光の玉
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ようやく、ようやくゴールが見えてきました()
――だけど、完全に暗転した訳じゃない。
まるで誰かが後ろから両手で目隠しをしてきたような温かさが、私の目元に広がった。
――……モウスコシダッタノニ……――
チッ――と舌打ちが響く。それは一瞬で消えたはずなのに、耳の奥にこびりつくような不快感として残った。舌打ちの後に聞こえた声は、男とも女ともわからない。だが、憎悪しか感じさせない声色に寒気が走った。
嫌な空気が辺りを漂っていたが、やがてすぐに消え去った。
後に残ったのは静寂と、目元に感じる温かさ……。
――あれ? 工事の音がしない? なんで?
『危なかったね』
背後から聞こえてきたのは、凛とした女の声。驚くことは驚いたけど、不思議と心が落ち着く、静かな声だった。
手が離れる。
するとどうだろう、世界は一転。私は何もない、白い、でもキラキラとした空間に立っていた。
なんだ、この謎空間。
「……どこ、ここ……?」
『どこでもないよ。強いて言えば、色んなこの世とあの世を繋げる境目の世界、ってところかな』
境目……?
声のした方に視線を向ける。
そこにいた……いや、あったのは、私の目線の高さに浮かぶ、金色に輝く掌くらいの光の玉だった……手は?
「……は?」
『初めまして。今は魂の名前である陸恵様とお呼びさせてもらおう』
「え、あ……は、初めまして。あ、あのあなたは」
『なかなかギリギリの所だったね。遅くなって申し訳ない』
私を転生させた神様ですか、と聞こうとしたのに被せるように光る玉が喋る。……いや、喋ってんのかな? 声とシンクロするように揺れるから、喋ってると検討をつけた。
「ギリギリのところ、とは?」
『アイツはね、陸恵様が今入っているその身体を乗っ取るつもりだったんだ』
「その身体?」
言われて気付く。陸恵の実は大分ガタがきてる身体じゃなくて、アマーリエの若々しい身体に変わっていた。
「戻った? 違う、またアマーリエになったのか?」
『ちょっと違うかな。今まで陸恵様はアマーリエ様になってるけど、本当の意味でアマーリエ様にはなっていなかったから』
「……は?」
『陸恵様がアマーリエ様になったのは、運命と言う名の偶然だった。だから、ちゃんと魂が定着できなかった。アイツはそれに気付いて、アマーリエ様の中にいる陸恵様の魂に、陸恵様が死んだ時の状況を体験させて、陸恵様自身に死んだ事を認識させようとしたんだ』
――……大分、衝撃的な事を言われる。
でも何故か、私の心は落ち着いていた。
だから、冷静に疑問を口にする。
「死んだ認識をさせるのが目的だっていうのなら、今私は自分の死を認識しました。アイツとやらの目的達成されてませんか?」
『でも、痛みや苦しみを感じていない。だから、本当の死を理解していない。だろ?』
否定できない。
確かに私は、死の間際、自身に降りかかる鉄骨を竹刀に、なんて例えるほど現実逃避していた。自分の死は理解したが、実感はない。
『本当に死んだ時とは違って、アイツは陸恵様に死ぬ間際の痛みと苦しみを味合わせるつもりだった。もしそうなったら、今度こそ陸恵様は心の底から死を理解しただろうね』
「……あの世界で痛みを感じていたのは、そういうことか」
拷問かよ。
あのままだったら、私は痛みで気が狂っていたかもしれない。ゾッとする。
『そう。そうして陸恵様の魂をアマーリエ様の身体から出して、自分がアマーリエ様に成り替わるつもりだったんだ。
でも、失敗した。
あたしのお陰でね』
光の玉がふん、と胸を張っているような幻覚が見える。
「そっか……誰かわからないけど、有難うございました。本当に助かりました」
『どういたしまして。
……ただ、一つだけ謝らないといけないことがあるんだ』
「? なんですか?」
『今、アマーリエ様の肉体は生死の境を彷徨っている。原因は、特定の食べ物を大量に摂取したからなんだ。アマーリエ様は、何か食べてはいけないものがなかったかい?」
「……ある」
確か、山間の村でナッツが駄目だってイーロンが言ってた。でも、料理人たちはそれを知ってるから絶対に料理にはいれない。万が一のことも考えて毒見されてる筈だ。
……解雇予定の使用人の誰かが、料理に混ぜて毒見をしなかった、とか? でも、まだ当人たちは自分たちが解雇されるかもなんて知らなかったよな……。
『それが原因で、アマーリエ様の身体と比例して陸恵様の魂も弱まっている。
その症状が治る薬も治療法もない。対処は摂取しないことだけ。
なのに現在進行形で、アマーリエ様の身体にはその食べ物が摂取され続けている。
このままだったら、アマーリエ様の肉体は使い物にならなくなる。そうなったら、幾ら陸恵様の魂があっても、生きることは不可能……』
「そんな……どうしたら……」
『――だから、陸恵様には本当に申し訳ないのだけど、陸恵様の魂とアマーリエ様の肉体を完全に定着させてもらった』
「……はい?」
肉体と魂を定着って……なんかいとも簡単に説明してるけど、そんなことできるものなの?
