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第26話「弔いのかたちは、種族の数だけある」

日は傾き、空は濃い茜から鈍い紫へと滲みはじめていた。

木々の影は長く伸び、風が吹くたびに森の枝葉がざわめき、昼の名残をさらってゆく。

ようやく抜けた森の端に、見えはじめた城壁の灯火を目にした。


王都が、近い。


背後では、森が闇に呑まれてゆく。

前方では、街の輪郭が夕闇に溶けながらも確かにそこに存在し、

安堵とも緊張ともつかぬ空気が流れていた。


そんな中で、この一団に、“新たなるメンバー”が加わったのは――もはや言うまでもない。



彼が手にしていた、相変わらずドクロの装飾がセンス最悪な杖を、復活対象であるオークの額にコツンと当てると――

ムクムクッ……と、死体だったオークが起き上がった。


「……あれ? おいどんは……?」

オークは、ぼんやりとした表情で周囲を見回していた。

さっきまでの殺意は消え、まるで夢から覚めたような顔だ。


「ようこそ、我が配下へ」


ゴンギが無表情でそう告げる。


オークの蘇生に関して、ミイラ男は最初は全力で抗議していた。

「ちょっ、マジでやメロって! こいツ絶対まタ襲ってくルって! さッキ斧でバラされタんだゾ!?」


だがゴンギは、淡々とこう返してきた。

「心配は無用。私が復活させたアンデッドは、絶対に私に反逆しない。冥力と死霊印(ネクティル・フォルマ)により、魂もガッチリと使役しているからな。」


つまり──ゴンギの手にかかれば社畜まっしぐらということらしい。

ブラック企業の社長は、喉から手が出るくらい欲しいだろうな、この技術。


「でモサ、ココでネクティル・フォルマを描くのか?地面に描けるのか?」


下は草と、ややぬかるんだ地。


「それはやらん。あの術を簡易化して、杖に仕込んである。

 強力な魔獣を蘇らせるほどではないが、三回までなら使える。

 オーク程度なら、これで十分だ」


そうして──今に至る。


ミイラ男はおそるおそる、敵意がないことを確かめながら、新しく加わったオークのアンデッド──ザンギリに、

これまでの経緯や情報を共有することにした。


──そう、さっき何が起きたのか。

王都に向かう理由。

そしてなにより重要なのは、


「俺が、数千年前の王様のミイラである」


……という事実である。


だが、ザンギリ──ゾンビ化したオークの彼は、

話を聞いている間じゅう、ずっと眉間にシワを寄せていた。


「古代王……? え、エラいヤツってことでごわすか? それって、族長よりエラいのか?」


どうやら、オーク社会に“古代国家”とか“神権政治”とかそういう概念は存在していないらしい。

「んンー……まあ、エラいのはエラい。ピラミッド建てさセルくらいにハナ」

「ピラ……?」

「アー……三角の石ノ塊な。中ニ、死んだ王様とカヲ埋めてオクやつ」

「なんで埋めんだよ!? 普通、同族が死んだら……その屍体は食うだろ? 骨まで残さず。そっちのが手厚い弔いだと思うでごわす!」


……はい、きました。文化の衝突。

埋めるか、食べるか。

土に返すか、胃に収めるか。


人間側からすると「なんで食うんだよ!?」って叫びたくなるし、

オーク側からすれば「なんでわざわざ石の家建てて放置すんだよ!?」ってなるんだろう。


こういうとき、異種族間で“価値観を尊重し合おう”って理屈は通じるけど、

正直なところ──

「てか仲間食うなよ!? 共食いじゃん!?

そっちはそっちで、本能的にムリっす、悪いけど!!」

って気持ちが勝ってしまう。


永遠に交わらないふたつの弔い文化。


とはいえ、そうやって疑問をストレートにぶつけてくるあたり、ザンギリは意外と素直なやつなのかもしれない。

考え方は真逆でも、まったく会話にならないわけじゃない。

少なくとも、対話の土俵には立とうとしてくれてる感じはある。


「まぁいいや!……おいどんは、ザンギリっていうでごわす。

主人あるじ、どうかこれからよろしく頼むでごわすよ!」


見た目に似つかない、柔和な口調。

毛むくじゃらの手には血の気も怒気もなく、ゴンギに握手を求めてきた。

その仕草は、まるで商隊に拾われた新人傭兵のようだ。


死ぬ前までは殺る気まんまだったけどさ。


だが、言っていた通りだった。

蘇生の際にきちんと冥力を組み込み、術が機能していれば、アンデッドは忠実に仕える。

実際、ザンギリの言動を見ていて、ようやく少し安心したのだった。


「で……アンタの呪いが俺を、ってことでごわすか」


ザンギリはそう言いながら、包帯まみれの俺の身体をじろじろと眺め、顎をかいて首をひねった。


「風変わりなアンデッドだなぁと思ってたんですけどね……。

普通アンデッドっていえば、ネクロマンサーの命令で無言のまま武器を振るったり、

冥力ってやつですかい? それをぶっ放してくるイメージしかなかったんで、

正直、完全に油断してましたわ」


その語り口には、皮肉や恨みがましさは一切なかった。

むしろ、素朴な驚きと興味、そして──どこか敬意めいた感情が、思いのほか率直ににじみ出ていた。


「……数千年の曰く付きデすカら」

ポロっと言うと、よくわからないという顔をしながらも、ザンギリはやや大袈裟に笑ってくれた。

ゴンギ以外でまともに「会話」が成立する相手が増えたのは、ちょっと嬉い。


もっとも……

中年ネクロマンサーに、巨大ネズミのアンデッド、ミイラに骨、それにゾンビ化したオークとくれば──


《うん。パーティー構成がどう見ても“クセが強すぎる”。》


まるで、イシスとセトとナイルワニが肩を並べて旅してるみたいなものだ。

神と怪物と捕食者──共通点なんて一つもないはずなのに、なぜか隣に並んでる奇跡の三重奏。


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