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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 夢編 此方
第六章

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分かつ袂

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2026/3/31 カクヨムコン11中間選考突破作品


 ――そこまでの経緯を思い出して、私は瞼を持ち上げた。

 

 目の前には、カッと目を見開いたまま、怒りに身体を震わせているキャロライン。


 私が帰ってくるまでにやったことは一つ。 

 徹底的な『内部調査』だ。 

 公爵家の影を使い、貴族側使用人たちの監視と平民側使用人たちへの聞き取り――まあ、公爵家の影の一部は普段使用人として働いてるから、情報は集め易かっただろう。

 ちなみに私も影がどの使用人なのかわからない。集める時は手紙で呼び出しだし、会う時は顔を隠してるからね。多分、声も変えてる。

 外側にいる影と内側にいる影、両方からの視点で、私が屋敷に帰るまでの期間を調査してもらった。


 送られてくる報告書は、都度確認していた。

 ヨツバたちの言った通り、貴族出身者たちは平民出身たちに仕事を押し付けて遊んでいる輩が殆どらしい。

 

 転生発覚直後、館の主として管理をしなきゃと思いつつ、横に置いてしまったことが悔やまれる。

 ニーヴェルにも、平民出身者たちにも申し訳ない。

  

「近日中に、調査報告を元に面談した後、人員整理を行うからそのつもりでいて」

「そんな……何故、急に……。も、もしや、平民共から何か言われたのですか!?」

「そうだね。きっかけはそれ。でも、前々から気になっていたことだから、いい機会だったかな。というわけで、ニーナら三人の世話はタチアナに任せるから」


 タチアナはメイド長――悪ガキニーヴェルを連れ帰った時に、世話を任せた男児五人の母親。

 

「な、なぜわたくしではないのです!?」

「そこまで平民嫌いを宣言してる人に頼めるわけないでしょうに」

「それはっ! ……そうかもしれませんが……! ですが、侍女やメイドを束ねる長として、わたくしがしっかり管理すべきではありませんか!」


 ……その言葉が自分本位じゃなかったらどれだけ良かったことか……。


 執務机に置かれた調査報告書の束を指で叩く。


「管理、ね。まあ、管理できてない私が上から語るのは烏滸がましいけどね。でも、言わせてもらう。キャロライン、あなたはここに来るまで、周囲で動く使用人たちの姿を見た?」


 そう告げたものの、キャロラインはキョトンとしている。その表情は、彼女がどれほど周りを見ていないかを示していた。


「馬車から私の荷物を降ろしている時、貴族出身のメイドたちはわざわざ奥から軽い荷物を持ってさっさと屋敷に入っていってたのに対し、平民出身のメイドたちは重い荷物を運んでいた。

 この部屋に至るまでの廊下、面倒臭そうに掃除をしていたメイドが、私に気づいた途端取り繕うように掃除しだしたのに気付いた?

 ……気付いてたら、注意するよね。

 影から報告されたままのことが起きていた。本当に、少し周りに気を使えば、駄目な所は沢山見つけられた……なんて、つい最近まで何も見ていなかった私が言えることじゃないけどね。

 ……これでも、あなたが『しっかり管理している』と言い切れる?」

 

 言い逃れのできない事実を突きつけられ、キャロラインは金魚のように口をパクパクと動かした。そんな彼女を冷めた目で見つめ直し、私は本題を切り出した。 


「……良い機会だから聞きたいんだけど、キャロラインの平民嫌いって、稀代の悪女シャーリーンの所為?」

「!!」


 その名前を口にした瞬間、ピリッと空気が凍った。


 キャロラインの顔が、みるみる歪んでいく。


(……やっぱり、そうなんだ)


