疑惑
奏美は無言で竜也の腕を引っ張り、息を潜めながら駆け出した。彼女は彼を連れ、少し離れた場所にあるビルの物陰に入り込む。奏美は慌てて息を整え、話を切り出す。
「ドクター・マガミは、マグスかも知れない」
彼女がそう考えるのは無理もない。あの男の不自然な再生能力の高さは、人間が持ちうるものではないだろう。
「先生が……マグス? あの人は闇医者だが、僕は医者の鑑だと思っている。そんな先生が、まさか……」
「ワタシだって信じたくないよ。だけど、あんな猛攻撃を受けても無傷の状態にまで……それも一瞬で再生できる者は、それこそ魔法を使える者だけだ」
「……ああ、確かにそうだな」
二人の間で、玲作に対する不信感が募る。彼が味方であれ、敵であれ、その素性を知る必要があることに変わりはないだろう。
「ワタシが探りを入れていることがバレたら厄介だ。どうか、この件に関しては知らないフリをしておいて欲しい」
「了解。奏美……君はどうするつもりなんだ?」
「メタルミストの力があれば、ステルス機能の搭載されたドローンくらいは容易く作れる。ワタシはドクター・マガミの動向を追ってみることにするよ」
真相は定かではないが、奏美はすでに玲作を敵視しつつある。彼女はすぐにドローンを作り出し、操縦する。竜也はモニターを作り出し、ドローンの捉えた映像を可視化する。彼女たちは今まさに、真上玲作という男の核心に迫ろうとしていた。
*
玲作は研究所を後にし、近場の立ち入り禁止地区を訪ねていた。この地区は有刺鉄線に囲まれており、その手前にある看板には「マグスウィルス汚染区域」と書かれている。彼は有刺鉄線を素手で掴み、内部へと侵入する。続いて彼は、領域内に公衆トイレがあるのを見つけ、その中へと歩みを進めていく。
それから数分後、トイレから出てきたのは――――美山薫だった。
薫はすぐに立ち入り禁止区域を去った。次に彼が辿り着いた場所は、リベリオン・マギの拠点だ。彼は正面口を通り抜け、エレベーターの前まで歩みを進めている。
*
奏美は言う。
「これ以上追うのは難しいね。今のところ明らかになっているのは、ドクター・マガミと美山薫が同一人物であるということだけだ。だけど、彼がワタシたちの敵であると仮定すると、不審な点がいくつかある」
今回得られた情報は、これが全てだ。後は推論を立てていくしかないだろう。
「何故、先生が僕たちを治療してきたか……だな。違うか?」
「そう、ドクター・マガミはずっとワタシたちの味方をしてきた。仮にワタシたちを泳がせているのだとしても、そんなメリットはないはずだ。もし主戦力である紅蓮が負傷しても、彼なら治療できるし……あの再生能力からして、彼自身が死ぬこともまずあり得ないからだ」
「……一体、先生は何を考えているんだ?」
二人は眉間に皺を寄せ、思考を巡らせる。彼らが目にした真実は、あまりにも不穏なものだ。
そこで奏美は考えた。彼女はスマートフォンを手に取り、竜也にニュースサイトの記事を見せる。
「つい最近、マグスの集落が紅蓮による襲撃を受けたらしいね。そして、リベリオン・マギがマグスを狙うということは、そこには見せしめか何かで殺さなければならない裏切り者がいるということだ」
「つまり、その裏切り者が美山薫の情報を握っているということか。違うか?」
「そーゆーこと。一先ず、ワタシは集落に出張して、事情聴取をしてくるよ。アナタは先に、拠点に戻って良いよ。でもその前に、ワタシとハグをしよう」
こんな状況下でも、彼女は相変わらずだ。竜也は奏美の両腕を振り払い、彼女に背を向ける。
「つれないね……」
奏美は不服そうにため息をつき、ビルの物陰を出た。目指す先は、愛恋の住む集落だ。




