第57話「ミイラ男、旅に出ます」
「うそダろ……?もウ、とっくに日にちは変わっテる。なのニ、なんデ、あいツは帰ってこないンだ...?」
石台に腰を下ろし、誰もいない石壁に向かってつぶやく。
あれから、二度「朝」を迎えた。
つまり、棺で目を覚ましてからすでに三日目――。
……それでも未だに、ゴンギの姿はどこにもない。
王都に向かった時は、たしかに距離を正確に測ったわけじゃない。けれど、片道せいぜい半日くらいで移動してたはずだ。
入口の巨岩がズズッと音を立てて開き、ゴンギとシチューが──
「おお!無事だったか、ファラオよ!」なんて言いながら、元気に地下室へ入ってくる……。
そんな場面をこの三日間で、たぶん200回くらい想像した。
人間──いや、今の俺を人間にカウントしていいのかは微妙だけどさ、
時計も娯楽もない空間に数日閉じ込められてると、ほんと、気が狂いそうになる。
独り言の回数も、シャレにならないくらい増えた。
「独り言」といえば──
俺が棺でリスポーンした時、ゴンギに移植されていた筋肉はリセットされて、元のガリガリのミイラ体に戻っていた。
……にもかかわらず、「声」はちゃんと出せた。
つまり、声帯に関しては、移植後の状態がそのまま残ってたということになる。
……なんで?
暇すぎて考える時間は文字通り腐るほどあったからな。ミイラだから、腐るというより乾燥なのかもしれないが、
そのことについても、もう20回どころか、30回は考えたと思う。
結論から言えば、あくまで仮説にすぎないが──
俺の「セーブポイント」は、おそらく
『古代の遺物を最初に装備した瞬間』
なのではないか、というのが導き出した答えだ。
この左腕の古代の腕輪――これを初めて装備した時の状態で戻った可能性が高い。
だとしたら、リヴァイアサンに凹まされた頭蓋の微妙なへこみとか、盗賊にポッキリいかれた小指が元どおりになってるのは…まあ説明がつかん。
もしかして、俺のこの遺物や棺、あるいはそのへん一帯に、古代文明の“神サイド”の力が宿ってるんじゃないか?
そんで「魂にとっての正しい姿はコレです☆」みたいなノリで、やたら丁寧な復活をしてくれてる……とか。
……ちょっとした“神様の気まぐれ復活サービス”ってことで納得しとこう。
ありがとな、古代の神々。次は背筋もうちょっと盛ってくれると嬉しい。
とどのつまり、自分の別の副葬品を探すことも、ささやかな目標にしてるわけだけど――
見つけたとしても、次に装備するタイミングはよく考えた方がよさそうだな。
どうせなら、肉体がある程度まともに戻ってから着けたい。
復活するたびに筋肉がちゃんと動く仕様なら、だいぶ助かるしな。
ゴンギたちが死んだのかどうか、それはどれだけ考えても答えが出ない。
あいつの講義……“ネクロトーク”は、正直あまり聞いてなかった。
今にして思えば、ネクロマンサーのあいつは“雇い主”、俺はその“部下”みたいなもんだったんだから、
もう少しちゃんと聞いておくべきだった。失敗したな。
ネクロマンサーは、使役しているアンデッドに冥力を供給している。
つまり俺が存在しているってことは、あいつ――ゴンギもまだ生きてるはずだ。
使役しているアンデッドの冥力を感知できるとも言っていた。
距離には制限があるらしく、確かに渓谷とここは何十キロも離れている。
……ならば、俺がミイラの棺にリスポーンしたことに気づいていなくてもおかしくはない。
だとしても、あの衝撃波でやられたであろう俺ーー配下のアンデッドが、
再復活の術を介さず、こうして勝手に動いているのは……我ながらどうにも説明がつかない。
そもそも、棺から無数の包帯に包まれて復活した時点で、
直感的にわかった――これはゴンギの術じゃない。
もしアイツがその場に立ち会ってたら、きっとあの無表情な面構えを歪めて、
「なんだ……これは?!」
とか言って興奮してただろう。
どう見ても、これは古代文明由来の“謎パワー”による復活。
……超常現象以外の何物でもない。
断片的にしか覚えていないが、
ネクロマンサーも戦闘不能になったアンデッドも手順を組んで冥力を注ぎ直せば復活はできる、とは聞いていた。
だが、ここは戦場からはるかに離れた地下室。
ネクロマンサーの術――あの「ネクティルフォルマ」とかいう復活陣――
その形跡も、床にはまったく見当たらない
……まあ、いい。
もう考えるのは飽きた。
「向コうガ帰ってこなイなら、俺カら会いに行クか。」
ミイラ男は決めた。
この地下室を出て、もう一度ゴンギたちに会いに行く。
ネクロマンサーのこと。
アンデッド、蘇生、冥力、そして俺のリスポーン。
自分の未来のためにも、もっと色々と聞いておく必要がある。
それに、あのベヒーモスは……どうなったのか。
いちばん気がかりだ。
ただ置き去りにされて、待ってるだけの“死者”でいるつもりはない。
とりあえずは、王都だ。王都に行けば、何かわかるだろう。




