襲撃
翌朝、リベリオン・マギの幹部たちは再び会議を開いていた。無論、先日司令官の命令に背いた紅蓮は、秀一の怒りを買っている。
「紅蓮。私は君に、御鷹の殺害を命じたはずだが……」
「そんなモン、実験に決まってんだろ。あのナノマシンの技術がマグスに使われたら、オレたちの同胞が奏美の味方になっちまう。そうなる前に、アレを克服する方法を見いだす必要がある」
もっともらしい口実だ。彼女は無責任に行動を起こすだけでなく、意外にも後先のことを考えているらしい。彼女に続き、祐は言う。
「それもそうだね。特に、ナノマシンの件によって、御鷹はマグスバスターの連中を怨んでいるはずだよん。アイツを大人しくさせることが出来れば、ミーたちの仲間に出来るかも知れないじゃん?」
意外にも、彼は紅蓮の行動に肯定的だ。次に発言するのは、薫である。
「ヒヒヒ……ワタシも賛成だねぇ。あのまま奴を生かしておけば、奏美の生み出したナノマシンの働きを観察することができる。今のうちにデータを集めておかないと、手遅れになるだろうねぇ」
紅蓮の本心がどうであれ、今のところは全員の利害が一致しているようだ。秀一はため息をつき、本題に移る。
「ふむ……それでは御鷹の殺害を見送ることにしよう。今回の本題はここからだ。私は奏美の研究所の周辺に、マグスウィルスを撒こうと考えている」
いよいよ、彼らのテロにマグスウィルスが用いられようとしている。彼の真意が定かではない以上、探りを入れておいて損はないだろう。薫は訊ねる。
「ヒヒヒ……司令官は、何を企んでいる? マグスウィルスは最終兵器だ。そう易々と使うわけにもいかないのでは?」
無論、秀一には考えがある。
「わざわざあの研究所の近くに赴くようなマグスはそうそういない。そこにマグスウィルスを撒き、ドクター・マガミの手を煩わせるのだ。そうすれば、奏美たちを治療できる者はいないだろう?」
彼の真の狙いは、マグスバスターの殲滅だ。
祐と薫は同意を示す。
「ウェーイ! それは良い考えだね! 奏美ちゃんが死んじゃえば、マグスがナノマシンの奴隷になることだって防げるわけじゃん!」
「ヒヒヒ……名案だねぇ。明日が楽しみだ」
無論、心の揺らいでいる紅蓮には迷いがある。しかし、ここで彼女が組織を裏切るわけにはいかない。
「任せろ。オメェらがウィルスを撒いている間に、オレがマグスバスターどもをぶっ潰してやるからよ!」
彼女は強気な笑みを見せ、そう宣言した。
次の日、研究所の周囲はマグスウィルスによって汚染された。まだ症状の出ていない者たちは、何も知らずに街を練り歩いている。この状況を野放しにするわけにはいかないだろう。研究所に、一通の緊急連絡が入る。
「研究所の周辺にて、リベリオン・マギがマグスウィルスを撒いています! 至急、出動願います!」
「りょーかい。すぐに向かわせるよ」
奏美は電話を切り、後方へと目を遣った。目の前には、御鷹と竜也がいる。
「御鷹、竜也……すぐに支度して」
奏美はすぐに指示を出した。竜也はガスマスクを着用し、すぐにその場を去る。しかし御鷹は、その場にしゃがみこんだまま動こうとはしない。
「どうしたんだい? 御鷹」
奏美は彼の顔を覗き込んだ。その表情は、恐怖心を帯びている。
「俺は……怖いんだ」
「怖い? 何がだ」
「戦うことで、自分が自分でなくなるのが怖い。俺はもう、罪のない命を奪いたくはないんだよ!」
己の脳がナノマシンの支配下にある今、彼は表に出ることを恐れている。奏美は彼の前に腰を降ろし、忠告する。
「リベリオン・マギが動けば、愛恋も出動するはずだ。果たして竜也は、愛恋を殺さないでいてくれるかな?」
彼女の一言により、御鷹の顔色が変わる。彼はガスマスクを着け、慌ててその場を後にした。




