人間が強く優しく生きるために必要なもの
ピリポに連れてこられたのは市が運営するスポーツ公園だった。
体育館があり、陸上トラックがあり、プールがあり、芝生広場がある。
芝生広場の端には林が広がり、その一画に四人の男子高校生たちがいた。
気弱そうな一人を残りの三人が取り囲んでいる。
どこからどう見ても、仲良く遊んでいる風には思えない。
木陰に身をひそめ、ピリポとカヤはその様子をうかがっている。
「あの人を助けるんですか?」
「まあ、見てて」
そう言ってピリポは天使の羽根をバサッと広げる。
そして、高校生たちにスタスタと近づいていった。
「君たち!」
ギョッと振り向く高校生たち。
そこに天使がいるのを見て、さらに驚愕したようだ。
「いじめなんて、一銭の得にもならないぞ!」
(さっき、お金は堕落のもとって……)
とカヤは小さく眉をひそめる。
しばらく唖然としてピリポを見ていた高校生たちだが、やがて
「ぷっ」
と吹き出した。
「なんなの、この人?」
「羽根つけてるよ」
「イタイ人物か?」
と口々にピリポのことをバカにする。
助けを求めてしかるべき気弱そうな男子高校生もポカンと口を開けている。
(ピリポさん……)
カヤが気の毒に思ったとき、高校生たちは急に大声を出す。
「うるせーよ。邪魔すんな!」
「羽根ちぎったろか!」
「向こう行ってろ!」
「………」
ピリポ、回れ右してスタスタスタと戻って来た。
背中の羽根が心なしかしおれているようだ。
「大丈夫ですか」
「全然」
と平気そうに言うが、少し涙目になっていた。
平気であることを強調するために口笛を吹くが、かすれていた。
「いまのように説得が通じない場合は、これを使う」
と、次は弓矢を取り出した。
「あ。天使っぽい」
「だろ?」
「でも、弓矢を持つのはキューピッドだと聞きましたが」
キューピッドはギリシャ神話の神様で、天使は神様の使いだということをカヤはネットで調べていた。
その疑問をピリポは一言で退ける。
「カタイこと、言いっこなし!」
「………」
そして三種類の矢を見せる。
矢尻にはそれぞれ「自立」「共感」「反省」という文字が刻まれていた。
「これはそれぞれ人の心に自立・共感・反省をもたらす矢なんだ」
「自立と共感と反省……?」
「人間が強く優しく生きるために必要なのは、自立・共感・反省のバランス。ひとつでも欠けると心が歪む」
「なるほど」
「この矢は、その歪みを矯正するものだと考えてもらっていい」
自立の矢を射たれた者は自立の心を取り戻す……といったことなのだろう。
「いまの彼らに欠けているものはなんだと思う?」
「……反省ですか?」
「違う。共感だ!」
キリッと言ってピリポは共感の矢を弓につがえ、高校生たちに向けた。




