第27話「レグリゴ=ダ=オーデンハイム」
「この旅の目的は、なんなんでごわすか?」
ザンギリの突拍子もない問いに、ゴンギは仏頂面のまま短く応じる。
「んん」
そりゃそうだ。気がつけばアンデッドにされていて、しかもこれから一緒に旅をするというのだ。
目的を知っておきたいと思うのは当然だった。
「だから、我々は王都で再び冒険者となり、日銭を稼ぐのだが?金は、必要だろう。」
ゴンギが当然のように口にするが、ザンギリはどこか釈然としない顔をしている。
その様子に気づいたミイラ男が、口を挟む。
「……ザンギリが言いタイのは、”なんでそうするのか”っテ話だロ」
実のところ、ミイラ男も同じ疑問を抱えていた。
自分のような強力なアンデッドを蘇らせ、なおかつわざわざ住処を移してまで、冒険者として活動しようとする理由は何なのか。
ネクロマンサーのゴンギに使役されている立場である以上、その意図は知っておくべきだ。タダ働きとはいかない。
「チュ?」
シチューも、首をコクリとかしげて興味を示す。
ゴンギはコンパス型の魔道具を見ながら進行方向を微調整し、ようやく口を開いた。
「気になるか。……歩きながらする話ではないが、今なら少しは話してやろう」
「頼ムぞ」
「聞きたいでごわす!」
「ギチュー!」
耳を傾ける面々を前に、ゴンギはぽつりと告げる。
「私が昔の仲間と交わした、ある“約束”を果たすためだ」
「どんな約束でごわすか?」
興味津々とばかりに食いつく。
ゴンギはほんのわずかに間を置き、淡々と語り出した。
「……ザンギリよ。“北の地の不死帝”を知っているか?」
返答はなかった。
当然だ。
人里離れた所に住んでいるザンギリも、そして異世界から来たミイラ男も、その名を知らない。
一瞬の静寂が空気を包む。
ゴンギは、それを予想していたかのように話を続けた。
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不死帝 レグリゴ=ダ=オーデンハイム。
黄昏の王冠を戴く、巨躯の骸骨。
その眼窩に燃えるのは、千年を越えてなお消えぬ冥府の炎。
漆黒の鎧は鋼のように重く、威容は常人の騎士の三倍を誇る。
肩当てひとつでさえ、古の戦王が用いた神聖な聖具にも匹敵する重量と荘厳さを備え、
足音は死の権化そのもので、踏みしめるたびに大地が悲鳴を上げるという。
異名は、“死の玉座に君臨せし絶対者”。
“人の世より追われ、神々にも忘れられしノーライフキング”。
その冥力は膨大で、
聖なる属性でさえも自在に操るその姿は、光と闇の支配者そのもの。
彼が歩めば、地は黙し、空は裂け、魂は凍てつく。
それが――“不死帝”。
⸻
ゴンギがその名を語るとき、握る杖がかすかに震えていた。
「……私もな、昔はSランクだのなんだのと呼ばれたパーティーにいた。
我々はそんな称号に興味はなかったが、外野は勝手に“伝説級の冒険者”だのと騒いだもんだ」
「チュチュゥ!」
シチューだけが、キンと響く高音で応える。
ゴンギすごい!と言わんばかりの反応に、ミイラ男もつい小さく笑う。
「その“不死帝”ってのと、主人の昔の仲間、何か関係あるでごわすか?」
「ウム。あの時の我らのパーティー名は――《群れを統べる者達》。
ネクロマンサーが三人、デーモンサマナーが一人、ビーストテイマーが二人。
ま、見るからに異端な構成だったな。」
ゴンギはどこか懐かしげに、肩をすくめながら笑った。
「スゴい構成ダなそレ……」
ミイラ男も思わず目を見開く。
この世界における“冒険者”の定番構成というのは、ゴンギの話から一応耳に入っている。
前衛で敵を受け止める騎士や盾士。
火力で殲滅する剣士や魔術師。
回復で全体を支える聖術者。
ネクロマンサーや魔獣使いのような搦め手は、せいぜい一人、いたとしても二人が限度。
……それが、全員とは。
「結局、“約束”ってなンナんダ?」
だいたい察しはつく。
そんな異形のパーティーを組みながら、今、彼の傍にいるのはゴンギ一人。
つまり、あの時の仲間たちは――滅びたのだ。
不死帝の手によって。
「ウム。
言い出したのは……私だ。“不死帝を使役してみたい”と。」
場に、一瞬の沈黙が走る。
……つまりさ。
鳥好きの少年が「カッコいいから!」って、
太陽を巡る神鳥“ベンヌ”を他のインコと一緒に鳥籠に入れようとする……そんな話だろ?
……ベンヌってのは、エジプト神話の不死鳥みたいなもんだ。
「我らは、全員が魔獣や悪魔の使役者。
珍種、強種、レアな眷属がいれば、こぞって手に入れたがるような手合いだった。」
呆れるミイラ男とゾンビオークを尻目に、ゴンギは語りを続ける。
「残りのネクロマンサー、ネグとハイキヒも賛同した。
“ゴンギはおもしろいことを言う”と笑ってな。」
「今にして思えば、やりすぎだったかもしれん。
だが我らは作戦を練り、手持ちの強力な眷属を総動員して――不死帝に挑んだのだ。」
「……で、負けたでごわすか?」
「うむ。完膚なきまでに、な。」
ゴンギは笑って見せたが、その奥に、明らかな影があった。
「伝説の魔獣も、マスターランクの冒険者のゾンビすらも、我らの手にはあった。
それでも……まるで歯が立たなかった。
あれは、”人が勝てる相手ではない”。
それは挑もうとすること自体が、愚かだったのだ。」
わずかに唇を引きつらせながら笑うその顔にあるのは、後悔と無念。




