声援
愛恋は一つ、不自然な点を指摘する。
「マグスウィルスが撒かれ、マグスが差別されるようになったのは、今から三十九年前のことだよね? その短い期間の中で、そんな品種改良に成功できるはずがない」
彼の言い分はもっともだ。御鷹も彼に同意し、深くうなずいている。無論、竜也はその質問の答えも用意している。
「確かに、普通なら多くても三世代目までの個体しか作れない。だが、科学というものは侮れない。養殖マグスは遺伝子操作により、生後一ヶ月で生殖が可能になるんだ。胎児は人工子宮に入れられ、厳重に管理される仕組みになっている」
それは御鷹たちにとって、聞くに堪えない話であった。いずれにせよ、ここで戦わなければ集落の未来はない。御鷹は十本の剣を作り出し、それを遠隔操作し始める。
「事情はわかった! だが、瑞葉を殺させるわけにはいかない! この集落のマグスたちもだ!」
「ならば僕を倒すしかない。さあ、ミッション開始だ」
竜也は無数の銃を作り出し、それを空中に漂わせる。何発ものエネルギー弾は、御鷹の方へと発射される。
「俺たちの敵は……真上玲作だ! そうだろう!」
彼の操る剣は、エネルギー弾を弾いていく。しかし、剣術で全ての攻撃を防ぐのは難しいようだ。何発かのエネルギー弾は、御鷹の体に被弾する。それでもなお、竜也の銃撃は終わらない。
「僕たちは公安職だ。人間の税金で生きている以上、それに応える義務がある。違うか? 僕たちは、数多のマグスを犠牲にしてでも、より多くの人間を救わなければならないんだ!」
激しい舌戦と、激しい死闘だ。エネルギー弾の弾幕により、御鷹は瞬く間に満身創痍となった。それでも彼は、戦うことを辞めはしない。
「俺が……守るんだ! 集落の……皆を!」
彼は立ち上がる。その命が燃え尽きるまで、彼は何度でも立ち上がる。
その傍ら、愛恋は肩で息をしつつも、大声を絞り出す。
「皆! 早く逃げるんだ! 僕たちに構わず、このまま……」
彼はそう叫んだが、マグスたちはそれを拒む。
「おれらが邪険に扱ってきた御鷹が、おれらのために戦ってる……!」
「私は、この戦いを見届けたい!」
「オラは御鷹に父親を殺されて以来、ずっと憎しみを抱えていた! だけど、わかってたんだ! あれは御鷹のせいなんかじゃないって!」
群衆は、御鷹を邪険にしてきたことの罪悪感によって束ねられていた。
「頑張れ! 御鷹!」
「御鷹! お前はヒーローだ!」
「やっちまえ! 御鷹!」
辺り一帯から、声援がこだます。御鷹は笑い、眼前の標的を睨みつける。
「届いたよ……アンタらの想いが!」
彼はメタルミストを乱雑に変形させ、それを竜也の両脚に巻き付けた。
「ふっ……命が惜しくなった途端に掌返しか。君たちは、やはり下等生物だ!」
竜也は己の足下へと発砲し、蠢く金属を破壊する。
一方で、瑞葉はたった一人で軍隊を相手にしている。品種改良によって練り上げられた魔法の猛威は、伊達ではない。
「ユグドラームの……意志のままに!」
彼女はそう唱え、周囲を巨大な氷に包み込む。氷漬けにされた軍人たちは、炎の魔法を駆使して脱出を試みる。しかし、瑞葉の作り出した氷が溶けだす様子はない。
「流鏑馬御鷹から教わりました。本物の信念は、どんな敵も打ち破ると……!」
そう語った彼女は、自信に満ちた表情をしていた。
しばらくして、竜也は突如咳き込み始めた。彼はポケットから錠剤を取り出し、それを一気に飲みこんだ。彼は息を荒げつつ、メタルミストを引っ込める。
「ミッション中止だ。運が良かったな……御鷹」
このまま戦い続ければ、己の身がもたないだろう。竜也は冷静にそう判断し、即座に撤退した。
やがて氷が溶け、軍人たちも撤退した。集落にはすでに、無数のメディカが散らばっていた。
「守りきれなかったんだな……俺は」
御鷹は肩を落とし、そう呟いた。




