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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 夢編 此方
第六章

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成長した姉妹

いいね、ブクマ、誤字脱字報告、感謝です!

コンテスト応募作を執筆中なので、更新遅くてすみません!!


「っかしいよなぁ。なんでこの美貌と立場で結婚出来ないんだろ?」


 寝間着のまま鏡の前に立った私の姿を見る。

 

 六年の時を経て、幼さは抜けた。貴金属は必要最低限、華美過ぎるドレスも着ていないところを除けば、ゲームのアマーリエそのまま、溜め息の出るような美女。


 ……なのに、結婚できていない。

 

 手紙で再婚の打診をして、父王から『こちらも考えておくから、会ったときに話そう』という言質を取り、さあこれからという段階で戦争勃発だもん。


「もしかして、この世界は私を結婚させたくないのか?」


 所謂、物語の矯正力――ありえない話じゃあない。


「もしそうならマジで勘弁してほしい。いい加減、穏やかな日常送らせてくれい……」

「失礼します。おはようございます、アマーリエ様」


 鏡に向かって崩れ落ちていると、寝室に侍女が入ってくる。今日は早くに起きれたけど、今だ、たまーに寝坊するからね私。


「おはよう……って、はっ?」


 入ってきたのは、侍女服を纏った目の見張るような美女。

 

 纏め上げているが、美しい金髪の艷やかさは隠しきれておらず、色っぽい切れ長の瞳はサファイア(碧眼)の輝きを放っている。侍女服という地味な服を纏っているというのに、彼女の美しさは損なわれていないどころか、清らかな雰囲気が漂ってくる。

 正に『美しい』をこの世に顕現させたような美女――


「ちょ、おま、ヨツバ! 何してるの?!」


 ――ヨツバである。

 十八歳になったヨツバの美貌は、衰えるどころかますます磨きがかかり、女版ライニールと言っても差し支えない。

 

 そんなヨツバは、妹のミツバ、祖母のニーナと共にバルカン公爵家の使用人として六年前から屋敷に留まっている。 

 

 だから、私が驚いているのは彼女が使用人の格好をしているからじゃない。

 

「おはようございます、お姉様。何って、侍女としての職務を全うしているだけでございます」

「いや、あんた、今日から学園生でしょうが!? 王都の屋敷にきたら侍女業務は免除するって話だったでしょ!?」


 そう、ここはバルカン公爵領ではない。

 アーディー王国、王都ガルガシア。その一等地にあるバルカン公爵家のタウンハウスだ。

 

 アマーリエが結婚して王都を出て四年プラス私が前世の記憶を取り戻してからの六年イコール約十年の歳月を経て、私はようやく王都の土を踏むこととなった。感動は特にない。

 

 その理由が、王家主催のパーティーに参加する為と、ミツバの王立学園の入学、ヨツバの編入の為である。


 本当なら、ヨツバは二年前に王立学園に入学する筈だったのだけど、色々な理由が重なってしまってね……。

 結果的に、ミツバの入学に合わせて、ヨツバは三年生に編入することになったのだ。


「しかも今日が登校初日だってのに、準備もしないで仕事してるなんてありえない! さっさと部屋に戻って、学園行く準備しなさい」 

「まあ、お姉様ったら。わたくしはお姉様の侍女。お姉様がいる場所は、わたくしが侍女の役目を担う場所。それだけのことでございます」


 そう言って美しい(かんばせ)に浮かべる曇りなき笑顔の眩しいこと。普通の男ならコロッと落ちるだろうがな、私は誤魔化されんぞ。

 

「屁理屈言わない。学生の間は、学生生活を満喫するようにって言ったでしょ」

「ですが、お姉様のお側にいるのに、お世話ができないなんて辛すぎます……!」

 

 なんでや。どんだけ世話好きやねん。


「それに、お姉様はすぐに領地に帰ってしまうのでしょう? 少しでも側にいたいのです……」

 

 よよよ……と悲しそうに顔を歪ませるヨツバ。

 

 『お姉ちゃん』呼びが『お姉様』呼びに変わってしまっている通り、貴族令嬢としての作法をしっかりと身に着け、家庭教師にはもう立派な淑女だと絶賛されている。

 だけど、私の前だと表情豊かに子供っぽくなるんだよねぇ。可愛いなぁ。


 でも、だからといって甘やかしてはいけない。

  

「嬉しいけど、たった一年しかない学生生活なんだから、我儘言わない。なので、改めて申し伝えます。ヨツバ・カルシック、貴女の役目は、学生の間は免除します」

「……わかりました」

「はい。じゃあ、まわれ右して、着替えておいで」

「……はぁい」

「拗ねないの。朝ご飯は一緒に食べるから、ね?」

「! はい! わかりました!!」


 唇を尖らせ、しゅんとしながら踵を返すヨツバ。その背中に告げると、途端に踊るような軽やかな足取りで部屋を出ていった。

 垂れていた犬耳がピン! と元気に立てられた幻覚が見えたような気がしたのは気の所為だろう。 


 代わりに来た侍女に着替えを手伝ってもらう。

 バルカン領で着ていたワンピース風ドレスを着たかったけれど、「王都では相応しい装いをしてください!」とタウンハウスの侍女たちに怒られてしまった。

 その為、準備されていた中で一番露出が少なくて動きやすそうなドレスを選び、着替えを手伝ってくれたタウンハウス付きの侍女を伴い、食堂へ向かう。


 中庭の見える渡り廊下を通りかかった時だった。


「ん?」


 ふと視界の端で茂みが動いたのに気付いて足を止める。目を凝らすと、そこからひょっこりと何かが飛び出し、そそそ……と茂みに身を隠しながら移動していた。


 「奥様、いかがなさいました?」と侍女が声を掛けてきたけど、「いや……」と曖昧に返しながらよく見ると、それはキャスケットを被った頭。

 

