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星と剣の英雄譚  作者: kito
王都編
24/37

第23話 『冒険の続き』


 大祝祭から一週間、今日もレーアたちはフィースの家で目を覚ます。


「おはよー」


「おはよう! 今日も気持ちの良い朝だね!」


「おはよう、レーア」


 眠そうに目を擦るレーアだったが、既に二人は食事を始めていた。


 椅子に座ってそのまま机に突っ伏したレーアに、シロンが切り出す。


「それで、レーア。そろそろ王都を離れてラステアに向かわないか?」


「あ……そっか、私たちそのために戦いの練習してたんだもんね!」


「いやぁ、僕の家の居心地が良すぎるのが問題だね!」


「ね、ほんとに良いところ!」


 軽口に真面目に返されてフィースは目を丸くするが、すぐにシロンの方に向き直り、切り出した。


「二人とも、世界地図を見て知っていると思うけど、ラステアへ向かうにはロネスディール山脈を越える必要がある」


 レーアがポーチから地図を取り出し、机に広げて見せる。

 地図には確かに、世界を左右に分断するように巨大な山脈が描かれている。


 その山脈の上部、円形に空いている箇所を指してフィースは言う。


「山脈の真ん中、ここには三大都市の一つ『工業都市カルテト』がある。山脈を越えるなら、ここを経由するべきだろうね。物資を補給したり、休息を取ったりすると良いだろう」


「工業都市! 次の目的地が決まったね!」


 新たな冒険の予感に目を輝かせ、レーアの顔が明るくなる。


「しかし、三大都市と言えば『祝福のオーブ』が気掛かりだ。王都のものは私たちが破壊したが、他の二つの都市ではまだ残っているんじゃないのか?」


「残っているだろうね。それも、王都と同じくいつ暴走を起こすか分からない危険な状態で」


 シロンの意見に同調しながらも、フィースは普段通りの雰囲気だった。


「カルテトへ向かうことを提案したのは、さっき言った理由の他に、そのことで個人的な頼みがあるからなんだ」


「頼み?」


 思案するシロンの横で、レーアが返した。


「どこにやったかな」


 言いながら、フィースは立ち上がって後ろの棚を弄り始める。


「あったあった、これだ」


 そう言って机の上に置いたのは、封をされた一枚の紙だった。


「手紙か?」


「だね。工業都市に大賢者と呼ばれてる人がいるんだけど、その人にこれを届けて欲しいんだ。僕からの手紙と言えば読んでくれると思うよ」


「大賢者! そんな人と知り合いなの!? すごーい!」


「あっはっは! 大した関わりはないよ。昔、ちょっとね」


 自分の話になると曖昧な表現が多くなるフィースに、シロンは疑念を捨て切れずにいるのだろう、訝しむように視線を向ける。


 だが、今考えることではないと頭を振って疑念を払う。


「その大賢者とやらに、オーブのことは任せれば良いんだな」


「その通り! 彼なら、その手紙だけで事情は分かってくれると思うよ」


「りょーかい! 任せてっ!」


「どちらにせよ、カルテトは経由するんだ。断る理由もない」


 フィースの頼みを快く引き受け、二人は立ち上がる。


 地図と手紙をポーチに仕舞って、レーアたちは準備を終える。

 家を出て、王都の日差しを浴びながら、レーアがその小さな拳を突き上げる。


「よーし! 工業都市カルテトに向かって、しゅっぱーつ!」


「色々と世話になったな。感謝する」


「またいつでも来ると良い。歓迎するよ」


 シロンも礼を述べ、一足先に駆け出してしまったレーアの後を追う。



 エルガルド平野の東側、道なりに進めばすぐに山脈が視界に入った。

 連なる巨大な山々が、まだ世界に疎い二人の少女の視界を埋める。


 中には雲に届く高さの山もあり、二人はしばらくその場に立ち尽くす。


「ほわぁ……すごいねえ」


 高さという点では王都の城門も同じだったが、やはり人工物と自然物では受ける印象も異なる。


「……と、あそこが入口のようだ」


 冒険者やら行商人やら、多くの人が集まっているのが見える。


「簡単に通らせてくれると良いんだが」


 何やら手続きを行なっているのが目に入り、シロンが呟く。


 二人の番になると、騎士が話しかけてきた。


「山脈に入りたいんだね?」


「ああ。力を示せと言うのなら……」


「必要ないよ。変異ミノタウロスの件で君たちの実力は十分に把握している。立ち入っても問題ないだろう」


 先の展開を予想していたが、良い意味で裏切られたシロンが目を丸くする。


「そうか。では行くとしよう」


「うん! 行ってきまーす!」


 小走りでシロンについていきながら、レーアは騎士に手を振って別れを告げる。



 山道はある程度整備されていたものの、平野と比べれば一歩の負担も大きい。

 普段から体力づくりを行なっていたシロンは平気な様子だが、レーアは早くも根を上げていた。


「つかれたー! もう歩けないー!」


「元気そうで何よりだ」


 よく通る声で弱音を上げるレーアに、シロンは呆れたようにそう返した。


 また、足場も悪く、レーアが転びそうになることが何度もあった。


「っ、あぶなかった……」


「やれやれ。またか」


「えへへ」


 溜息をつきながら、転びそうになるレーアが星に支えられる様子は、何度見ても慣れないものだと思った。

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