情報収集
翌日、奏美はネットカフェに籠り、ソフトドリンクを飲みながら調べものをしていた。ディスプレイに映されているものは、複数のウィンドウだ。彼女はSNSの書き込みを検索することにより、ネット上で共有されている「マグスウィルスにまつわる最古の記事」を探しているようだ。彼女はすぐにその記事を見つけたが、それはすでに削除済みだった。彼女はそのURLをコピーし、今度は様々なウェブサイトを記録しているサイトにそれをペーストした。ディスプレイには、マグスがマグスウィルスを撒いたという記事のアーカイブが表示されている。続いて、奏美は「マグスウィルス 誰が」で検索をかける。検索結果には、一体のマグスの名前が表示された。奏美はそのマグスにまつわる百科事典の記事を開き、すぐにそのサイトのアーカイブを調べ上げる。妙なことに、その記事はマグスウィルスが生み出される前には存在していなかったようだ。
奏美は考える。それほどの技術を持つ者であれば、大きな事件を起こす前から存在を認知されていてもおかしくはない。彼女は他にも、桜神靱に関することや、メディカを用いた医療の歴史などを調べていくが、多くの情報が検閲によって隠されている。
「決定的な証拠さえ見つかれば……」
インターネット上で集められる情報は、これが限界だ。奏美はすぐに受付に向かい、会計を済ませる。そして店を出た時、彼女の目の前には思わぬ人物が待ち受けていた。
「最近、ずいぶん忙しそうだな……奏美」
真上玲作だ。彼がここで待ち受けていたということが何を意味するか――――奏美はそれを瞬時に理解する。
「アナタがここに来たということは、やはり……」
「なんの話だ? 何か、後ろめたいことでもあるのか?」
「……アナタの目的はなんなの? ドクター・マガミ」
彼女は睨みを利かせた目つきだが、玲作は決して物怖じしない。
「お前はすでに、多くを知りすぎた。さて……お前が最後に御鷹の姿を見たのは、いつだったかな?」
「まさか……」
「御鷹は今、離島の監獄に幽閉されている。これ以上、余計な行動はしないことだな」
「ふん……ハッタリか?」
「それを確認したければ、お前の発明品を使えば良い。御鷹のメタルミストは、自動的に持ち主を追尾するのだろう? 今頃、彼は獄中で、発信機でも作っている頃合いだろう」
彼は不気味な微笑みを浮かべている。その表情から感じ取れるものは、圧倒的な余裕だ。奏美に多くの情報を握られているにも関わらず、玲作はまるで自分が優位に立っているかのような佇まいをしているのだ。
「お前はリベリオン・マギとの戦いに専念すると良い。それがお前の仕事であり、善良な市民たちの望んでいることなのだからな」
彼はそう言い残し、その場を後にした。
*
一方、御鷹は監獄にいた。メタルミストさえ携帯していれば、ここから脱獄することは容易いだろう。しかし彼には、それを実行することのできない理由がある。
彼のいる檻の前に、看守と思しき男が通りかかる。
「今日もちゃんとここにいるようだな……104番。たかがマグスのために、よくもまあこんな場所に留まれるもんだ」
「たかがマグス……だと? 俺の親友をそんな風に言うのはやめろ」
「ふん……たった一人の人間と、たった一体のマグスの友情など……人間とマグスが争ってきた歴史と比べたら無価値だろうに。まあ、そのおかげで我々も、お前をここに繋ぎ止めておくことができるわけだ」
男は笑っていた。彼には、マグスの親友を持つ人間の心など到底理解できないだろう。御鷹は虚ろな目で床を見つめる。その表情には、もはや生気などは宿っていない。
「愛恋……俺は、どうしたら良いんだ……」
今の彼には打つ手がない。御鷹は青息吐息をついた。




