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第56話「頼むから一人にしないでくれ」

ミイラ男は、乾ききった脳をフル回転させながら、さらに思考を整理しようと試みる。

自分はおそらく――いや、ほぼ間違いなく――ベヒーモスの攻撃で生を絶たれ、この棺で「リスポーン」した。そして今、復活から数時間が経過している。

この地下室は、もともと閉鎖的で、正直なところ住み心地は最悪だ。ゴンギには悪いが、あいつの趣味はあまり快適さを優先していない。


だがあの時は、まだゴンギという会話相手もいた。そして――シチュー。

ゾンビ化した巨大ネズミの姿がふと脳裏をよぎる。最初は不気味だったアイツも、いつの間にか俺の不安を和らげてくれる存在になっていた。

「ギチュー」と鳴きながら足元をちょろちょろ歩く姿は、慣れれば可愛いもんだ。

……だが今、その姿はない。


あいつは無事だろうか? あの衝撃波をもし受けたなら...。


ネクロマンサーはアンデッドの負傷を他の屍体を冥力で繋ぎ合わせて修復することができる。

生きた人間であれば、「聖素」ーーあのユキミが使えるような、神聖なエネルギーで回復が可能だ。

だが、俺たちアンデッドや、魔界から召喚される悪魔にとって、聖素は毒。いや、猛毒だ。


だからこそ、怪我はできるだけ避けたい。

多少、腕が取れたとか、足がもげた程度なら、ゴンギに修理してもらえるだろう。

けれど、俺のように完全に「消し飛んで」しまった場合ーー

シチューだって、もう、ダメかもしれない。


……などと、ただでさえ不安な状況なのに、自分から不安を増やしてどうする。

頼む、シチュー。無事でいてくれ。

そして、ザンギリも。

というか、そもそもあの戦いはどう決着した? あの冒険者達はどうなった?

俺が直撃を受けたということは、ベヒーモスも「リバイアサン」と同じように、呪いによって命を絶たれたのだろうか。伝説の魔獣をも屠るという、我ながら規格外な呪い。

……そう信じたい。

アレは、人の力でどうにかなる存在じゃなかった。ゴロウスみたいな岩盤を引っぺ返す人間や、魔法、ネクロマンシーを使える連中が集まったとしても――ゴジラに勝てるのか?って話だ。

だからもう俺の...古代ファラオの呪いが刺さっててくれ。頼むから、それで死んでてくれ。

今のこの状況はストレスでしかない。

会話相手もいない。時間を測る道具もない。外界との接点もない。


ゴンギは王都に大半の私物を持って行ってしまって、今この地下室には、無機質な家具と、ゴンギの着替え、そして俺がもう二周は読み終えたミイラ関連の本と『ヌビトの書』だけが残されていた。

...それから、ゴンギが屍体の内臓を詰めてた気色悪い壺ーー「古代エジプトのカノプス壺のオマージュのようなもの」が棚に置いてあるだけ。

戻ってくるよな?ゴンギ。


頼むから、俺をこのまま一人にしないでくれよ。

「……はっ」

ミイラ男はふと、思い出した。

ミイラになった次の日の朝――

ゴンギがこの地下室に日光を差し込ませていた、あの時のことを。

「そうソう、この棒だっタヨな……」

ぎこちない動きでなんとか手を伸ばし、あの細長い棒を掴む。

さらに、左腕の腕輪から包帯を引き出して、棒と自分の腕をぐるぐると固く巻きつけ、即席の固定具を作る。

力任せに天井の窪みに棒を押し込むと、

――カチャッ

乾いた音と共に、棒がぴたりとはまった。

「……よシ!」

決死の思いで、スッカスカの細い腕に力を込め、天井を支える格子扉を押し上げ、スライドさせる。

意外にも造りは悪くなく、扉は「ズズッ」と音を立てて横にずれた。

包帯でガッチリ腕を固定していなければ、この力仕事は到底無理だったろう。

天井の小さな開口部――およそ1.5ヘーホーメートル四方ほどの狭い窓は、半透明のガラスのような素材で覆われていた。

魔道具か、ただの特殊なガラスか、判断はつかない。

だが今の俺にとって、それはどうでもよかった。

知りたいのは、ただ一つ――「今がいつなのか」。

そして覗き込んだ先に、光はなかった。

「……夜か!」

光が差し込まないどころか、扉を開けたことでかえって部屋が暗くなった気がする。

それはきっと、外が夜であることの何よりの証拠だろう。

たしか、ベヒーモスと戦っていたのは昼頃だったはず。

そこから考えれば、俺が「リスポーン」してここに蘇ったのは、数時間後……?


いや、それどころか、次の日か、あるいは明後日の夜かもしれない。

この地下室にはカレンダーも時計もない。

今が何日目なのかも、まったく分からない。


もし俺に、古代エジプト人のように星の動きで時間を測る知恵があれば……

とはいえ、現代日本でぬくぬく育った若造に、そんなスキルはあるはずもなかった。


だが少なくとも、明日には朝日がこの地下に差し込む。

それだけでも、ありがたい。

ミイラ男は、久しく動いていなかった干からびた胸を、

ほっと撫で下ろした。

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