 稀代の悪女シャーリーン・デボラ。

 キャロラインや側妃(アマーリエ母)が学生時代にいた、平民上がりの男爵令嬢だ。

 他国の姫だったという触れ込みの娼婦の娘で、元姫だと言われても納得の、美しく愛らしい母娘だったらしい。

 シャーリーンは庇護欲の唆る愛らしさと母親譲りの手練手管で貴族令息たちを虜にしてハーレムを形成、学園でやりたい放題していたそうだ。


(まあ、よくある悪役令嬢ものに出てくる性悪ヒロインみたいな奴かね)


 だけど翌年、側妃――当時は侯爵令嬢が入学。

 侯爵令嬢(側妃)はシャーリーンとは逆に、大人の魅力溢れる美女で、かなり気の強い性格だったらしい。

 

 で、そんな対極の二人が出会って、バチバチにやりあった結果……現王がバックにいる侯爵令嬢(側妃)の圧倒的勝利。

 

 本人やデボラ男爵家の数々の罪が明らかになり、家族共々処刑されている。

 

 その余波で、婚約破棄や関係悪化が相次ぎ、貴族社会は大きく荒れ、密かに魔の世代なんて言われていたりもする。

 その出来事がきっかけで、その世代の令息令嬢を始め、その世代の子供を親に持つ貴族の多くが平民嫌いとなったと言われている。

 

 そうして付けられた蔑称が、『稀代の悪女シャーリーン』だ。

 

「……その反応を見るに、やっぱりそうなんだね」 

「い……幾ら、アマーリエ様とて……そ、その名を出すことは……ゆ、許されません……! あ、アマーリエ様が、穢れてしまいますよ……!!」


 ……一体、どれほどの激情を我慢すれば声も身体も震えるんだろうか。キャロラインは般若の様な恐ろしい形相に変貌。それでも相手が私だからか、今にも怒鳴りつけたいのを我慢しているようで、その顔は酷く歪んでいる。

 

「忘れたい過去の話を持ち出してごめん。

 私には想像も付かないような苦労があって、平民嫌いになったのかもしれない。

 でもさ、問題があったのは彼女だけでしょう? 

 他の平民は関係ない。現に、彼女が現れるまでは貴族も平民も、それなりの関係が築けていた筈。

 キャロラインだって、仲良かった平民の人がいたりしなかったの?」

「……いません! 我々貴族がいなければ何もできないような存在が、貴族と仲良くなどあり得ませんわ!」


 返ってきたのは、否定ではなかった。 

 あったものを無かったことにする、強い、強い、強過ぎる、悲しい拒絶。

  

「……そう」


 きっと、無垢な頃のキャロラインにもいた筈だ。

 だけど、彼女はその存在を、たった一人の悪の所為で消してしまった。

 そこまで断固として心を閉ざされてしまっては、私が差し伸べられる言葉は、もう残っていない。


 私と彼女の間に決して越えられない境界線が引かれたような気がした。

 

 失望と諦観を含んだ溜息を吐いて、切り替える。

 

「確かに、平民は統率者がいないと回らない所もある。でも、貴族だって平民がいないと衣食住に困るでしょ。私たちが食べてるもの、着てるもの、住んでいるところ、作ってくれたのは平民たちだ」


 以前起きた、山間の村で起きた諍いは、領主の私が出たことであっという間に解決できた。その時のことを思い出しつつ話を続ける。

 

「お互い持ちつ持たれつで、無いものを補って支えあって行くのが人間だと私は思っている。

 私はこの屋敷の中でもそうだし、領民たちともそういう関係になりたい。

 そして、争いのない、穏やかで平和な生涯を送りたい。

 私のささやかな願いに、キャロラインも協力してほしい。過去の遺恨を忘れて、皆で助け合って生きていけたら……と、そう思っていた」


 キャロラインは何も言わない。

 ただ、強張った顔で私を睨んでいた。

 

「人は、誰しも消せない傷を持っている。それを乗り越えることが出来るのは自分次第。他人が口出しや無理強いすることじゃない。

 キャロラインにも事情があるんだとわかったから、これ以上無理を言うつもりはない」


 キャロラインが少しホッとして、身体の力が抜けたのが見えた。

 

