ヒーローの在り方
一週間後、無事に退院した奏美は御鷹を連れ、新聞社の社長室を訪ねた。
「このUSBに、ドクター・マガミの全てが記録されている。アナタたちには、全ての真相を暴いて欲しい」
彼女はそう言ったが、社長は首を横に振る。
「真上玲作に関する情報は国家機密です。公開することは認められません」
「し……しかし……」
「お帰りください。この件について深入りすれば、私の身も、貴女の身も危険にさらされます」
「奴は全ての元凶だ! それを知らしめるだけで、どれほどの命を救えることか!」
「お帰りください」
彼は奏美の話に取り入ってはくれなさそうだ。それからも奏美は社長を説得し続けたが、返ってくる言葉は同じだった。彼女は全てを察する。
「そーか……アナタも、国家の犬なんだね」
そう言い放った奏美の目には、侮蔑が籠められていた。彼女は御鷹を連れ、新聞社を後にした。
二人は研究所に戻った。黄土色の液体を飲みながら頭を悩ませる奏美に対し、御鷹はある提案をする。
「なあ、奏美。俺たちの目的は、あくまでも人間とマグスが手を取り合える世界を取り戻すことだ」
「そーだね。何か、考えはあるのかい?」
「俺の体をメタルミストに作り変え、俺がドクター・マガミだったことにすれば良い。ドクター・マガミ本人が己の罪を公に認めれば、少なくとも人間が全ての元凶であることは社会の共通認識になるはずだ」
そこには何の迷いもない。彼は本気で自己犠牲を覚悟していた。無論、奏美は彼の考えを吉とはしない。
「……もしアナタがドクター・マガミの代わりになったら、アナタは死刑を言い渡されることになる。それを望まない者たちがたくさんいるという自覚はある?」
「それでも、俺はヒーローだから」
「ヒーローが、応援してくれた者たちを悲しませて良いと思っているの⁉」
彼女はテーブルに拳を振り下ろし、大きな音を立てた。その行動が意味するところは、怒りである。そんな彼女に構わず、御鷹は話を続ける。
「ドクター・マガミが黒幕だとわかった時、アンタは愛恋と和解できた。リベリオン・マギの紅蓮や祐ですら、俺たちに手を貸してくれた。共通の敵の存在は、人間とマグスを一つにするんだよ」
思えば、玲作の本性が発覚するまで、人間とマグスの関係は険悪だった。手を取り合った者たちは皆、真相を知った者だけだ。
「そんなことはわかりきっている! だけどワタシは、アナタを悪役にしたくない! 愛恋だって、紅蓮だって……皆、アナタがヒーローとして生き続けることを望んでいるはずだ!」
「良いんだ……それで。俺は多くの命を奪ってきた。俺に心を開いてくれた……集落の連中を何人も殺したんだ。俺の命一つで、償いになるとは思わないけど……それでも……」
「御鷹……その件に関してはワタシの責任だよ。それに、人間とマグスが手を取り合うには、アナタの存在が必要だ。アナタは、ヒーローなんだから」
奏美の声色には、彼女自身の抱く不安が現れていた。彼女は御鷹を死なせたくない一心だ。その想いは、御鷹の胸にも響いている。
「アンタ……変わったな。もちろん、良い意味で……だけどな」
「とにかく、アナタがいくら頭を下げようと、地面に頭をこすりつけようと、ワタシの靴を舐めようと、ワタシはアナタの体をメタルミストにはしない。アナタが生きていること自体が、人間とマグスにとっての大きな希望だから」
「よせよ。俺は一人で全てを成し遂げたわけじゃない。俺の側には、いつでも仲間がいた。だから俺は勝てたんだ」
一つの偉業を成し遂げてもなお、彼は決して慢心しない。奏美はため息をつき、彼を突き放す。
「少し一人にさせて欲しい」
彼女はそう言い残し、御鷹を研究室の外に出した。彼女は出入口に鍵をかけ、研究室に籠った。




