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第35話「搦め手はズルいって。」


「……な、にが……おこっ……」


人狼シグの右腕が――ない。

肘から下が、跡形もなく消えていた。

痛みが遅れて脳に届き、シグは絶叫する。


その瞬間、ゴンギの腕の中から――ポトリ、と。

落ちてきたのは、見覚えのある自分の右腕だった。


霊魂殺傷壁アストラルキリング・ウォール

低く呟きながら、ゴンギは淡々と説明する。

「三体の霊体が私の周囲を囲む“壁”となっている。

無闇に触れれば、その部分ごと切断される」


気づけば、召喚されていたはずのゴーストの姿が見えない。

代わりに、紫と青が混ざりあった薄膜のような光が、

ゴンギの周囲を漂っていた。


「……なんだ、それは」

「霊にも肉体と同じく“手足”がある。

それを断つ高位死霊術だ。霊が傷を負えば、肉体にも同じ傷が刻まれる」


ゴンギは腕を地面へ放り捨て、一歩踏み出す。

「さあ――次はどうする?」


「グッ……」

シグは振り返り、倒れた屋台の机を掴むと、渾身の力で投げつけた。

ゴンギは紙一重で回避し、机が石畳を砕く。


「ほぉ……片腕でそれか」

「要は触らなければいいんだろ? お前の冥力が尽きるまで、耐えられるかな」


シグは次々と廃材を投げつける。

ゴンギは回避に専念するが、額をかすめる破片が走る。

術は発動中、冥力を消費し続ける――それを見抜かれている。


「おらおらおらぁ!」


「……ならば仕方がないな。決めるぞ」


シグが次の弾を拾い、背後へ振り向いた刹那。

ゴンギの掌がすっと向けられた。


投擲されることなく、廃材は地面へ落下。

――そして同時に、シグの腰から上が音もなく切断された。


「あ……っ!」

息を呑むユーキ。

ミイラ男もザンギリも、その光景に声を失った。


単純な話だ。

自身の周りを守っていた、アストラルキリング・ウォールを

刃のような形に圧縮して、対象へ飛ばした。それだけである。


そんな説明を得意げにする頃には、人狼の命は尽きていた。


「倒したでごわすか!」

ザンギリとシチューが駆け寄る。

ミイラ男も、人狼の襲撃で周囲から人影が消えたのを見計らい、

机の下から静かに這い出してきた。


ゴンギは戦場の空気を一瞥し、空中に指を一本ずつ立てて数え始める。

「……ひとつ、ふたつ……むっつ」

声は低く、表情は険しい。


人狼シグの魂を含め、この短時間で六柱の魂が場に縫い留められていた。

シグ以外は善良な市民ばかり、無惨に命を奪われて。


「何がそんなにまずいんだ?」とミイラ男が問う。


ゴンギは視線を落とし、指を折ったまま淡々と答える。

「たった数十分で六つの魂が、この地に縫い止められた。

無惨に死んだ魂は、しばらく肉体の周囲を離れず漂い続ける。

だが鎮魂もされず放置されれば――腐る...。

そして怨嗟に変わり、“霊喰い(ゴーストイーター)”となって暴れ出す。あれ、こいつらの天敵だな」

ゴンギは、杖へと回帰させた先ほどのゴーストたちに目をやりながら言う。


「弔ってやるべきではあるのだが…

時間がない。このままでは、この露店街が地獄と化すだろう。」

「じゃあ、どうすればいいでごわすか?」

「……仕方ない。一時的にアンデッド化させる。

お前たち、新しく“兄弟”を増やすが、構わんな?」


ゴンギの問いに、ミイラ男とシチューはすぐに全てを察し、顔を見合わせる。

察しの悪いザンギリには、ミイラ男が小声で説明を耳打ちした。


「あー、そういうことでごわすか!」と声を上げるのと同時に――

ゴンギは杖の先をトンと地に打ちつけた。

簡易版ネクティル・フォルマ――

残りの使用回数は、あと二度だったはずだ。


「まずは、周囲に漂う魂を一箇所に集束させ、霊体化させる」


杖の周囲に、薄く緑がかった半透明の膜が広がる。

よく目を凝らすと、その膜の中にいくつもの人の顔が浮かび、

口を開けて声なき悲鳴を上げている。


「痛い……」「まだ……死にたくなかった……」「ウゥ……シーミア……」


漂う声は、どれも掠れ、泣き、途切れながら耳を打つ。

薄緑の膜の内側――そこに浮かぶ顔は、さっきまで生きていた人々のものだった。


「こ、こレ……さッき死ンだ人たチカ」

「そうだ」ゴンギは感情の色を一切見せずに答える。


両断された人狼シグの死骸は、乱雑ながら腕と腹が元の場所に戻されて安置されている。

ゴンギはその屍体に向かい、再び杖をかざした。


「あレ……杖の蘇生術、二回モ使うノカ?」

「一度は霊体の具現化に、もう一度はアンデッドとしての蘇生にだ」

目を細め、低く呟く。

「……融合せよ」


その言葉とともに、緑色の靄が人狼の死骸へと絡みつく。

もやは肉を縫う糸のように体表を這い回り、

血の気のない皮膚と獣毛を、不気味な速度で結び合わせていく。


やがて、死骸は重力を嘲笑うように、足首を軸にぬっと起き上がった。

動きに合わせて関節がぎしりと鳴り、口角が不自然に引きつる。


その様を見届け、ゴンギは満足げに唇を吊り上げた。

「屍体に別の魂を…複数体宿らせたアンデッド――塚人(ワイト)だ。

素体が人狼とは……これは希少だな。ウルフワイトとでも呼ぼうか」


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