「でも、私も平民たちも大切にしたいという考えを変えるつもりはない。

 ……私達の考えは、多分、交わらない」


 そう告げて、静かに瞼を閉ざす。

 アマーリエ・バルカンを育て、支えてきた情――私にはない、本来ここにあったはずのそれを、私の勝手で断ち切ることに申し訳なさを押し殺すように。

  

「……アマーリエ様。まさか、わたくしを……」


 喘ぐような、弱々しい声が耳を打つ。

 私はゆっくりと目を開け、キャロラインを真っ向から射抜いた。 

 

「せめて、キャロラインが更生したと言ったあの日から、侍女やメイドたちをきちんと纏めあげてくれたら、話は違ったかもしれない。

 でも、キャロラインも他の使用人と同じ。変わったのは私の前だけで見せる姿と口先だけ。 

 侍女とメイドを纏める立場として、相応しくない。

 よって、キャロライン・アムズ。あなたには侍女長の立場を下りて頂く」


 ――きっぱりと、役職降下を宣言した。

 愕然とした表情で私を見ていたキャロラインだったが、視線が徐々に下に下がり、手もぶらんと投げ出した脱力状態で立ち竦んでいた。


 ……暫く待ったが、言い訳も謝罪もない。

  

「……普通の侍女として残るも、辞めて家に帰るも自由だ。どちらにしろ、ちゃんと見合ったお金も出すから、ゆっくり考えて――」

「失礼します」


 私の言葉を遮るように、キャロラインは頭を下げ、踵を返した。

 そのまま一度も振り返ることなく、足早に部屋を出ていく。

 

「……調査のこと、私は聞いておりませんでしたが?」


 キャロラインの足音が遠ざかると、背後に立つパーシーが口を開いた。


 そう、何を隠そう、今回のことはパーシーにも詳細は伏せて調査させてもらっていた。彼は一緒に来てるから、使用人たちからの聞き取り調査しかできなかったけど。

 

 でもパーシーに関しては、ちょっと堅物が過ぎるとか厳しいとか些細な愚痴が出たくらいで、今回の調査内容においては全く問題無しである。

 

「ニーナに相談されて、ニーヴェルを守るために自分の側に置いてたんでしょ。その時点で信用はしてたけど、まあ、一応、平等を期すためにね。……怒った?」

「……いえ。忖度することなく、素晴らしい御心構えでございます」


 そういうものの、すんごく難しい顔してない?

 ホントに怒ってないのかなぁ。

 結果読ませてほしいと言われたから報告書を渡す。


「しかしながら、キャロラインの対応については先に話をして欲しかったところです。キャロラインが該当の使用人に話を漏らして逃げられる可能性もありましたからね」

 

 ペラペラと捲って読み、捲っては読みを繰り返した後に言われたその言葉に、私はハッとした。

 

「あ……そ、そうか、ごめん。ニーヴェルのことでちょっと頭に来すぎて、とにかくやってやろうと焦っちゃってた……」

「以前よりはしっかりしてきたようで、まだまだでございますね。キャロラインには見張りを付けておきます。人事の件は、明日から取り掛かりましょう。本日はゆっくりとお休みください」

「うん、ありがとう」


 こうして、帰還後の一仕事を終えた私。

 パーシーの言葉通りゆっくりと身体を休めることができた。

  

 ――翌朝。

 いつもと変わらない朝食の席で、私はスープを口に運んだ。

 

「……あれ?」

 

 舌に――いや、あっという間に口の中全体に広がった違和感。


 味がおかしいわけじゃない。ただ――何かがおかしい。

 

 そう思った瞬間、視界がぐらりと揺れた。

 

「アマーリエ様?」


 パーシーの声。呼びかける声が遠い。

 

 手からスプーンが滑り落ち――

 

 そのまま、意識が途切れた。

 

お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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