やっぱり僕が見込んだ人だけのことはあったね
「いずれにせよここでお別れだな。話ができて楽しかったぜ」
「……これからどうするんですか?」
とトキオが聞く。
「天使になれれば、それでよし。ダメなら、その時のこと。なに、なんとかなるさ」
そう言ったデビーの背中から黒い羽根がバサッと広がった。
「じゃあな」
軽く手を振り、空へと飛んでいく。
カヤは周囲に目をやったが、誰も気づいた様子がない。
「ああいうのって、まわりは見えないんですか?」
「可視不可視のコントロールはそんなに難しくないの。私だってそうだし」
「じゃ、僕もそろそろ」とトキオが二人に頭を下げる。
「今日は試験のおかげで動くことができて良かったです。あ、僕はいつもサケノハラ駅前の交差点にいますので、いつでも遊びに来てください。もっとも、見えないとは思いますが」
と言ったあと、ふっと消える。
「あーあ。私はまた兜率天か……。ね、カヤカヤは落ちたらどうするの?」
「そうですね……何か考えます」
とは言え、あてはなかった。
「うまくいくといいね。じゃね!」
ミロクはふわりと宙に浮き、半跏趺坐の姿勢を取ったまま昇天していった。
カヤはぽつんとたたずみながら、その姿を見送る。
街の全景が夕焼けに染まっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
天使のアルバイト採用試験を受けて一週間が過ぎた。
そのあいだ何の連絡もなく、カヤはいつもの日常のなかにいた。
父のために食事を作り、父の描いたマンガにダメ出しをし、学校に通い、部活に汗を流した。
あれ以来ピリポは姿を現さず、もらった羽根を振っても何の反応も示さなかった。
選考が長引いているのか、それとも不採用になったのか……。
おそらくは後者だろう、とカヤは小さくため息をつく。
カヤが自室で宿題をしていたときだ。
スマートフォンが「ピロリン」と音をたて、画面にメッセージの通知が表示された。
見ると「あなたに祝福を」と書かれていた。
「?」
それは採用を知らせるメッセージだった。
翌日は土曜日で学校も部活も休みだった。
カヤは再び本郷帝都大学を訪れていた。
スマホに届いたメッセージに、そう書かれていたのだ。
次の土曜日、午前九時に本郷帝都大学の赤門の前で待っていること。
平日ではなくて良かったと思いながらカヤは指定された場所で待つ。
「やあ、おめでとう。やっぱり僕が見込んだ人だけのことはあったね」
と軽い調子で背後から声をかけてきたのはピリポだ。
試験を受けた者はピリポが集めたのだから、いまのセリフは誰に対しても使えるものだとカヤは思ったが、もちろん口には出さない。




