憩いと記憶
一先ず、リベリオン・マギの元幹部が持つ情報が出揃った。
「じゃあ、ワタシはここで失礼するよ」
用の済んだ奏美は、愛恋たちに別れを告げた。愛恋は無邪気に笑い、彼女を引き留める。
「待ってよ、奏美。せっかくここに来たんだから、ピクニックにでも行かないか?」
「……どういう風の吹きまわしだ? ワタシは、アナタの親友を殺戮兵器に作り変えた女だというのに」
「行動の是非がどうであれ、奏美はずっと頑張ってきた。君は少し、心を休める必要があるんじゃないかな」
何やら、彼はもう奏美のことを怨んではいないようだ。
「アナタは、お人好しなんだね……」
「ふふ……よく言われるよ。とりあえず、今からサンドウィッチを作るからさ……奏美はそこで待っていてくれないかな」
「……う、うん」
奏美は戸惑いつつも、その場に腰を降ろす。愛恋は鼻歌を歌いつつ、楽しそうにサンドウィッチを作り始める。
「奏美は、なんのサンドウィッチが食べたい?」
「仕事の効率を高めるには、レシチンと単糖類……それからDHAとビタミンと……」
「今は、仕事のことを考える必要はないよ。奏美は、何が好き?」
「イチゴとホイップクリームのサンドウィッチ……かな」
「ふふ……任せて!」
彼はすぐに冷蔵庫を開け、イチゴとホイップクリームを取り出す。それから料理を続ける彼の後ろ姿を眺めつつ、奏美は物思いに耽っていた。
あれから約十分後、バスケットいっぱいのサンドウィッチが完成した。愛恋はバスケットを抱え、瑞葉たちを誘う。
「君たちも来ないかい?」
そんな彼の提案に対し、奏美は難色を示す。
「……コイツらが来るのなら、ワタシは行かないぞ」
「どうして?」
「事の発端はドクター・マガミだけど、だからと言ってリベリオン・マギが人間に敵意を抱いていないと言えば嘘になるからね。もちろん、人間だって数多くのマグスを殺してきたけど……だからこそ心を開けないんだよ、ワタシは」
黒幕の存在を見いだしたところで、敵対していた二つの種族が和解することは容易ではない。無論、瑞葉たちも彼女の言い分をよく理解している。
「同感です。私もまだ、海邦奏美に心を開けません」
「ああ、そうだよな。オレだって、今すぐ何もかもを忘れてコイツと仲良くできる自信がねぇ。和解を拒むと決めたわけじゃねぇが……もう少し時間が欲しい」
それが二人の答えだった。
愛恋はやむを得ず、全員を連れていくことを諦める。
「行くよ、奏美。僕と君の、二人で」
「……うん、わかった」
奏美は小さく頷き、彼の後についていった。
それから二人は山を登り、豊かな自然に恵まれた森林へと辿り着いた。鳥のさえずりや川のせせらぎが聞こえてくるその場所で、愛恋は青い水玉模様のレジャーシートを広げる。
いよいよピクニックの始まりだ。
彼は奏美に、イチゴとホイップクリームのサンドウィッチを手渡す。
「さっそく、食べようか」
「うん、いただきます」
「いただきます」
二人はサンドウィッチを食べながら、黙々と辺りの景色を見渡している。どういうわけか、奏美は愛恋と目を合わせようとはしない。
「……どうしたの? 奏美」
「……別に」
奏美はそう答えたが、その様子は目に見えて不自然だった。愛恋は怪訝な顔をしつつ、彼女の顔を覗き込んだ。彼女の瞳からは、どういうわけか涙が滴っている。この時、彼女は己の幼少期を思い出していた。彼女の脳裏をよぎっていたのは、彼女自身が両親と共にピクニックを満喫した記憶だ。無論、愛恋はそんなことなど知る由もない。
「サンドウィッチ、美味しくなかった?」
「いや、おいしーよ。泣きたくなるほどに……おいしー……」
奏美は眼鏡を外し、上着の袖で目元を拭い、強がったような愛想笑いを浮かべた。その涙の理由を知らないまま、愛恋は黙々と彼女の背中をさすり始めた。




