第23話 『冒険の続き』
大祝祭から一週間、今日もレーアたちはフィースの家で目を覚ます。
「おはよー」
「おはよう! 今日も気持ちの良い朝だね!」
「おはよう、レーア」
眠そうに目を擦るレーアだったが、既に二人は食事を始めていた。
椅子に座ってそのまま机に突っ伏したレーアに、シロンが切り出す。
「それで、レーア。そろそろ王都を離れてラステアに向かわないか?」
「あ……そっか、私たちそのために戦いの練習してたんだもんね!」
「いやぁ、僕の家の居心地が良すぎるのが問題だね!」
「ね、ほんとに良いところ!」
軽口に真面目に返されてフィースは目を丸くするが、すぐにシロンの方に向き直り、切り出した。
「二人とも、世界地図を見て知っていると思うけど、ラステアへ向かうにはロネスディール山脈を越える必要がある」
レーアがポーチから地図を取り出し、机に広げて見せる。
地図には確かに、世界を左右に分断するように巨大な山脈が描かれている。
その山脈の上部、円形に空いている箇所を指してフィースは言う。
「山脈の真ん中、ここには三大都市の一つ『工業都市カルテト』がある。山脈を越えるなら、ここを経由するべきだろうね。物資を補給したり、休息を取ったりすると良いだろう」
「工業都市! 次の目的地が決まったね!」
新たな冒険の予感に目を輝かせ、レーアの顔が明るくなる。
「しかし、三大都市と言えば『祝福のオーブ』が気掛かりだ。王都のものは私たちが破壊したが、他の二つの都市ではまだ残っているんじゃないのか?」
「残っているだろうね。それも、王都と同じくいつ暴走を起こすか分からない危険な状態で」
シロンの意見に同調しながらも、フィースは普段通りの雰囲気だった。
「カルテトへ向かうことを提案したのは、さっき言った理由の他に、そのことで個人的な頼みがあるからなんだ」
「頼み?」
思案するシロンの横で、レーアが返した。
「どこにやったかな」
言いながら、フィースは立ち上がって後ろの棚を弄り始める。
「あったあった、これだ」
そう言って机の上に置いたのは、封をされた一枚の紙だった。
「手紙か?」
「だね。工業都市に大賢者と呼ばれてる人がいるんだけど、その人にこれを届けて欲しいんだ。僕からの手紙と言えば読んでくれると思うよ」
「大賢者! そんな人と知り合いなの!? すごーい!」
「あっはっは! 大した関わりはないよ。昔、ちょっとね」
自分の話になると曖昧な表現が多くなるフィースに、シロンは疑念を捨て切れずにいるのだろう、訝しむように視線を向ける。
だが、今考えることではないと頭を振って疑念を払う。
「その大賢者とやらに、オーブのことは任せれば良いんだな」
「その通り! 彼なら、その手紙だけで事情は分かってくれると思うよ」
「りょーかい! 任せてっ!」
「どちらにせよ、カルテトは経由するんだ。断る理由もない」
フィースの頼みを快く引き受け、二人は立ち上がる。
地図と手紙をポーチに仕舞って、レーアたちは準備を終える。
家を出て、王都の日差しを浴びながら、レーアがその小さな拳を突き上げる。
「よーし! 工業都市カルテトに向かって、しゅっぱーつ!」
「色々と世話になったな。感謝する」
「またいつでも来ると良い。歓迎するよ」
シロンも礼を述べ、一足先に駆け出してしまったレーアの後を追う。
エルガルド平野の東側、道なりに進めばすぐに山脈が視界に入った。
連なる巨大な山々が、まだ世界に疎い二人の少女の視界を埋める。
中には雲に届く高さの山もあり、二人はしばらくその場に立ち尽くす。
「ほわぁ……すごいねえ」
高さという点では王都の城門も同じだったが、やはり人工物と自然物では受ける印象も異なる。
「……と、あそこが入口のようだ」
冒険者やら行商人やら、多くの人が集まっているのが見える。
「簡単に通らせてくれると良いんだが」
何やら手続きを行なっているのが目に入り、シロンが呟く。
二人の番になると、騎士が話しかけてきた。
「山脈に入りたいんだね?」
「ああ。力を示せと言うのなら……」
「必要ないよ。変異ミノタウロスの件で君たちの実力は十分に把握している。立ち入っても問題ないだろう」
先の展開を予想していたが、良い意味で裏切られたシロンが目を丸くする。
「そうか。では行くとしよう」
「うん! 行ってきまーす!」
小走りでシロンについていきながら、レーアは騎士に手を振って別れを告げる。
山道はある程度整備されていたものの、平野と比べれば一歩の負担も大きい。
普段から体力づくりを行なっていたシロンは平気な様子だが、レーアは早くも根を上げていた。
「つかれたー! もう歩けないー!」
「元気そうで何よりだ」
よく通る声で弱音を上げるレーアに、シロンは呆れたようにそう返した。
また、足場も悪く、レーアが転びそうになることが何度もあった。
「っ、あぶなかった……」
「やれやれ。またか」
「えへへ」
溜息をつきながら、転びそうになるレーアが星に支えられる様子は、何度見ても慣れないものだと思った。




