工業都市カルテト』が存在する。
カルテトは三大都市の一つであり、山道を行く二人の少女が目指す場所である。
「やっぱりこれが一番楽だね~」
星の光に包まれて、ふわふわと低空を浮遊しながら山道を進むレーアに、シロンが苦笑する。
「問題ないとは思うが、魔力をあまり消費しすぎないようにな。いつモンスターが現れるかも分からない」
「はぁーい」
気の抜けた返事をするレーアは、暖かな光に包まれて微睡んでいる様子だ。
しばらく進むと、シロンが足を止める。
「待て。変な音がした」
「変な音?」
周囲を見回すが、特に何も見えない。
「うーん、私には何も聞こえなかったけど……気のせいじゃない?」
「……気を張りすぎていたのかもな」
再び歩き出そうとした二人だったが、足元に大きな影が映し出される。
見れば、巨岩が一直線に落下してきていた。
「っ、レーア避けろ!」
瞬時にその場を飛び退いたシロンに対し、レーアは反応が遅れてしまう。
「わっ!」
レーア目掛けて降ってきた岩は、彼女の頭上で弾かれて吹き飛んだ。
どうやら、星の光で浮遊していたことが幸いして、星による防御が間に合ったようだ。
「び、びっくりした……」
「まだだ。落石と思っていたが、あれは……」
吹き飛んだ岩の方を睨みながら、シロンが剣を抜く。
岩は跳ね上がり、回転しながらシロンの方へ飛来する。
「はぁっ!」
剣を叩きつけるようにして弾き飛ばすと、再び軌道を変えて迫ってくる。
「あっ! あれ本で見たよ! 身体に埋まってるコアを壊せば倒せるはず!」
その様子を見ていたレーアが思い出したように声を上げる。
それを聞いて、シロンは集中力を高める。
「……見えた、そこだ!」
回転する岩にタイミングを合わせて突きを放つと、乾いた破砕音が響いた。
赤いコアがその場に散らばり、岩も粉々に朽ちてしまった。
「厄介なモンスターだったが、一体であれば問題ないな」
そう呟いて剣を鞘に収めようとした瞬間、岩壁からくり抜かれるようにして、無数の岩が飛び出してきた。
「ちょっと! シロンがそういうこと言うからっ!」
「別に私のせいではないだろう」
流石にこの数を相手するのは難しいと判断し、迫る無数の岩を遠くへ弾きながら山道を駆けて行った。
落ち着いた頃にはすっかり日も暮れ、二人は少し開けた場所で野営をすることにした。
「今までで一番疲れたかも……」
「私も流石に疲れたが、見張りは必要だからな」
そう言って立ち上がろうとするシロンだったが、
「それなら、今日はこの子たちに見張りしてもらおうよ」
と、レーアが代替案を提示する。彼女の周囲に光が溢れ、二人を包むようにして周遊を始める。
「確かに、これなら安心だ。では私も休息を取るとしよう」
シロンが気を緩ませる様子を見て、レーアも眠気に身を委ねる。
翌朝、レーアが目を覚ますと、素振りをしているシロンが目に入る。
「起きたか。おはよう」
「おはよ〜」
特にモンスターの襲撃はなかったのだろう、辺りは昨日と変わらない様子だった。
二人は朝食を取り、地図を広げて行程を確認する。
「思ったより進んだな。このペースなら今日中には着くだろう」
「おー! 楽しみっ!」
その後も岩型のモンスターに襲われたり、レーアが転んだりという出来事はありながらも、二人は無事に目的地に到着した。
そこには、およそ自然物とは思えない、鉄の板に囲まれたトンネルがあった。
「んん〜?」
「ふむ。これがカルテトへの入口なのだろうか」
「その通りだよ」
シロンの呟きに肯定があり、二人は驚いて声の主を探す。
「はっはっは! 二人ともカルテトは初めてかね。ここだよ、下だ」
言われた通りに下を見ると、レーアたちよりさらに背の丈の低い男が、見たことのない道具を肩に担いで豪快に笑っていた。
「なるほど。ドワーフか」
「おう! カルテトはドワーフの街だよ」
「えっ、かわいい〜!」
犬や猫でも愛でるかのように、ぽんぽんと撫で始めるレーア。
こう言った反応にも慣れているのだろう、ドワーフは意に介さずに続ける。
「見たところ、お嬢さんたち二人で来たのかい。大したもんだよ」
「戦闘にはそれなりに自信がある。それで、ここを通ればカルテトに入れるのだな」
トンネルを覗き込むシロンに、ドワーフは頷いた。
「軽く案内するか? オレも今から帰るところだよ」
独特な喋り方ではあったが、ドワーフの温厚な気性を感じ取り、シロンも心を開く。
「ではお言葉に甘えよう。レーア、そろそろ放してやれ」
ぺたぺたと触り続けるレーアを引き剥がし、二人はドワーフの後についてトンネルを抜ける。
「ようこそ。ここが工業都市カルテトだ」
先に広がる光景に、二人は思わず目を見張った。




