選択肢が一つしかないなら、迷う必要はない
「店長室」
とドアプレートのある部屋に通されたカヤは勧められた椅子に腰を下ろしている。
その正面にはデスクに座った中年の男性。制服の下からワイシャツとネクタイがのぞいていた。
デスクの上にはパソコンがあり、分厚いファイルがあり、部屋の隅には段ボールが積まれていた。
スーパーマーケットの店長は柔和な笑みを浮かべながらカヤの話に耳を傾けてくれている。
実は父が会社を辞めて、生活費の足しにしたいと思って、アルバイトを志望しました……。
話し終えた後、店長は申し訳なさそうな顔をして言った。
「空野さんですか。あなたは、中学生なんですね?」
「はい。二年生です」
「生憎ですが、中学生はアルバイトができないんですよ」
「え、そうなんですか?」
「法律で決められていましてね。例外は新聞配達と子役」
「子役? タレントってことですか?」
「そうですね」と店長はカヤをニコリと見て言う。「空野さんなら可能性はなくもないとは思いますが、まあ現実的なことを考えると、新聞配達ですかね」
「分かりました」
「選択肢が一つしかないなら、迷う必要はない」
そう思ったカヤはスーパーマーケットを出たあと、新聞配達店に向かう。
確か、駅前に一軒あったはずだ。
夕刊の配達を終えた従業員たちが「お疲れっした」と言いながら、三々五々帰っていく。
「ああ、お疲れー」
とそのたびに声をかける店主とカヤは狭い店内で立ったまま向き合っている。
米袋の入ったエコバックが肩に重く感じられるのは、ここでもまた断られたからだ。
「申し訳ないけど、人は足りてるんだ」
「……そうですか」
「そういう事情なら、なんとかしてあげたいんだけどさ。でも中学生は朝刊の配達ができないんだ。法律的に」
(また法律)
「夕刊の配達なら中学生でもできるんだけど、夕刊を取っているお宅は少なくてねえ。朝刊自体もどうなることやら……。ねえ、君のところ新聞とってる?」
と最後には勧誘をされてしまった。
「ヘイ! そこのお嬢さん、時間ある?」
と声をかけられたのは、駅前のさびれた商店街をうつむいて歩いている時だった。
カヤは顔をあげ、声の主を見て、またうつむいて歩き続ける。
「え、まさかの無言スルー? いやあのちょっと」
と男が追いかけてきた。
ウェーブのかかった金髪。
どこか西洋の彫刻を思わせる整った顔立ち。そして甘い笑顔。
それでいて軽薄な感じがする言葉遣い。
(チャラい)
相手にしても決してロクなことはないだろう。




