失業手当が切れるまでにはマンガ家に!
もしかすると、父は母の死をきっかけにして人生について考えるところがあったのかも知れない。
「一度限りの人生。夢は実現しなければ!」
とか。
動機としては手垢がついたものだが、意外に現実というのはそういうものなのかも知れない。
この一か月、父はほとんど外出をせず作品をせっせと描き続けた。
本気だということは、その様子からも分かった。
(だけど)
とカヤはため息混じりに思う。
(古いんだよねー)
父の作品にはよく姉妹が出てくる。
いま読んだ作品のサユリはきっと私がモデルだ、とカヤは思う。
サユリの母親も、きっとお母さんがモデル。
でも、おねーちゃんは想像の産物。
なぜなら、カヤは一人っ子だからだ。
(お父さんはもう一人、子どもが欲しかったのかも)
と、カヤは父の作品を読むたびにそう思う。
「そっか、ちゅどーんはダメか……」
と原稿を見ながらつぶやいている父にカヤは言った。
「とにかく、ごはん作るね。お腹、空いてるんでしょ?」
「うん。もう、ペコペコ」
カヤはテーブルに手をついて「よいしょ」と立ち上がり、隣室のキッチンへ向かう。
手早くエプロンの紐を後ろでくくった後、米びつを開けた。
「……お父さん。お米、ないんだけど」
「ズコーッ!」
「買っといてって言ったでしょ!」
「ちゅどーん」
近所のスーパーマーケット。
カヤは左手に持った黄色のカゴに三キロ入りの米袋をドサリと入れた。
その後、精肉コーナーへ行き、豚のバラ肉と鶏肉のササミのパックを追加する。
牛肉はいつものように素通りだ。
「失業手当が切れるまでにはマンガ家になってみせる!」
とガッツポーズをする父親の姿が脳裏に蘇るが、その望みが叶うのはほぼ絶望的だと思っている。食費は少しでも削りたい。
カヤはレジに向かい、並んでいる人の少ない列の最後尾につく。
並んでから気づいた。
レジの女性の胸には「研修中」のプレートがあった。
列が少ないのは、研修中であるがゆえにレジ操作に不慣れで、そのぶん時間がかかると他の買い物客が判断したからだろう。
「ま、いいか」
とカヤは退屈しのぎのスマホを取り出そうとして、ふとレジ脇のPOPに気づいた。
そこには「レジスタッフ大募集!」の文字が踊っていた。




