乳母の末路
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その後の取り調べでわかった顛末はこうだ。
私から降格か解雇を迫られたキャロラインは、彼女自身が語っていた目的を実現する為に、私を誘拐――彼女自身は”解放“だと言ってたみたい――を急遽敢行することにしたそうだ。
元々は、【アレルギー物質を少しずつ与えて継続的に体調を崩させる→原因は領主の仕事と周りに思わせる→領主の役目はアマーリエには重荷なのではと思わせる→領主を引退させる】という計画だったらしい。
それを始めたきっかけが、キウイのケーキを渡たこと……聞けば、ゼオン・フーリンの事で出かけた時に買ったお土産のことだったようだ。
私が、キャロラインのキウイ嫌いを知っている筈なのに、そんなことも忘れるくらいアマーリエは他のことに意識を向けすぎている。そんなのは許せない。とかなんとか……自己中が過ぎる。
というか、知らないよ、そんなこと。アマーリエの記憶にもなかったし。
その作戦を実行中、急に私が突き放すものだから、『侍女長を下ろされたら今までのように好き勝手できない。なによりアマーリエと離れるのは絶対嫌!』ということで、翌日に死なない程度に大量のナッツを摂取させ、私が何もできなくなった間に準備。誘拐を図ったそうだ。
突発的な計画犯罪といった所だろう。
そして、そんな計画に手を貸したのが、キャロラインの夫であるアムズ前伯爵だ。
馬車や逃走ルート、私と過ごす予定だった屋敷を用意したのは前伯爵、ボヤ騒ぎを起こしたのも彼の部下。全ては彼が立てた計画だった。
キャロライン逮捕の報をもたらされた前伯爵は、すぐに出頭。共犯であることを自供した。
何故キャロラインに協力したのか――取り調べで、彼はこう自白した。
『私とロラは隣領同士で、幼馴染でした。
初めて会った時に、私はロラの笑顔に一目惚れをして、私の方からお願いをして婚約者になったのです。
ずっと、ずっと、ロラだけを一途に思っていました。ロラも私のことを憎からずと思っていてくれていたと自負しております。
なのに――学生時代、自分の甘さと愚かさの所為で、ロラの心に取り返しがつかない程深い傷を負わせてしまいました。
何度も何度も謝罪して……なんとか結婚出来たとき、私は許されたのだと安堵していました。
だけど、キャロラインは私のことを全く許していませんでした。
――「私があなたと結婚したのは、バレンシア様の元に生まれるお子の為。私があなたを愛することは、未来永劫ございません」――
そう冷たい目で言われた日のことは、今でも忘れられません。なにをしても、どんなプレゼントを贈っても、大好きだったロラの笑顔を見ることは出来なくなってしまいました。
あの過ちを、後悔しない日はありません。
私はもう二度とキャロラインを傷つけないように、キャロラインの望むことを、望み通りに、好きなだけさせることにしました。
息子の養育を放棄しても。
王女アマーリエの乳母になると言っても。
降嫁したアマーリエ様に仕えると言っても。
孫の顔を見に来なくても。
伯爵家の屋敷に帰ってこなくても。
アマーリエ様の誘拐を企て、実行しても。
ロラが笑顔でいてくれるなら、本望でした。
……今回の件も、間違っている、大罪だと理解しています。
ですが、私に止めるという選択肢はありませんでした。
それでロラが喜ぶのであれば、私が断る理由はありません。
だって私は、ロラを愛していますから』
……良く言えば、愛のなせる業。
悪く言えば、激し過ぎる思い込み。
なんて悲しい、歪な似た者夫婦だろうか。
愛しているなら、犯罪を企てないように説得するべきだ。なのに、前伯爵は、後ろめたさを理由に何もしなかった。
それを愛のためと言い訳するのは身勝手な詭弁に過ぎない。
だって、何もしなかった結果、キャロラインは犯罪者になってしまったのだから。
本来、元王族であり高位貴族の私を害した罰は処刑一択。
だけど、被害者である私からのキャロラインのこれまでの功績――歪んだ教育ではあったが、愛情を持って育ててくれたことに免じて、命は奪わないでほしいという嘆願。それだけでなく、側妃バレンシアの嘆願もあって、なんとか死罪は免れた。
結果、キャロラインは身分剥奪の上、海の向こうの修道院へ。
前伯爵は、自首と全面的な協力が考慮され、身分剥奪の上、領内に幽閉となった。
割を食ったのはアムズ伯爵家若当主だ。
呼び出して取り調べた結果、若当主は誘拐事件に関与していなかった。だが、家長としての監督責任とキャロラインの減刑分が加算され、男爵家に降格。領地も一部没収となってしまった。
……まさか、キャロラインへの減刑がここに影響するとは思わず、若当主にはかなり申し訳ない。
被害者が元王女である私だったこと。
そして犯人双方が罪を認めたことで、裁きは驚くほど迅速に進んだのだった。
事件から、僅か二ヶ月。
全ての判決が言い渡され、刑が執行されるというその前日。
キャロラインは、亡くなった。
捕らえられてから、キャロラインは怒鳴っていたそうだ。
『アマーリエ様が許すわけがない』『アマーリエ様に会わせろ』『アマーリエ様が寂しがって泣いている』『アマーリエ様が』『アマーリエ様が』『アマーリエ様が』……と、殆どは意味のない、妄想が入り混じった独り言を、ずっと呟いていたそうだ。
昼夜問わず、刑を言い渡されても、ずっと。
そんな事を、壮年の女性が長い期間、続けられる訳がなかった。
刑が執行される前日、静かになったことに気付いた牢番が牢を覗くと、キャロラインは格子を掴んだまま亡くなっていたそうだ。
外傷はなく、毒物を含んだ様子もない。四十代という年齢を考えれば、あまりにも早すぎる死。だが、極度の興奮状態が続いたことによる心臓発作だろう、と検死した医者は語った。
——それが、王女の乳母だったキャロライン・アムズという女の末路だった。
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