 キャスケットからはみ出ているのは自然界にはあり得ない、鮮やかなピンクの髪――それだけで、それが誰かすぐに検討が付く。


「ミツバ」

「!!」

 

 葉っぱを乗せた頭が大きく揺れ動いた。頭は茂みに隠れたが、すぐに観念したようにゆっくりと立ち上がった。

 

 平民の少年が着ているような簡素な装い。

 パッと見は、幼さが残る細身の青年。

 だが、おずおずと外したキャスケットの中に隠していた、長いポニーテールが落ちてきた途端、まるで脱皮したかのように性別の認識が一転する。

 

 ヨツバの妹にして、乙女ゲーム【クローバーの約束】の主人公であったミツバだ。

 

 十六歳になった彼女は、ゲームのグラフィックとは異なり髪が長いけど、それ以外の見た目はほとんど一緒だ。乙女ゲームの主人公らしく、男女受けの良さそうな愛らしい顔立ちをしている。

 

「お、おはようございます、アマーリエ様」

「おはよう、ミツバ」


 何故か身を縮こまらせながら距離を縮めてきたミツバ。こちらの顔色を窺うように、大きなチョコレート色の瞳で上目遣いに見つめてくる。なんだ? 


「? どうかした?」

「あ、い、いえ、大丈夫です、何でもないです。で、では私は……」

「ってか、そんな格好をして、何をしてたの?」


 何気なく尋ねると、踵を返しかけたミツバはビクゥッ! と、大きく肩を揺らした後、恐る恐る私に向き直った。

  

「……あ、朝市に行ってました……」

「へえ、朝市。そんなのあったんだ」

「……? あの、怒らないんですか?」

「怒る? ……あ、そうか」


 ヨツバやニーナと違って、ミツバは生活の補助を担う役職には就いていない。

 色々携わらせた結果、彼女が一番やる気を見せたのが、購買や調達といった事務職だった。

 商人を呼んで買う高級品とかじゃなくて、屋敷内で使う日々の消耗品とか、そういうものね。

 

 本人曰く、市場に行ってアレコレ見るのが楽しいようだ。領主街ルーベにいた時も休みの度に街に出かけていたので、ミツバが使用人服を着ていなくても特に違和感を持たなかった。

 でも、思い出してみたらここは王都。そして今日は入学式当日。彼女はカルシック家の令嬢という立場。

 

 ミツバが気まずそうにしていた理由をようやく理解した私……気付くのおっそっ!

 

「あー……、まあ、そうだね。今日は入学式なのに、屋敷を抜け出して朝市に行ったのは良くなかったね」

「……はい。ごめんなさい……」

「それに、幾ら幼い頃に住んでいたからといって、あまり知らない土地で、女の子が一人で出歩くのは危ないよ。次行く時は、都のことを知っている人と行きなね?」

「えっ? ……あ、はい! ありがとうございます!」


 ん? 最初驚いた表情をされたな? なんでだ?

 ……あ、もっと激しく怒られるとでも思っていたとか?

 ゲームでは一人で街歩きしてたけど、よくよく考えたらこんな可愛い娘がリアルで一人歩きしてたら危ないよな……。

 もっとちゃんと叱るべきだったかも……?

 今回はタイミング逸したけど、次回また一人で行ったらその時はちゃんと叱ろう。うん。 

 

「取り敢えず、着替えは後にして朝ご飯食べよう。ヨツバが待ってるし。一緒に行こう」

「はい! 了解です!」

「で、何か面白そうなものあった?」


 合流し、歩き出すと同時に問いかけると、ミツバは待ってましたとばかりに目を輝かせた。

 

「珍しい香辛料が沢山ありました! あ、あと、宝石やアクセサリーを扱ってるお店がめちゃくちゃ多かったです! 大抵はガラス細工でしたけど、本物の宝石も少しだけありました。しかも平均値より大分安く売ってたんですよ。余程目利きのできない商人だったのかも……? それからそれから……」


 急にツラツラ語り出した。ちょっとオタクっぽさを感じなくもないけど、本当に好きなんだなぁというのが伝わってくる。


 楽しそうな弾丸トークをうんうん聞き歩いていたら、向かう先に、すっと影が立ち塞がる。


「ミぃ〜ツぅ〜バぁ〜!」

「げっ! お、お姉ちゃん!」


 曲がり角から現れ、仁王立ちで立ちはだかったのは、学園の制服に身を包んだヨツバ。怒りの形相でミツバを睨んでいる。

 

「朝からいないと思ってたら、そんな格好をして何処に行っていたの!? しかも、なんでアマーリエ様と一緒に来てるの!」

「ご、ごめんってぇ! ちょっと色々やっててぇ……」

「あ、こら! アマーリエ様の後ろに隠れるな! ズルいじゃない! 私だって一緒に来たかったしくっつきたいのに!!」


 甘えん坊で泣き虫、そして内気だったミツバ。いつの間にか姉離れして、単独行動するようになった妹に対し、ヨツバの心配症は相変わらずだ。……いや、ミツバが活動的過ぎるから、当然の心配か?


 てへっ☆ と開き直っている妹に対して羨ましそうに地団駄踏む姉。

 名前呼びをしてるのとくっついてこないのは、後ろに控えている侍女がいるからだろう。ちゃんと公私の区別をつけた、健気な子だ。

 

「――二人とも、今日も元気だなぁ」

 

 まだ朝食の前だというのに、すでに全力で賑やかな二人を眺めながら、私は小さく笑っていた。

 

 王都生活、三日目。

 今日も今日とて、領地にいた時と同じように、姉妹の元気な声と共に始まるのである。


お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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