親が自分の人生を生きることで子供は安心します
「でも、どうして地縛霊に?」
とミロクが訊ねる。
「スマホ運転の人に……」
「交通事故? 最近、多いよね」
「せっかく公務員試験に受かってたのに……」
とトキオは唇を噛む。
「それが一転して地縛霊か。格差社会だな」
たぶんデビーは言葉を理解しないまま使っている、とカヤは思う。
「この試験に落ちたら、また地縛霊に逆戻りです」
がっくりとうつむくトキオ。
その身体つきとは違って、どうやらメンタルは繊細らしい。
そんなトキオの様子を見て、カヤは思う。
(そうか。私は天使になれなくてもすぐには困らないけど、トキオさんは……)
デビーやミロクも自分ほどではないにせよ、そんなに切羽詰まった状況に陥っているとは思えない。
だったら、ここはトキオさんに合格してもらった方がいいかも知れない。
霊として、ずっと同じ場所に縛り付けられているのは、どう考えてもやるせ無いことだろう。
カヤがそんなことを考えていると、教室のドアが開き、先ほどノーエルの助手をしていた天使の一人が顔を出した。
「面接を始めます。まずは近藤トキオさん、こちらへ」
「はい」
トキオは助手の天使の後について、教室を出て行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カヤは机を挟んでノーエルと向き合っている。
ノーエルはカヤの解答用紙を手にして、いくつか質問をしてきた。
質問内容は「なぜこの答を選んだのか」ということに終始した。
「これが最後です。この問6ですが、息子から家庭内暴力を受けている母親に対して“自立”を選んでいますね。なぜですか?」
「私はこの母親が子供に依存していると思いました」
「ほう、それで」
「ここで“共感”を選ぶと息子の暴力を肯定することになります。これまでと同じで甘やかしているだけです。“反省”も、母親が自分を責めることになるだけです」
「では“自立”なら?」
「親が自分の人生を生きることで子供は安心しますし、自身も自立を目指すようになると考えました」
「なるほど、わかりました。面接は以上です」
カヤは「ありがとうございました」と頭を下げたあと、ややためらいがちに言った。
「あの、質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「今回、採用されるのは何人ですか?」
「予定は一名です」
「そうですか……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
面接を終えた四人がキャンパスの一画で立ち話をしている。
「そうか。一名とは厳しいな」
とデビーが言った。
トキオがため息をつく。
「……きっと、地縛霊に後戻りです」
「まだ落ちたとは決まってないわよ」
とミロクが慰めるかのように言う。




