真の敵
「敵を見誤っていた? それは一体、どういうことなんだい?」
愛恋は訊ねた。緊迫した空気が立ち込める中、奏美は話を続ける。
「ワタシがメタルミストという発明品を世間に発表したのは、三年前の五月だ。もし、ドクター・マガミの体がメタルミストでできているのなら、あの変身能力や再生能力にも説明がつく。彼は、人間かも知れない」
それが彼女の推論だ。それに対し、紅蓮は反論を述べる。
「アイツが人間である証拠はなんだ? マグスには、メタルミストは使えねぇのか?」
無論、奏美は何の証拠もなく玲作を人間と認定したわけではない。彼女は生唾を呑み、話を続ける。
「いや、そーじゃない。三年前の六月、桜神靱が消息を絶った。そう――――マグスウィルスが初めて流行したあの時、誰よりも早くメディカの有用性に気づいていたあの天才医師が……ね」
今のところ、これらの出来事の因果関係を証明できる確固たる証拠はない。しかし、発生時期は完全に一致している。
愛恋の顔つきが変わった。
「つまりは、ドクター・マガミがマグスウィルスを生み出した張本人……というわけだね?」
彼の猜疑心は、玲作に向けられた。奏美は少しうつむき、彼の質問に答える。
「ああ、私はそう考えている。現に瑞葉曰く、薫がいなければ、リベリオン・マギにはあのウィルスを作る技術が無いらしいからね。それに、ドクター・マガミは優秀な医師だ。それこそ、桜神靱に劣らないほどの……」
「何故、彼がそんなことを……」
「人間とマグスが敵対すれば、メディカによる治療は法的に認められる。人間がマグスウィルスに感染すれば、奴は私腹を肥やすことができる。ワタシたちが争うことで一番得をするのは、間違いなく奴なんだ!」
少なくとも、彼女の推理にはこれといった矛盾が無い。紅蓮は腕を組み、ため息をつきながら壁に寄り掛かる。
「オメェの推理が正しければ、何もかもがアイツのせいってことになるな。オレたちの味わってきた……何もかもがだ」
その表情からは、底知れぬ怒りがにじみ出ていた。彼女に続き、瑞葉も言う。
「たった一人の医師が、命を救うべき存在が、数多の命を傷つけてきたというわけですね。桜神靱という、たった一人の人間が……」
これほどの情報が出揃った今、玲作はここにいる全員の敵となったようなものだ。彼らを味方にすれば、少しは戦いやすくなるだろう。
しかし奏美は、彼らを自陣に引き入れようとはしない。
「今日ワタシが話したことの全ては、どうか聞かなかったことにして欲しい。アナタたちは、何も知らないフリをしないといけない。人間の起こした問題は、人間が責任を取るべきだから」
彼女はすでに、マグスに対して温情を抱きつつあった。彼女は紛れもなく、愛恋たちを巻き込むことを避けようとしている。そして、紅蓮はそれをよしとしていない。
「今のところは、何も知らねぇフリをしてやるよ。その方がオメェも動きやすいだろうからな。だが、オレたちを巻き込むこと自体はためらうな。ドクター・マガミは、オレたちの共通の敵だからな」
彼女は完全に、闘志に燃えていた。その傍らで、瑞葉は彼女への同意を示すように頷いている。そんな二人の気持ちを、奏美はまるで理解できない様子だ。
「ワタシは、数えきれないほどのマグスをこの手で葬ってきた。そればかりか、御鷹をあんな目に遭わせたりもした。どうしてアナタたちは、そんなワタシに全てを背負わせようとしないんだ?」
マグスへの敵意を捨てた今、彼女はかつてない罪悪感を抱いているようだ。そんな彼女に対し、愛恋は言う。
「皆、御鷹に許されてきたからだよ」
当然、御鷹の過去を聞かされていない奏美には、彼の意味するところがわからない。彼女はうつむいたまま、ただただ怪訝な表情をしていた。




