無機質な殺意
御鷹はテロの現場に到着した。すでに、竜也と愛恋がマグスの軍勢と戦っているようだ。この光景を前にして、御鷹は再び殺人衝動に駆られる。
「一匹残らず……殺す」
彼の周囲には無数の剣が生み出され、たくさんのマグスを切り倒していく。その傍ら、竜也の構える銃は愛恋の方へと向けられている。
「君もマグスである以上、僕の敵だ。違うか?」
「違う! 種族なんて関係ない! 僕も御鷹も、自分の守りたいもののために戦うだけだ!」
「それは危険思想だ。闇雲に種族の対立に反対し、中途半端に民衆の戦意を奪うことは……自衛力を奪うことと同じだ。違うか?」
相変わらず、竜也はあらゆるマグスを見境なく敵視している。本来なら、御鷹が愛恋に加勢する場面だが、今回はそうではない。
「標的発見……!」
今の御鷹は、ナノマシンに操られている。彼は殺人衝動の赴くまま、その目に映るマグスを淡々と殺し続ける。無論、戦闘員たちは抵抗を試みるが、彼らの力では御鷹を止めることはできない。
戦闘員たちは、すぐに殲滅された。
その場にリベリオン・マギの幹部が現れなければ、次の標的は一体だけだ。
「標的を確認……」
御鷹の目に飛び込んできたのは、愛恋だ。殺人衝動に取りつかれた狂戦士は、竜也とともに標的の命を狙う。愛恋は息を切らしつつ、必死に逃げ回るばかりだ。
「テロは食い止めた! 僕たちが争う必要はない……すぐに撤収しよう!」
彼はそう呼びかけるが、竜也がそれに従うはずはない。
「ミッションはまだ終わっていない。君が最後の一体だ。違うか?」
その冷たい目つきには、明確な殺意が宿っていた。彼は本当に、愛恋を仕留める気でいるらしい。更に今回は、御鷹も彼に加勢している。この戦いは愛恋にとって、あまりにも分の悪いものだ。
その頃、御鷹は己の中で、再びもう一人の自分と対面していた。それは相変わらず同じ言葉を繰り返すだけの存在だったが、彼は決して諦めようとはしない。
「またアンタか……!」
「マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ」
「黙れ! 俺の体を返せ! これ以上、俺の大切なものを壊すなと言ってるんだ!」
彼はそう訴えるが、もう一人の彼はそれを聞き入れようとはしない。御鷹は全身を鎖に縛られたまま、ただ叫ぶことしかできない有り様だ。
「マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ」
「黙れと言っているのがわからないのか! 俺は、こんな戦い方を望んでマグスバスターになったんじゃない!」
「マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ……」
もう一人の御鷹は、決して説得には応じない。そこには、人間らしい感情など欠片もないのだろう。無機質な表情のそれは、無機質な声で話し続け、無機質な殺意を加速させ続ける。これを「もう一つの人格」と呼ぶには、あまりにも血が通っていないのだ。言うならば、これは彼の姿を模した「機械」だ。御鷹はその場でうつむき、全てを諦めかけた。
――――その時だった。
「目を覚ませ! 御鷹! もうこの場には、オレたちしかいねぇぞ!」
どこからともなく、紅蓮の声がした。
御鷹は正気を取り戻した。彼の周囲には、数多の鮮血とメディカが散らばっていた。そんな彼の目の前に、愛想笑いを浮かべている紅蓮の姿が飛び込んでくる。あの状況でも無傷の状態を保っている彼女を見て、御鷹はその強さに感心するばかりだ。しかし、今は彼女の強さに見とれている場合ではない。
「言っただろ。オレがオメェを止めてやるってな」
紅蓮は言った。御鷹には、一つだけ気掛かりなことがある。
「ありがとう、紅蓮。愛恋は無事か?」
「ああ。オレが守りきったぜ」
「色々と……すまない」
彼は安堵のため息をつき、そのまま疲れ果てたように眠りに落ちた。




