生体ユニット
その日の夜、愛恋は竜に変身した。彼は背中に紅蓮を乗せ、前脚で瑞葉を抱えている。
「準備は良いかい?」
「ああ、行くぞ」
「私も大丈夫です」
彼らの目指す先は、御鷹の幽閉されている監獄だ。愛恋は翼を大きく広げ、すぐに飛び立った。
数時間後、彼らは監獄に辿り着いた。愛恋は狼に変身し、嗅覚を研ぎ澄ませる。
「……あっちだ。行こう!」
走り出す彼の後に続き、紅蓮と瑞葉も駆け出した。監獄内では赤いランプが点滅し、警告音と共にアナウンスが流れ始める。
「侵入者発見! 侵入者発見! ただちに駆逐せよ!」
やはり監獄への侵入は簡単なことではない。直後、愛恋たちの周囲は、無数の警備隊に囲まれた。
「そこを動くなよ……侵入者!」
「人間相手なら、勝てると思っているのか?」
「ワシらはのぅ、普通の人間とはワケが違うんよ」
見たところ、彼らの瞳は赤くない。その耳も尖っておらず、看守たちが人間であることは一目瞭然だ。しかし、彼らは皆、歪な形状の機械を両腕で抱えている。彼らの周囲で、様々な属性の魔法が発動する。
「魔法……だと⁉」
愛恋は驚いた。彼はすぐにアフリカゾウに変身し、監獄内を暴れ回る。今彼を取り巻いている群衆は、全員魔法が使える。作戦は思った以上に難航しそうだ。
突如、その場には真上玲作のホログラムが映し出される。それは怪しげに微笑み、看守たちの持つ装置について語る。
「驚いたか? マグス諸君。この装置は私の最高傑作でね……部品の一部にマグスの心臓が使われているのだ。無論、普通ならマグスの心臓を取り出せば、その心臓はすぐメディカに姿を変えてしまうがね」
その言葉に、愛恋は何か不穏なものを感じた。
「どうやって、マグスの心臓を維持しているんだ?」
「私は遺伝子操作により、必要最低限の臓器しか持たない奇形児を生み出したのだ。電子回路がニューロンの役割を果たし、その心臓に宿る魔法を発動する。つまり、この装置は使用者の指示通りに魔法を使うことができるというわけだ」
「なんてことを……!」
「無論、そんな不安定な生命体の寿命は短い。よって、この装置を使い続けるなら、取り付ける奇形児を取り換える必要がある。マグスの命など、所詮は人間のための消耗品にすぎないのだからな」
「僕は……絶対に許さない。君を……絶対にだ!」
愛恋の堪忍袋の緒が切れた。アフリカゾウの巨体をもってして、彼は周囲の壁や天井を破壊する。その傍ら、紅蓮と瑞葉は各々の魔法で看守たちと戦っている。この様子を前にして、玲作のホログラムは語る。
「最近は死後にメディカを生み出さないマグスを作る研究を進めている。何しろ、心臓のドナーを必要としている人間がいるのだ」
その言葉だけを汲むのなら、玲作は人間の味方にしてマグスの敵だ。しかし現実問題、彼はマグスウィルスを撒いた張本人でもある。
一先ず、愛恋たちは周囲の看守を全て気絶させた。三人は全身に深い傷を負っており、肩で息をしている。愛恋はホログラムを睨みつけ、玲作の真意を問う。
「君の目的は……なんなんだ……?」
「医学を極めることだよ。現代医学は、古の戦争や人体実験によって練り上げられてきたものだ。多くの命を救うことは、それに見合った数の犠牲を伴う。私を突き動かしているものは、医師としての志……ただそれだけだ」
「つまり、君がマグスウィルスを撒いたのも……実験だったというのかい?」
「仮にそうだとして、どうするつもりだ? 犠牲者たちが私を憎めば、それで医学が進歩するのか? それが多くの命を救うことに繋がるのか? 覚えておくが良い。例え医学が命を奪っても、その技術が廃れない限り、より多くの命が未来永劫救われ続けるのだ」
持論を語り終えたホログラムは、すぐにその場から消えた。




