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第20話「俺とゴンギと、時々スケルトン」

そして、面白かったのはゴンギの反応だった。

いつも通りの冷徹さで、迷いなく死体を見下ろし、

「外傷は無い。となれば急性の病死だろうな……なんと都合のいい偶然だ」

と、感情の色を一切交えぬ声で淡々と告げて、超冷静に死因を決めつけてた。


――けれど、目の前のミイラ男が動き始め、言葉を交わすうちに、彼の目に微かな動揺が走ったのがわかった。

視線が一度、目の前の特急呪物に留まり、額にじわりと汗が浮かぶ。

無表情な仮面の下に、何かが崩れ落ちる音がした気がした。


「……まさか……これも……呪いの、仕業……」

って、ひとりで納得してた。

いや、ほんと表情に出過ぎだろアイツ。妙に憎めないんだよ。


そんな小騒動も一段落して。


「捕まエタぞーッ!」

ミイラ男は叫んだ。なんかもう、勝利の雄叫びみたいなノリで。

6匹目になる、プチゴーストをしっかり両手でキャッチし、

そーっと抱きしめるように主人(あるじ)の元へ持っていく。



あいつは満足そうに「よし」と頷く。ちょっとだけ、口角が上がってる……気がする。

気のせいか? あの人の顔って“デフォルト静止画”みたいだからな。

「では、最後はこいつだ。ある意味、プチゴーストよりも素早いぞ?」


そう言い杖をひと振り。

背後でカシャン、と音を立てて──

骸骨スケルトンが、走り出した。


いやちょっと待て。

あのカッサカサのガイコツが、

助走つけて全力疾走するって、どういうことだよ!?

「ダッ」


っていう効果音とともに、マジでダッシュしてる。音もなく。

足音もなく。なんなら風も切ってない。ただ……ひたすらに速い。キモい。


しかも、あいつ……あの屍体だ。

そう、ミイラボディの筋力強化手術の素材元の盗賊屍体。

もともとそこそこガタイがよく、保存状態も悪くなかったから、手足と胸筋をありがたく拝借させてもらったわけだが、

そのせいで、手足も胸筋も、背筋も、頬の筋肉も、頭皮まで少しずつ削られて、すっかり損傷はズタボロ。

ホラービジュアル完璧なミイラ男ですら、さすがに「オエッ」ってなるくらい、見るも無惨な姿にされてしまった。


そんな様子にもまるで動じず、ただ顎髭をジョリ、と撫でながら、目の色ひとつ変えずに「……フム、さすがに汚いな」と棒立ちしているゴンギにも、正直かなり引いた。

キャーキャー騒ぎながら解剖しててもそれはそれで心配になるけどさ、あの無神経さもどうなのよ。


ヌビトの話を聞いて、異世界にもエジプトっぽい国があって、古代文明にワクワクしていた矢先、

いきなりゴリッゴリのR18指定みたいな現場を、しかも至近距離で見せつけられ、

顔を伏せて、ぼそりとこぼすしかなかった。

「……ヤっパり俺、ミイラ男に転生しテルだけアって....いイことばっカジゃねぇな。不穏すギる……」


で、話を戻すと──

さすがのゴンギも、獣に食い荒らされたみたいなその屍体を、そのまま放置しておく気にはならなかった。

腐臭はするし、害虫は寄ってくるし、床に変な跡が付くし。……そこは「単純に不快だから」っていう、もっとこう、人間的な理由であってほしかったのだが。


中途半端に残った内臓は、奴が骨董市で昔買ったという、ひび割れた古いツボに収められることになった。

「おお、これはちょうどいいな」

と、本人は妙に満足げに呟き、パカッと蓋を開けて、内臓をぐいぐいと捩じ込んでいく。

本人いわく、「ヌビト文明の資料で見た知識を応用している」とのことらしい。

……さっそく最近買ったミイラ関連の本が役に立ったというわけだが……。


いや、『カノプス壺』ってさ、本来は古代エジプトでミイラを作る時に、肝臓や肺、胃、腸なんかの内臓を抜き取って、それぞれの壺に丁寧に収めておくためのものなんだよ。

再生の時に必要だから、大事に保管しておくんだ。

……でも、それって「本人の内臓だから意味がある」んじゃなかったっけ?

どこの誰かもわからない盗賊の内臓で代用していいのか……?


そんな疑問なんかどこ吹く風で、ゴンギは夏休みの自由研究に没頭する小学生みたいな顔で、壺に詰めていた。

俺も俺で、そんな目の前の光景が少しだけ古代エジプトっぽくて、ちょっとテンションが上がってしまい、結局は最後まで止められなかった。


そして、残されたのが──このガイコツ。

その「手術の副産物」が、今こうして森の中をカシャカシャ走り回ってるんだから、なんというか、すごい世界観だな……。


全力疾走の最中、ガイコツは木の根に足を取られ、見事に転んだ。

乾いた音を立てて、破片があたりに飛び散る。

ゴンギはそれを一瞥すると、軽く舌打ちしただけで、特に心配する様子もない。


古代のミイラには、移植手術まで施して大事に扱ってくれたのに、あの骸骨――スケルトンに対してはまるで態度が違う。

無理もない。異世界のアンデッドの中では最弱クラスで、戦力としての価値も低い。

見た目もただの骨の塊で、どうしたって頼りない。


ゴンギはもともと、割と強そうなゾンビやら魔獣の白骨を従えていた。

だが、ファラオを盗掘しに来た時、魔獣に襲われ、さらに遺跡の罠まで重なって、全員失ってしまった。

今は、この弱々しいガイコツすら、戦力になるなら惜しいというわけだ。



そのファラオはこうして今、必死にリハビリして、やっとまともに走れるようになったってのに、

筋肉も皮もない、あの骸骨(アイツ)は、なぜ平然と全力疾走できるんだ?

ゴンギの説明によれば──

「スケルトンやリッチといった骨だけのアンデッドは、生前の肉体構造に依存せず、“冥術による補完”がなされている。だから、目がなくても対象を視認できるし、筋肉がなくても運動機能は失われない。さすがに、生前よりも膂力は低下するが...」


……要するに、また別の法則が働いてる。

おまけに、体重がべらぼうに軽いから、機動力まであるという。

なんだよそれ、無駄に便利すぎるだろ。


筋肉も、目玉も、いらない。

冥力さえあれば、どうとでもなる──そういう理屈だ。

……要するに、あれか。「ファンタジーの世界って、だいたいそういうもんです」で片付けられるやつだな。


かくして、シチューに続いて。

アンデッドの後輩が、またひとり(?)増えた。

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