救出
それから愛恋たちは監獄を突き進み、御鷹のいる檻の前まで辿り着いた。彼のすぐ真横には、銃を持った看守の姿がある。
「動くな。コイツを殺されたくなかったらな」
看守は人質を取った。しかし、人質を取ることに関しては、紅蓮の方が一枚上手である。
「御鷹を撃ってみろ。オレはオメェをぶっ殺すし、政府の連中も同じ所に送り込んでやるからよ」
そう言い放った彼女の声色には、気迫があった。両者ともに、鋭い目つきで睨み合っている。
愛恋は言う。
「僕は御鷹を殺されたくはない。だけど、もし君が御鷹を殺したら、国家の社会的信用は地の底だよ。さあ、御鷹を解放するんだ」
彼に続き、瑞葉も看守を脅迫する。
「情報操作しかできない国家に、貴方を守れると思いますか? いざとなれば、国家は貴方のことも切り捨てることでしょう。実行犯は、スケープゴートに最適ですから」
しかし、三人の脅迫を受けてもなお、看守はまるで物怖じしていない。
「その覚悟なら出来ているぜ。俺様は利害ではなく、信念で動いているんだ。俺様の死がこの国の未来を照らすのなら、俺様は喜んでこの命を使うつもりだ!」
そう――――彼は信念で動いていたのだ。紅蓮はため息をつき、すぐに険しい表情をする。
「オメェには……家族がいるか?」
「ああ、娘がいる」
「このままマグスウィルスが撒かれれば、次に死ぬのはその娘かも知れねぇぞ。あるいは、その娘のダチが死ぬことだって考えられる。そこで更にオメェが死んだら……その娘はどうなるんだ?」
集落での生活を経て、彼女は「家族」というものを理解し始めていた。看守の顔に、迷いが現れ始める。
「しかし、俺様は……国の未来を背負っているんだ……」
「ああ、そうだろうな。そこで、ここは一つ取引をしようじゃねぇか」
「取引……?」
「オレはリベリオン・マギの内情を知っているし、顔が利く。テロの日時と場所が発覚し次第、オレはオメェにそれを密告することができるわけだ。オメェの娘を確実に守れるのは、オレたちだけなんだよ」
長らくテロ組織で動いていた紅蓮は、交渉に慣れている。看守はため息をつき、銃を降ろす。
「俺様が国を裏切れば、政府は俺様の娘を抹殺するだろう。だが、俺様が国家を裏切らなければ、リベリオン・マギが俺様の娘を殺害する。これは僅かな希望にすぎないが……娘の命は、テメェらに預けることにする」
交渉成立だ。看守は檻の扉を開け、御鷹を解放する。彼はすぐにスマートフォンを取り出し、紅蓮と連絡先を交換した。愛恋は再び竜に変身し、御鷹たちを背に乗せる。
「これで一件落着だね」
彼は屈託のない笑顔を浮かべ、監獄の壁を破壊しながら大空へと飛び立った。
*
翌日、リベリオン・マギの会議室には、三人の幹部が出席していた。秀一と祐、そして薫だ。紅蓮という戦力を失っている今、彼らの置かれている状況は極めて絶望的である。
「ふむ……紅蓮は今日も帰ってこないようだな」
「そうみたいだよん。ここは大きな行動を起こして、人間どもに圧をかけておく必要があるね」
二人は頭を悩ませ、思考する。ここで下手を打てば、彼らには後がないだろう。
そこで案を出すのは、薫だ。
「ヒヒヒ……新宿駅にマグスウィルスを撒こう」
秀一はすぐに彼の方へと振り向く。
「ふむ……それは一体、どういう意図だね?」
「ヒヒヒ……新宿駅は、日本で最も利用者の多い駅だ。そこにウィルスを撒けば、感染は瞬く間に拡大するだろうねぇ」
「ふむ……確かにそうだな。ここは、君の案を採用することにしよう」
リベリオン・マギはいよいよ、新宿駅に目をつけた。祐は嬉々として笑う。
「ウェーイ! これで人間どもも、改めてミーたちの恐ろしさを知ることになるだろうね!」
主戦力となる逸材を失ってもなお、彼らは決して牙を失っていない。