この世には不思議なことや科学的に証明されてないことはいっぱいあるとはいえ……。
……や、そもそも異世界だから、私が知ってる常識や知識なんて当てはまらない?
ということは、この光の玉、やっぱり異世界の神様かそれに近い存在なのか……?
『そのお陰で、アイツは陸恵様の魂に簡単に手出しできなくなったし、アマーリエ様の弱点である食べ物は弱点ではなくなった。これで目が覚めた時には、身体から毒素が抜けて自由に動けるようになっている筈だよ』
「……色々不可解なことはあるけど、めちゃくちゃ好都合な話ですね」
『ただ……』
「ただ?」
たった二文字の言葉で、不穏な空気が漂い出す。
『良いことばかりじゃないんだ。なんていうのかな、説明が難しいんだけど……身体はアマーリエ様の十六歳のだけど、中身は陸恵様のものになる』
「………………ん? ……それは、どういうことでしょう……?」
『うーん……あたしも、どう説明したらいいのかわからない。……あ、長い坂道を昇るのは得意?』
「得意という訳では……まあ、運動してるから同じ年齢の人よりはキビキビと動けると思います」
『あらそう……。と、兎に角、今まで十六歳の身体は軽かっただろうけど、これから感じるのは三十七歳の重さになるってこと!』
「……マジか!」
完っ全に理解した。
肉体と魂の完全定着。
メリットは魂強化とアレルギーが無くなる。
デメリットは三十七歳の体力になる。
ということか。
……え、なんだろう。きつくないか。
毒素が消えたからといって、今、外の世界? で起きてることに、三十七の肉体で対応できるのか……?
『あと、もう一つ』
「まだあるんですか」
『もう、陸恵様は元の世界には戻れない。魂は完全にこちらのものとなり、こちらの世界で転生をするようになる』
「……そうですか」
――めちゃくちゃ重要な話だった。
でも、私はそれをすんなりと受け入れていた。
だって”浅沼陸恵“は死んでしまったんだ。
魂が元の世界に戻ったとしても、もう、家族とは会えない。
寂しくないわけがない。家族との思い出が脳内を駆け巡る。ツン、と鼻の奥に痛みを感じて、目が潤んだ。
『……魂に直接攻撃を仕掛けたということは、失敗したとはいえ、アイツも結構力を消費した筈。だから、暫くはアイツも人々にちょっかいを掛けれないと思うから、安心して』
慰めるように、気遣いを感じる優しい声。
だけどその台詞に知りたいことを思い出す。
「あの、『アイツ』って……」
誰、と聞こうとした時に気づく。
光の玉が小さく萎み始め、点滅しだした。
「え、ちょ、なんで」
『時間が来てしまったみたい……まだ全然話が出来ていないのに……!!』
「ほんとそれなんですけど! なんとか時間延長できません!?」
『ごめ……な……さい……』
「声も途切れ途切れになってる! お願いだから待ってください!」
縋る私の叫びも虚しく、純白だった空間がじわじわと黒に侵されていく。
サラサラと、まるで砂の城が崩れる音。
身体がどんどん重くなっていくと同時に、どこかへ引っ張られる感覚。
抗おうとしても、指先一つ動かせない。
見えない何かに掴まれたように、意識が現実へと引き戻されていく。
『娘……たちを……お願い……陸恵……様……なら……』
娘たち?
「もしかして。あなたは……!!」
光の玉が弾けた。
その光が最後の輝きのように人の形を取っていく。
目鼻立ちもぼんやりと見えて。
その顔立ちに、見知った子供の面影を感じて――……
「――はっ!!」
私は、カッ! と目を見開いた。
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)




